【愛の◯◯】思ったよりケンカする? わたしとあすかちゃん

 

「アツマくん、昨日は、ごめんね……」

「おー」

「……『おー』って。反応、微妙」

「ふふん」

「アツマくんっ!」

「――すまんすまん。

 まあ、よかったよ。

 めでたくおまえとあすかが、仲直りできて、さ」

「アツマくんの言ったとおり。わたしが、幼かった。

 あすかちゃんをあんなに突っぱねる必要もなかった」

「んーーっ、

 実は、さ、

 おれのほうも――おまえに厳しすぎたかも……って、反省していて」

「反省なんてしなくていいよ」

「いや。

 おまえを、責めてるみたいに、なっちまってたから」

「責められるのは当然。わたしに責任あったんだから」

「だとしても……ごめんな」

「……」

「愛? どうした」

「……」

「な、なんかいえ」

「優しいね、アツマくんは……。優しい」

「そっそうか? ――照れるな」

「優しい。優しいったら、優しい」

「なんじゃいそりゃ」

「――、

『優しい』って言いすぎちゃった。『優しい』のオンパレードだ」

「オンパレードって」

「――読者のみなさまが、ゲシュタルト崩壊してないか心配」

「コラ、愛っ、そーゆーことは言わない」

へけっ☆

ハム太郎のモノマネもNGだ

 

× × ×

 

「……にしても、おまえがハム太郎知ってるなんて意外だったな」

「不都合でもある?」

「いや、そういうわけでは…」

「ならいいじゃない」

「…はい」

 

「今後、おまえの口からどんなモノマネが飛び出すか乞(こ)うご期待なわけだが……」

「なによそれ」

「……それはそうとしてだ」

「?」

「おれは思ったんだ。

 愛と、あすかって――、

 意外と、ケンカするよな?

 

「どうしてそう思ったの……アツマくん」

 

「びっくりしてんなぁ」

「だって、だって!

『意外とケンカする』っていうあなたの認識自体が、意外だったし」

「……おれだって、ずっとおまえとあすかのコンビを見てきてるわけだよ」

「『コンビ』……?」

「コンビだろ、なかよしコンビ」

「……ただのコンビじゃないよ、わたしとあすかちゃんは」

「――かもしれないな。

 とくにあすかは、『おねーさん』と、おまえを実の姉のように慕っていて…」

「…わたしだってあすかちゃんを、大切にしてるよ」

「――わかってる。

 基本、とってもなかよしなんだ。それは、わかる。

 でも、ときどき、こじれる」

 

「……」

 

「ことばが出てこない、ってことは、痛いところを突かれた、ってことだな」

「……。

 こじれても、また、元通りになるもん」

「ああ。

 かならず……おまえらは、元通りになる。

 そんな、おまえらの関係が……おれは、微笑ましい」

 

「微笑ましい――」

 

「ま、これからもあすかをよろしく頼むぜ、愛」

 

「――待って、アツマくん」

 

「悪い、バイトには遅刻できないんだ」

 

「でも――!」

 

「そろそろ行かないと、バイトに間に合わんのでな。

 だから、きょうの記事は、文字数的に『短縮版』になった。

 あしからず」

 

……いじわるっ

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】愛、おまえのほうから、あすかに謝るんだ。なぜなら――

 

「アツマくん、お昼ごはんできた」

愛が、呼んできたので、

「わかった。おれ、あすかを呼んでくるよ」

と言ったところ、

なぜだか――、

愛の顔色が急変し、

 

「――呼べば?」

 

と、吐き捨てるように言ってきたのである。

 

「え……あすかのぶんも、作ってるよな??」

 

しかし、

 

「……いちおう」

 

怒ったような――捨てゼリフが、愛の口から発せられた。

というか、

99%怒ってるだろ。

しかも、

あすかに、対して――!?

 

× × ×

 

ともかく、あすかの部屋の前まで出向いた。

ノックしてから、

「おーい、愛が、昼ごはんできた、ってよ」

と声かけした、

のだが――、

 

『わたし、いい』

 

と、あすかが昼ごはんを拒絶。

 

『下(お)りたくない』

畳みかけるように言う、妹。

 

下りたくない、って――、

 

愛と、顔を合わせたくない。

 

そういう、意思表示に、違いない……!!

 

× × ×

 

「なんか、あすかのやつ……食べたくないって」

ハァ!?

 

愛、マジでキレてる。

 

なんなのよ、あの子!!

 

そこまで、キレるって、

普段なかよしのふたりのあいだに、

いったい、いったい、なにが……!?

 

「……ケンカか!?

