朝食のほとぼりもさめたあとのダイニングテーブルにて『青春(せいしゅん)スポーツ』を熟読している。愛すべき妹分のあすかちゃんが記者として勤めているのだから、紙面に隅々まで眼を通さないワケが無い。
競馬面。あすかちゃんのコラムが掲載されている。入社1年目にして執筆者に抜擢されたあすかちゃんのコラムが占める規模は小さくない。新人記者が担当するコラムとしては異例の長文は読み応えタップリだ。
つい先日、メイショウタバルが宝塚記念を連覇した。メイショウタバルのお父さんはゴールドシップ。今日のコラムにおいてあすかちゃんは、ゴールドシップの牝系(ひんけい)をピックアップしている。
ゴールドシップの牝系は実は由緒正しき牝系で、8代母の「星旗」は1931年に官営の下総御料牧場(しもうさごりょうぼくじょう)がアメリカから輸入した繁殖牝馬であるという。
「星旗」が産んだ「月城」、「月城」が産んだ「梅城」、「梅城」が産んだ「風玲」……と、ゴールドシップの血統表の8代母から5代母の欄には漢字2文字の馬名が記されている。カタカナや西洋語だけじゃなくて漢字も血統表に記載されてるなんて面白いわね。
ゴールドシップは気性が激しくてとてもヤンチャなイメージがあるけど、実は由緒正しき家系であるというワケで、いわゆる「ギャップ萌え」みたいなモノを感じてしまう……と、あすかちゃんはコラムの後半部分で述べている。
× × ×
土曜朝のテレビ番組を見ながら筋力トレーニングしていたアツマくんがダイニングテーブルに接近してきた。
スポーツドリンクのペットボトルを右手に持ったアツマくんがわたしの向かい側に着席する。
わたしは、すぐさま、
「あすかちゃんのコラム、読んであげなさいよ。今日のはスゴい力作(りきさく)なのよ?」
と言いながら、あすかちゃんのお兄さんたるアツマくんに『青春スポーツ』を差し出す。
受け取るアツマくんに、
「たぶん、あすかちゃんは今日のコラムを書くために相当勉強したんだと思うわ。もしかしたら、西新橋の『Gate J.』って施設まで出向いて資料を漁ったりしてたのかもしれない」
と言い、
「あなたには真似できない勉強熱心よねぇ☆」
と、イジワルに笑いながら言い放ってあげる。
言い放たれた「お兄さん」は一旦は紙面に眼を凝らすものの、短時間で視線を上げてしまう。
「ちょっとちょっとー。もっとちゃんと読んであげなさいよー、あなたの実の妹が書いてるコラムなのよ?」
「……あとで、ジックリと読んでやるから」
「長文読むのが面倒くさいってワケじゃーないわよねー」
「違うから。あいつが相当頑張って書いた文章なのなら、時間をとってジックリ読んでやらんといけんと思うし」
「あなたってそこまで妹思いだったの!?」
「やめーや、いきなり大声出すのは」
「だって、ビックリしちゃったんだもの」
「おれの発言のどこに驚く要素があったというのか」
例によって疑問に取り合わないわたしは、
「読んだあとで、あすかちゃんに感想を送ってあげたら? LINEとかでいいから」
「感想、ですか」
「そーよ。あすかちゃん、きっと喜ぶわよ」
「それなら」
わたしに向かって視線をまっすぐ伸ばしてくるアツマくんは、
「できれば、自分の妹の上手なホメ方を、おまえに教えてもらいたいんだけど」
あらぁー。
ずいぶんと真剣な眼つきで言ってくるのねぇ。
妹思いなのが眼つきから伝わってくるから……わたし、上手なホメ方だけじゃなくて、あすかちゃんを喜ばせる方法、たくさんレクチャーしてあげたくなってきちゃったわ。