【愛の◯◯】みんなかわいいバンドガール

 

「――いいの? ほんとうに。わたしが、あすかちゃんのバンドに混ざっても」

「いいんですよ。今回は、キーボード担当が居てくれたほうが大助かりだし。フジファブリックをコピーするんですから。ぜひとも、おねーさんのお力添えを……と」

 

フジファブリックの初期曲を演るらしい。

つまりは、志村正彦が生きていたころの楽曲。

2000年代邦楽ロック大好きっ子だねえ、あすかちゃんは。

 

「だれに似たのやら…」

 

「?? なにか言いましたか、おねーさん」

「ごめん。ただのひとりごとだよ」

「おねーさんがひとりごとなんて、比較的珍しい」

「そうでもないわよ」と苦笑い。

そして、「出発しようよ、あすかちゃん」と告げる…。

 

× × ×

 

そういえば、ライブハウスのステージに立つのって、生まれて初めてか。

 

わたしがあすかちゃんといっしょに姿を見せると、なぜか、残りのバンドメンバー3人が、色めき立つ。

そんなにわたしが待ち遠しかったの。

 

「わたしが来るのが――そんなに楽しみだったの? みんな」

 

もちろん!!

 

ハモって言う3人。

 

「あすかちゃん……あなたはこの子たちに、なにをしゃべってたの」

「えへへっ♪」

「あ、あすかちゃんっ」

「大丈夫です。不都合なことは、なんにもしゃべってませんから」

 

愛さん! 自己紹介させてくださいよ」

「えーっと……あなたは」

「奈美です。ボーカルの奈美です。英語が苦手です」

 

奈美ちゃん、か。

 

奈美ちゃんのとなりにいた子が、

「もーっ、なにが苦手かじゃなくって、なにが得意かで、じぶんを語りなさいよ」

「うぐ」と奈美ちゃん。

たしかに。

「次は、あたしが自己紹介する番ね。

 あたし、レイっていいます。見ての通り、ベース担当。

 得意教科は、英語でした」

 

「え!? レイ、英語が得意だったの」と奈美ちゃん。

「隠しててごめん。奈美とは、真反対だね」

しょげる奈美ちゃん。

がんばれ。

 

「最後の自己紹介は、わたしですね」

「あなたは、ドラム担当?」

「そーです。ドラムスです。ちひろ、っていいます

 得意なスポーツは、ソフトテニス

 

え、ほんと!? ちひろちゃん。

 

ソフトテニスやるの、ちひろちゃん! わたしもテニスは大得意で……」

「存じております」

「え、え、どうして」

「あすかが、愛さんの得意なスポーツを全部、言ってくれて――」

 

思わず、あすかちゃんに流し目を送るわたし……。

 

「勘弁してくださいよ、おねーさん。弱点をバラしてるわけじゃないんだから、容赦して」

オトナなわたしは、

「……そうね。

 こんなことで、腹立てなんかしないよ。

 もうケンカなんてしないって、約束したんだし……」

 

「優しいですね、愛さんは」とちひろちゃん。

「ほんとほんと。あすかに対する、愛さんの、愛だ」とレイちゃん。

 

「ありがと、ふたりとも」とわたし。

 

唐突に、奈美ちゃんが、

「いまの、愛さんの笑顔……信じられないくらい、キレイ」

 

「そ、そう見えるの!?」

 

「大学生なんですよね」

「うん……そうよ」

「キャンパス歩いてたら、ナンパされたりしませんか?」

 

ギクッ。

 

「な……奈美ちゃん、カンがいいのね、あなたって」

「だってー。通りがかったひとが思わず振り向くぐらい、愛さん美人なんだもの」

 

「こらっ、奈美、余計なこと言わない!」

「あすかはきびしーなぁ」

「詮索しないの! とっととリハーサル、リハーサル」

 

…『ソリッドオーシャン』というバンド名だけれど、

「バンドの実権は、だれが握っているの?」

「じ、実権!?」とあすかちゃん。

「イニシアチブ、って言い換えてもいいけど。

 見たところ……あすかちゃんが握ってるっぽいよね、イニシアチブ」

 

「おねーさん……そんなことは、後回しです。リハーサル、リハーサル」

「わたしは、あすかちゃんの後方支援部長か」

「なんですか……後方支援部長って」

 

しおれるあすかちゃん。

シオシオになってるヒマ、ないよ~。