 おれがおまえらから眼を離したスキに、なにがあったってんだ」

「……アツマくんの問題じゃないでしょ」

 

やにわに付けていたエプロンを外し、

そのエプロンを愛は、

キッチンの床に叩きつけた。

 

 

× × ×

 

おいおい。

日曜なんだぞ。

シャレになんねーぞ。

久しぶりに、昼飯の味もわからなかったが…、

とにかく事情聴取だ。

愛に構わず、あすかの部屋にふたたび行き、妹から話を聴くのだおれは。

 

 

いちおうノックはしたが、

「入らせてもらうぞ、兄貴の権限だ」

 

そして、ドアをガチャリと開けて、妹の部屋のなかに。

妹もなにやらガチャガチャと片付けみたいなことをしている。

 

「なにしてんだ」

「見たらわかるでしょ。ムシャクシャしてるって」

「……は~っ」

「なんなの!? 間の抜けたため息ついて」

「お兄ちゃんはな、警察なんだ」

「意味わかんない」

「愛とイザコザを起こした容疑で、あすかを事情聴取する」

 

眉間にシワを寄せるあすか。

 

「ほら、そんな顔すんな。大人しく事情を話せ」

「……」

「このままでいいのか? よくないよな?」

「……」

「『より』を戻してくれや、愛と」

「……」

「だから、お兄ちゃんに、なにがあったか話してみなさい」

「……一人称に、『お兄ちゃん』を使うのを、やめてくれたら」

 

× × ×

 

――、

そんな、

些細なことで、言い合いに。

 

「なんでそれで、ここまでこじれるんだよ」

「――愛さんが、無神経だって思ったから」

「面と向かってひとこと詫びれば済む話に思えるが?」

「どっちが!? どっちが詫びるってんの」

「いや、どっちからでも……」

「……愛さんが悪い」

 

いつもの『おねーさん』ではなく、

『愛さん』呼びになってる。

 

……怖ぇ。

 

「――ケンカは両成敗が原則じゃないのか?」

「だめ。ゆずらないから、わたし」

ゆずれない怒りか。

しかし、

むごいようだが――、

「アツマ警察の強権を発動する」

「……なに言い出すの!?」

「おれの部屋に来い」

「なんで」

「来るんだよっ!

 おれの部屋で、愛と顔を合わせるんだ。

 和解しろ!

 でないと、おれが……許さん」

 

 

× × ×

 

「なんでわたしまでここに呼ぶのよ…」

来たとたん、愚痴を吐く愛。

 

あすかに加えて、愛もおれの部屋に呼び寄せた。

 

ふたりは距離を取って床座り。

互いの顔を見ようともしない。

 

「…いま、おれは裁判官だ」

 

はあぁ!?

 

ふたり同時に声を上げる。

なんだよ……そういうところは息ピッタリじゃねぇかよ。

 

「このケンカは…どっちも被告人みたいなもんか」

「わけわかんないこと、言い過ぎないでよっ、お兄ちゃん」

「黙れ」

「な…」

「おまえらに判決をくだすのがおれの役目だ」

 

「なんでそんなにしゃしゃり出てくるわけ!? アツマくん」

「うるさい、愛」

「なっ…!」

「…先を急ぐが。

 結論から、言うとだな――、

 愛、これはおまえに責任がある。

 おまえから、あすかに謝れ」

 

「どうしてあすかちゃんの肩を持つの…」

 

「おまえのほうが、『おねーさん』だからに決まってるだろっ!!」

「……!」

 

どうだ。

痛いところ突かれたろ、愛よ。

 

「おまえ、卒業したよな!?

 もう、高校生じゃないよな!?

 もうじき、大学生だよな!?

 大学生になるんだろ!?

 コドモじゃないだろ!?

 だったら、大学生らしくない、コドモじみたマネはやめろ」

 

「責任が……わたしだけにあるわけじゃないし」

「口ごたえすんなよ」

 

非常に不服そうな顔つきの愛だが、

 

「そういう言い訳も、コドモじみてるんだよ」

と、構わずにおれは愛を追い詰めていく。

「いつまでも女子高生気分でいるんじゃねーよ。

 オトナになれや」

 

……さすがに、参ってしまったらしく、

つぶらな瞳になって、

哀願、という2文字が似合う表情で、

「アツマくん……どうしても、わたしが謝れって言うの……?」

と言ってくる。

「ああ。そうだよ。」

 

やや、沈黙があって、

 

とうとう、観念したような様子に、愛がなった。

 

恐る恐る……といった感じで、ようやく、あすかの顔に、向き合う。

 

よし……。

 

 

「あすかちゃん――、」

「――愛さん」

「『愛さん』は――イヤだな、『おねーさん』って呼んでよ」

「愛さん……」

「『おねーさん』呼びに戻ってくれないと、今度はわたし、あすかちゃんを呼び捨てにしちゃうよ?」

 

そうやって、苦笑い。

…謝罪はどうした。

 

「……じゃあ、おねーさん、って呼びます。おねーさん」

「――よろしい。

 で――、アツマくんのお説教じゃないけど、わたしのほうが、たしかに『おねーさん』だからさ、」

「はい……」

「……わたしのほうが、悪かったです。ごめんなさい。」

「――」

「そんなに、申し訳無さそうに、しないでよ――悪いのは、わたしなんだから。

 ねっ」

「おねーさんっ」

「あすかちゃんっ」

「おねーさんっ!」

「あすかちゃんっ!」

「おねーさんっ!!」

「あすかちゃんっ!!」

 

 

や、3回連続で呼び合う必然性、ないだろ。

 

まあ、いい……『より』は戻せたんだから。

 

和解のしるしに、

ふたりは抱き合って、

あっためあっている。

 

一件落着。

日曜日は……まだまだある。

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】ツンデレみたいな姉を見ていると気持ちが整う

 

麻井先輩に告白された。

 

 

 

 

 

気持ちだけ受け取ってくれ、って。

しばらく会わない、って。

 

 

『ずるずる引きずっちゃうと、困らせてしまう』

そう、先輩は言っていたけれど、

ぼくのほうが、ずるずると引きずってしまいそうで。

 

あれから、

なにもかも、うわの空(そら)みたいな感じで、過ごしている。

 

年上の女子に『好き』って言われたのは、

もちろん初めてで。

 

それも、麻井先輩だったから――、

『好き』と告白された瞬間、

意識が遠のいていきそうだった。

 

× × ×

 

なにも手につかない土曜の朝だった。

朝食の味もわからなかった。

 

意味もなく、自分の部屋を歩き回ったり、まったく落ち着けなかった。

床に腰を下ろしたって、どうしようもなかった。

 

そもそも、なんで、ぼくを。

ぼくを。

麻井先輩……。

 

訊くすべも、なくって。

 

× × ×

 

気分を紛(まぎ)らせたくって、階下(した)に下りた。

 

そしたら、

姉とアツマさんが、楽しそうに口喧嘩しているのが、眼に留まった。

 

ふたりは……喧嘩していても、ほんとうに息が合っている。

 

 

 

――ふと思った。

ふたりは、いつから……こういう関係に、なったんだろうか?

 

× × ×

 

意を決して、姉の部屋のドアを叩いた。

 

「は~い。……あら、利比古」

「お姉ちゃん、ちょっといい?」

「な~に~」

「ヒマそうだね……。

 ヒマだったら……話を聴いてほしいんだ」

 

 

ベッドに座る姉と、床座りのぼく。

テーブルを挟んで、向かい合っている。

「――人生相談でも、したくなった?」

姉が訊いてきたが、

「そうじゃないんだ」

と言いつつ、ぼくは首を振る。

「あのさ……、

 さっき、お姉ちゃん、アツマさんと、ケンカしてたよね」

あちゃー、という顔になって姉は、

「目撃、されちゃったかー」

「…楽しそうだった」

「エッ」

「…ケンカするほど仲がいい、の典型だと思った」

「利比古……」

「好きだから……あんなふうにケンカできるんでしょ」

 

どうしてわかるの……利比古

 

思わず、笑ってしまいそうになるぼくに、

「と、利比古ッ、あ、あんたわたしからかってるの」

「お姉ちゃん――素顔が出てるよ」

「すっ素顔ってなによ」

 

しょうがないなあ。

 

「そっ、そもそも、なんの話がしたくって、あんた――」

「そうだね、本題がまだだった。

 からかいついで、みたいだけど――」

 

一瞬、緊張する姉に、

 

お姉ちゃんは……アツマさんのことを、どうやって好きになったの?

 

ことばを失ったみたいに動揺して、

ぼくのほかにだれもいないのに、キョロキョロとあたりを見回し、

やっぱり動揺して、

赤面する。

そんな、ぼくの姉。

 

「お姉ちゃん」

「……」

「頭から湯気が出そうだよ」

「……」

「恥ずかしくて――話せない、とか?」

 

ふるふるふる……とかぶりを振って、

「そんなんじゃないもん」

「なら、話してほしいな――ぼくは。

 きょうだいなんだし…いいでしょ?」

 

 

× × ×

 

「――なるほど。

 ダメになりそうなときが、何度かあって、

 そのたびに――アツマさんが、助けてくれたんだね」

「……そう、

 助けてくれるたびに、好きになって、どんどん」

「お姉ちゃんが本を読めなくなるなんて、重傷だもんね」

「……そんなわたしのそばに、アツマくん、寄り添ってくれた」

「ピアノで失敗するのも、相当なダメージだった」

「つらかった……。立ち直れなくなるかと思った。でもすぐに、アツマくんが、わたしのつらさを、受けとめてくれて」

「――アツマさんがいてくれて、よかったね」

「――頼りっきり」

「いいじゃんか」

「……そうね。

 これからも……ずっと、頼っちゃうと思う」

 

感慨にふける姉に、

「ぼくも……アツマさんみたいに、なりたいな」

「え!? いきなりなに言い出すの」

「なんでそんなびっくりするかなー」

「衝撃的」

「だって、さ……あこがれちゃうよ、どうしても」

「……」

 

 

沈黙の姉。

 

 

しばらく――考えをめぐらせていたかと思えば、

「……あんたは、アツマくんを目指さなくっていいよ」

「理由は?」

「だれかの後追いしたって、しょうがないから」

「そっかなぁ」

「利比古は利比古、アツマくんはアツマくんでしょ?」

 

姉らしい、笑顔で、

「あんたには、あんたなりの、成長のしかたがあると思う」

「…説教じみてきたな」

「説教したくなっちゃうのよ、わたしお姉さんなんだもん…」

「…歳を重ねた、って証拠だね」

「なによ、その微妙なニュアンスを込めた言いかた」

「あんまり老け込まないでよ」

「日本語が上手じゃないわね……利比古」

「ごめん、ヘンなこと言っちゃった」

「高校卒業したてのホヤホヤなんですけど」

「わかってるよ。――18歳に、『老け込む』もなにもないよね」

「怒るよっ」

「怒らないで」

「ったく……なに言ってんのよっ」

「素顔で怒ってるね」

「……どーゆーことっ?」

「いまのお姉ちゃん……素(す)が出てる」

「それの……なにが悪いわけっ」

「悪くないって――むしろ、微笑ましい。もっと言うと、かわいい」

「……」

姉はこっちを向くことができずに、

どうしてそんなにさりげなく『かわいい』とか言うのっ

と、ツンツンした口調で言ってくるのだった。

 

ありがとう、お姉ちゃん。

怒らせちゃったけど――、

ぼく、気が紛れたよ。

ちょっと、気持ちが整った。

お姉ちゃんの――ツンデレみたいな気性(きしょう)のおかげだ。

 

 

 

【愛の◯◯】黒柳くん、ぜったいボーっと生きてるよね!?

 

「……あらためまして、こんにちは! 板東なぎさです。

 期末テストも近いですが、残りの金曜日、がんばっていきましょう。

 

 ……期末、といえば。

 

鬼滅の刃』が社会現象になって、アニメの続編も発表されましたが、

 

鬼滅の刃

 と、

期末のヤバさ

 って――、

 なんだか、似てませんか?

 ――語呂的に。

 

『き・め・つ・の・や・い・ば』と、

『き・ま・つ・の・や・ば・さ』ですよ。

 

 ――どう思われますかね?

 

 わたくしの、一発ギャグへの、忌憚(きたん)なきご意見は、随時募集しております。

 

 というわけで――ここで、ひとまず1曲。

 LiSAで『crossing field』」

 

× × ×

 

「はい。

『鬼滅』関連楽曲が流れると予想してたあなた、

 甘いです。

 

ソードアート・オンライン』っていうアニメのオープニングなんですけど、

ソードアート・オンライン』の、原作本の、背表紙――、

 あれは、何色って言えばいいんでしょうかね?

 濃いピンク?

 ピンクっぽい紫??

 ちゃんと、あの背表紙の色にも名前があるんでしょうけど。

 なにぶん、ラノベに疎(うと)いので……あっ、ライトノベルを『ラノベ』って略すと、どこからか石が飛んでくるんでしたっけ??

 ライトノベルに詳しいかたの情報提供、随時募集しております。

 どんな情報でもいいんで。それこそ、電撃文庫の背表紙に関する知識を教えてくれてもいいし。

 もうじきアニメ化されそうなライトノベルはこれだ……とか。

 

 わたしにライトノベルの知識……吹き込んでくれても、いいんだよっ?」

 

 

 

× × ×

 

「ひとくちにライトノベルといっても、いまは、範囲が広くなってると思うよ」

「……きょうの『ランチタイムメガミックス(仮)』のこと?」

「そうだけど……」

「範囲が広くなってるって、具体的には」

「ぼくにしたって、漠然としか知らないんだけど――たとえば、異世界転生系っていうのかな、それみたいな系統の――」

「やっぱ訊くのやめた」

「えっ、いいの」

「話がややこしくなってきそうだから」

「……たしかに」

「でしょ?

 黒柳くん、ここはライトノベル同好会じゃないんだよ」

「……たしかに」

「わかってる?」

「うん…」

「…きょうは羽田くんが用事でいないし、黒柳くんにがんばってもらわないと」

「でも、がんばる、っていったってなあ…」

「しゃべるのをがんばってほしいな」

「……」

「ほら、変なタイミングで、口ごもる」

「……ごめん」

「ごめん、は無用。

 コミュニケーションしようよ、もっと」

「コミュニケーション」

「そ、コミュニケーション。コミュニケーションがないと、時間、持て余しちゃう」

「……話し合いでも、する?」

「そのことば、待ってた」

「企画会議……とかさ」

「する、する」

「――企画会議って、そんなにウキウキするものかな」

「黒柳くんのテンションが低すぎるってことでしょ」

「……」

 

「……次はラジオ番組制作、だったよね」

「お、少しシャキンとなった」

「元気じゃないわけじゃ、ないから……」

「その調子で行こう」

「よし……、

 どんなラジオ番組が、板東さんは作ってみたい?」

「――あきれた、わたしあきれちゃった」

「え、え、えっ」

「どうして、わたしの希望を先に訊こうとするの。

 黒柳くん、ここまで主体性がなかったとは――」

「主体性」

「そうだよ主体性っ。

『ぼくはこんなラジオ番組が作ってみたい~』っていう自己主張を、まずそっちからしてほしかったんだよ、わたしは」

「自己主張……」

「黒柳くん自身の構想はないの? 構想は」

「構想……」

「――ぜったい適当に相づち打ってるでしょ」

「構想、と、言われても。

 板東さんは知ってるかも、だけど……ぼく、テレビに比べてラジオの知識は、それほど――」

「あっきれたぁ」

「板東さん!?」

「何度わたしをあきれさせたら、気が済むの!?」

「お、おこらないでよ」

「せっかく、せっかく――、

 羽田くんとふたりして、『放送オタクコンビ』だと思ってたのに」

「――そんな認識だったの!?」

「もっと勉強してよ、ウィキペディア

「えぇ…」

「テレビ番組だけじゃなく、ラジオ番組のウィキペディアもコンプリートしてよ」

「コンプリートって…トレーディングカードじゃあるまいし」

「ハンパな知識はわたしが許さない」

「で、でも……ウィキペディアだよ? 所詮」

NGワード言った!! 黒柳くんがNGワード言った!! もう限界

「……え??」

『所詮』が、NG!!

「あっ」

「『あっ』、じゃないっ!!

 ウィキペディアなめるんじゃなくって、もっと真面目にネットサーフィンしなよ!!

 ボーっとネットサーフィンしてんじゃないわよ!!!!

 

「……叱られた」

 

 

 

 

【愛の◯◯】加賀くんも利比古くんも『教育』が必要みたいね……!

 

「加賀くん、ちょっと聞いて」

将棋盤とにらめっこしていた加賀くんが、

「なに?」

と顔を上げて訊いてきたので、

「――さいきんは、加賀くんとふたりで、というかほとんどわたしひとりのちからで、新聞作ってるわけなんだけど」

「――まあな」

「さすがに人手不足、戦力不足ということで、『助っ人』を頼みたいと思って」

「『助っ人』?」

「――センパイの手も借りたい、ってこと」

「センパイ、って――卒業した、3年生?」

「そ」

「けど、卒業しちゃっただろ、もうこの学校には――」

「そこで、リモート出演よ」

 

わたしはPCを操作して、

「よし、できた」

「なにができたんだ?」

「PC画面を通して、卒業した3年組が、編集作業を手伝ってくれる。

 ついでに、加賀くんの様子も、監視してくれる」

「…なんか余計なひとこと言わなかったか」

「…加賀くんの『教育』のほうが重要まである」

「……。

 で、だれがリモートで出てくるんだ?」

「きょうは、瀬戸さん」

 

× × ×

 

「こんにちはー、瀬戸さん」

『やあ、あすかさん。ついでに、加賀も』

「きょうはよろしくお願いします」

『いま、そっちは――部員がふたりしかいない状況だよな。大変だろう? とくに、あすかさん』

「正直」

『頼りにならない加賀も、副部長にせざるを得ないんだろ?』

「新2年生は加賀くんだけですからねー」

『…もっと部員を集めとくべきだったか』

「後悔したって仕方ないですよ。加賀くんをどうにかさせるしかないです」

「…おい」と加賀くんがボヤく。

『いくらでもそっちの手伝いはするけど、リモートだし、やれることにも限界あるけど』

「いいえー、助かりますよ」

『…問題は、加賀の『教育』だな』

「…おい」と加賀くんが再度ボヤく。

 

『……受験は、おれも岡崎も、まあおさまるところにおさまったよ。桜子は、国立の結果が出てから、だけど』

瀬戸さんの報告。

みんな浪人はしないみたいで、よかった。

それにつけても。

――わたしはイジワルにも、

「……神岡さんは、どうですか?」

うぐっ、と痛いところを突かれたみたいになる瀬戸さん。

神岡恵那さんと、仲睦まじくお弁当を食べているところを、何度も目撃したし、ほかの人からも多くの目撃談があり、すっかり学校公認カップルになっていた。

ある情報筋によると、冬休みを挟んで、神岡さんの振る舞いが変わった、とか。

『物腰がやわらかくなった』とかなんとか。

神岡さんを変えたのは――もちろん。

『あ、ああ、あいつはあいつで、おさまるところにおさまったみたいだよ』

「いっしょの大学なんですっけ」

 

『どうしてわかるんだ……あすかさん』

 

「世界は思うより狭いんです」

『どこから漏れたんだ……』

 

瀬戸さんのスマホの振動音らしき音が、PCから聞こえてきた。

 

『ちょっとごめん』と言いつつ、瀬戸さんはスマホに目を通す。

 

「……神岡さんからですか。」

『あいつ、近頃頻繁にLINEを送ってくるんだ……』

 

また振動音が聞こえてきた。

 

『ほ、ほら、また来た』

「――いいですね。」

『え!? なにが』

「うらやましい――瀬戸さんも、神岡さんも」

『そ、そうかなあ!?』

「瀬戸さん、神岡さんを支えてあげてくださいね」

『――も、もちろん』

「素敵な……パートナー……」

 

加賀くんが、

「そのへんにしとこうぜ、あすかさん」

と、たしなめてくる。

「編集作業、やるんだろ?」

「……ヘンテコなところで真面目だね、キミは」

「なんだよその不満顔は……」

 

× × ×

 

ずいぶんおちゃらけてしまったのは、たしかだ。

3年組のリモート出演は今後も続く予定。

きょう、できなかったことを反省して、明日(あす)につなげたい。

 

 

すでに帰宅しているわけだが、

リビングのソファで、

利比古くんが、ポケ~ッとしている。

 

見かねたわたしは、

「お~い、利比古くん」

と声かけ。

しかし、利比古くんからの反応が見られない。

「利比古くんってば~」

少し声を大きくして、再度声かけしたら、

アッ!! と驚いたみたいに、のけぞるようにして、わたしの存在に気づいた。

「も~っ、2度も呼んだんだよ~」

「……すみません、ごめんなさい」

「テレビ、つけてるけど、視(み)てるの?」

「……」

「そこで押し黙られても」

 

ヘンだなあ。

なんか、ヘン。

 

「――利比古くん、増えたよね、ボケーッとしてること。なんだか、虚空を見つめてさ」

「……」

「今週は、とくに、そう」

「……」

「もっと細かく言えば、おとといの夕方あたりから、呆然としたような表情でソファに座ってる光景が、しばしば見られた」

「呆然と、って……」

「呆然自失って感じだったもん」

「そう……見えちゃうんですか」

「――、

 なにか、あったの?」

 

口をつぐむ、彼。

 

「――しょうがない利比古くんだねぇ。

 わたしでいいから、相談してみなよ?

 わたしだって、年上だよ? お姉さんなんだから」

 

お姉さん風(かぜ)を吹かせるわたしに、

 

「あすかさん…」

「?」

「そういえば…年上でしたよね…あすかさん」

 

ムカッ。

 

「……その発言はないよ、利比古くぅん」

 

あわわ……と半開きの口で慄(おのの)く彼。

 

お仕置きしたら、利比古くんも、正気になるかなぁ!?

 

「お仕置きって……どんな」

 

英語で反省文を書く

 

「……あすかさん、読めるんですか……? ぜんぶ英語で」

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】くたびれアツマの迷走妄想

 

「きょうは、ひな祭りね」

「ああ。過激な替え歌があることで有名だな」

「……」

「ん? どした愛」

「アツマくん……あなたはそういう『遠慮のなさ』を、治したほうがいいと思うわよ」

「?」

「どうして、ひな祭りを、すぐに『過激な替え歌』と結びつけるの、ねぇ!」

「どうして、と言われても」

「そんなに日本全国のひな祭りを台無しにしたいの!?」

「愛……朝から血圧高いぞ」

 

この邸(いえ)では――、

こんな朝が、しばしばなのである。

 

 

× × ×

 

愛が、高校を卒業した。

正確には、中高一貫の女子校、か。

――ともかく、長い春休みに突入したのである。

おれも春休みだから、邸(いえ)でいっしょにいる機会が、増える。

たとえば、バイトのない平日の昼間、

愛がいてくれて、退屈しないのは、いい。

いいんだが、

反面、振り回されそうで、怖い……。

 

あいにく、きょうはバイトが休み。

 

× × ×

 

「ねえ、ちょっとわたしにつきあってよ」

 

ほら来た。

 

「バイトもなくて、時間があり余ってるでしょ」

「おれは、これから、室内トレーニングでも…と」

「外に出たほうがトレーニングになるわよっ」

「どこ行くつもりだ」

「世界でいちばん楽しいお店」

「はぁ??」

「――本屋さんよっ」

 

× × ×

 

都心の大型書店に行くのにつきあわされた。

 

哲学や宗教学関係の本が見たい……と愛は言う。

『予習よ』とのことだった。

大学に入ったら、哲学専攻なので、いまの時点から、自分の専攻に関係する本を読んで、予習しておきたい……というわけなんだろう。

真面目だな。

学問に関しては、誠実だ。

学問に関しては。

 

 

「この時間帯に京王線に乗るのって、なんだか、新鮮」

「そうか?」

「そうよ」

「まぁ……これまでは、学校で授業受けてる時間帯だったわけだしな」

「そういうこと」

 

となりに座る私服姿の愛をチラッと見て、

「おまえさ……。

 もう……、女子高生じゃ、ないんだよな」

言われた愛は、キョトーンとして、

「意味不明」

「いや……、つい」

「電車のなかでそんなこと言わないでよ」

「……ごもっともだ」

 

月日の、流れ――。

 

× × ×

 

「せっかく、池袋の某ジュンク堂に来たんだから、

 アツマくんも、なにか1冊買いなさいよ。

 あ~、電車のなかで不可解なこと言ってたから、

 ペナルティとして、1冊じゃなくて2冊買うといいわ」

「命令?」

「2冊買うお金ぐらい持ってるでしょ」

「んぐ……」

「持ってるのね」

「お、おまえは何冊買うつもりか」

「どーしよっかな♫

 ――2冊。

 2冊買えば、あなたとお揃(そろ)い♫」

「お揃いってなんじゃいな、冊数がおれと同じってだけだろ」

「アツマくん」

「なんだよ…」

「…マンガ買っちゃダメよ」

 

 

けっきょく……、

愛は、ハードカバーの本を、3冊買った。

 

 

× × ×

 

帰宅。

まだ午後の2時にもなっていない。

 

部屋の勉強机に、ジュンク堂で買った2冊を置く。

肉体労働したわけでもないのに、疲れた。

愛が言ったとおり――室内でトレーニングするよりもトレーニング的な外出だったわけだが、

疲労で、買った本を読む気がまったくしない。

 

ま、いいや。

 

疲れたのを――愛のせいになんか、したくないんだ、おれは。

 

おれを振り回した張本人だって、疲れ知らず、ってわけじゃなかろう。

 

案外、愛だって、くたびれてるのかもしれない。

 

いま、あいつは、どんな様子なのか――、

あいつの『くたびれ度合い』に対するよこしまな好奇心が芽生えてきたものの、

とりあえず、昼寝をすることにした。

 

 

× × ×

 

むくり。

時計を見る。

少し短めの昼寝だった。

 

もしかしたら、

愛だって、帰ってから、昼寝してるのかもわからない。

おれと同じように、くたびれて……。

 

 

それを確かめに、愛の部屋の前まで来た。

ノックして、応答がなかったら、お昼寝真っ最中だろう。

その場合は、ドアを少しだけ開いて、愛の寝姿(ねすがた)を確かめてから、そっとドアを閉めて、そっとしておく心づもりだった。

――キモいかな? おれの心づもりは。

――キモいよな。

――愛の寝姿を見たら、『あいつだってくたびれてるんだ』、って安心できると思ったから。

でも、昼寝のぞきには、変わりない――。

 

でも。

あいつが、くたびれてるところが、おれは見てみたくって――、

なぜかというに、

いつも元気な反面、たまにしか見せない、あいつの『弱さ』が――あの『弱さ』だって、魅力的なところだと、思うから。

 

弱ったら、立ち直らせてやりたくなる。

 

素直に、そう思うけど……、

『弱った愛が見たい』、なんて、

ヘンだよな。

もっというと、ヘンタイっぽい。

 

……あああああっ、もう。

なに考えてんだよ、おれ!!!

 

下心、出しやがって。

おれもくたびれるし、あいつだってくたびれる。

部屋をノックすること自体、動機が不純だったんだ……!

 

 

「――アツマくん?」

 

向こうから、ドアが開いた。

 

「よ、よぉ」

「なに? わたしに用事あった?」

「あ、あったといえば、あったな」

「ゴメンね、いままで昼寝してたの、わたし」

「……」

「顔、洗ってくるから」

「……なぁ」

「――急ぎごと?」

「や、違う。

 ただ……昼寝してたってことは、くたびれたのかなー、おまえも……って。

 じつは……おれもさっきまで、寝ちまってて」

「あなたも!? 気が合うわねー」

「……くたびれた? やっぱり」

「――ほんとにくたびれてたら、アツマくんに頼ってるよ」

「おれに……」

「池袋に行ったぐらいで、弱るわけないじゃん」

「……強い」

「くやしい~?」

「……くやしい。」

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】いつか、また、関わらせて――だから。

 

なぎさが、甲斐田とツーショットの記念写真を撮ってくれた。

 

「ありがとね、なぎさ」

言う甲斐田に、

「感慨深いです、こんな写真を撮れる日が来るなんて」

「そうだね、私と麻井、1年前とか、いまと真反対の仲だったもんね」

「仲直りしてくれて、うれしいです」

 

お互いを見合って――アタシと甲斐田は、微笑み合う。

 

 

× × ×

 

お互いが、卒業証書が入った筒を、手に持っている。

 

なぎさは去っていった。

甲斐田と、ふたりきりにさせてくれたんだろう。

 

「国立の入試の結果は……まだか」

アタシの受験の行く末を気にする甲斐田。

「まだ」

とアタシは答えつつも、

「そんなことよりもさ。

 兄さんが……」

「麻井の……お兄さんが、?」

「兄さんが……専門学校に、通うって」

「へーっ、いいことじゃないの、それ!!」

すごい勢いでよろこんでくれる甲斐田。

まぁ、アタシの家庭事情……深刻だったし。

「ゲームが作りたいらしくて」

「前向きになったんじゃん、お兄さん」

「うん、やっと――外に出られるよ」

よかったよかった……と、甲斐田はひとりで勝手にうなずいている。

 

麻井家が、少しでもいい方向に変わり始めているのは、

甲斐田のおかげでもあるし、

それに……羽田利比古のおかげでもあるし。

 

「――ねえ麻井」

「うん」

「まだ、行くところ、あるんでしょ」

「ある」

「――利比古くん、待たせちゃダメだよ」

「わかってる」

「――、

 がんばってね!」

「……余計だよ」

 

× × ×

 

 

気恥ずかしかった。

甲斐田に後押しされて。

 

 

旧校舎。

 

年季の入った噴水のへりに、

アイツが――羽田が、腰かけている。

 

真ん前に、小柄なアタシのからだを立ちはだからせて、

「こらっ、下向きになってんじゃない」

と、叱る。

「座らないんですか……先輩は」

「アンタのとなりは、この前の東海道線で……座ったから」

「……」

若干照れくさくなりながらも、

「この前の、お詫びをする前に――立って、羽田」

すぐに、素直に、羽田は立ち上がった。

 

「えーーっと……」

 

恥ずかしさで、時間稼ぎをして、

ようやく、言い始めることができた。

 

「……日曜日は、泣いちゃってゴメン。

 女子小学生みたいだったよね、アタシ。

 ひたすらアンタに、わがままを押し付けて。

 平塚駅で、公衆の面前で、気が動転して――。

 泣き落とし、とか、そういうつもりはゼロだった。

 ただ……。

 アンタに『拒絶された』と完全に思い込んじゃって、感情が爆発しちゃって。

 あのあと、ずいぶん迷惑かけた、

 アタシのほうが…先輩なのに」

 

少し、間(ま)があって――、

 

「麻井先輩、

 はっきりと、答えてほしいんですけど」

 

「――答える」

 

「卒業で、ぼくと離れ離れになるのが――つらいんですか」

 

「つらい。つらいよ」

 

「――帰ったあと、ぼくもいろいろ考えたんです。

 なにを、かというと、麻井先輩の気持ちを、です」

 

 

伝わったのか。

少しぐらいは。

アタシの、想い。

 

 

「ぼくに対する、先輩の行動原理が、なにに支えられているのかってことを、考え始めて。でも、考えは、簡単には、まとまらず――」

 

「ちょっと待って。」

 

羽田を制して、

アタシは、

 

「ちゃんと言わせて……アタシに」

 

「先輩……」

 

「ちゃんと、言わせてよ。

 

 平塚駅で、泣きじゃくったのも、

 アンタが好きすぎて――あんなふうになっちゃったんだ、ってこと。

 

 アタシ、羽田のこと、好きになっちゃってる。

 

 恋愛感情、持ってる。アンタに。

 

 いま、ここで、言わないと、永遠に言えないから……告白する」

 

 

グラリ、と羽田がたじろぐ。

 

 

「――うまく告白できなくてごめんね。

 古い話だけど――、中学のとき、好きになったひとに告白したときも、あんまりうまくできなくて、あんまりうまくいかなかった。

 

 先輩後輩とか、上下関係とか関係なしに――、

 羽田、アンタと会って、アンタといると、胸が熱くなる」

 

 

ささやかな、沈黙。

噴水も、音をたてず。

 

 

「――で、

 こっから、『つきあってください』とかお願いするのが、定番の流れになるんだろうけど」

 

「……つきあいたいんですか」

 

「意外。羽田がそう言ってくるなんて」

 

「ぼくだって……あいまいのままはイヤで。きちんと気持ちを確認したくて」

 

「……そっか。

 健気(けなげ)だね。

 

 あのね、

 いちばん大事なこと言うけど、

 

 好き、って言ったけど……、

 アンタとつきあうつもりとか、そういうのは、ない」

 

「……どうしてですか?」

 

「ずるずる引きずっちゃうと……羽田を困らせるから。

 アタシだって、きちんとしたいし、キッパリとけじめつけたいし」

 

「それ……、あきらめる、ってことですか」

 

「違う、

 ちょっと違う」

 

「……わかりません」

 

「――わかんなくても、いいから、

 

『気持ち』を、受け取って、羽田。

『気持ち』を、アンタのこころの隅っこに置かせて。

 

『気持ち』、を届けて――アタシはこの場所から卒業する」

 

 

「……先輩。

 こんど、先輩と会えるのは……いつですか」

 

 

「距離を取らせて。

 時間も、ちょうだい」

 

 

「先輩……。」

 

 

「自分で、納得がいくまで――アンタには、会わないつもり」

 

 

「納得――ですか」

 

 

「待ってて。

 いつか。

 いつか、きっと、またアンタと関わるときが、来るだろうから。

 何年後かは、わかんないけど……、

 また、関わらせてほしい。

 

 だから――さよなら。

 

 ――もう一度、未練がましく、言わせて?

 

 好きだよ、羽田。

 

 好きだから――しばらく、さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【愛の◯◯】また、サクラ、咲く

 

6年間。

 

小学校の6年間と、その長さは、同じなんだけど、

意味合いはぜんぜん違う。

 

計り知れない思い出が、

中等部・高等部と過ごした6年間には、詰まっている。

 

いろいろあった。

いろいろあったんだ。

この学校で――。

 

 

 

× × ×

 

卒業式は滞(とどこお)りなく進行した。

 

 

もうすでに、わたしたちは自分の教室に帰っていて、

最後の、ロングホームルーム。

 

伊吹先生が教壇に立っている。

彼女がしゃべり始めるのを、わたしたちは今か今かと待っている。

 

「――えっと、

 式も、無事済んだし、

 あたしとしても、無事にあなたたちを送り出すことができそうで、まずはホッとしています。

 

 うーん、

 ロングホームルームなんだよね。

 あたしから、あなたたちに伝えたいこと……とか、言うべき場面なんだろうけど、

 正直、あたし、なんにも用意して来ませんでした――ごめん」

 

満員の教室が、卒業生と保護者のあたたかい笑いに包まれる。

 

先生は、恐縮そうに、教卓に両手をついて、

「みんな――ありがとう」

 

先生にわたしは、

「もっと、肩の力、抜いてくださいよ。最後なんだから、先生らしい見送りかた、してほしいです」

 

すると、苦笑いして、

「あたしらしい見送りかたって、なんなんだろ、羽田さん」

 

するとすると、

「先生。先生とは、明るくお別れがしたいです」

言ったのは、アカちゃんだった。

「卒業式というと、しめっぽくなりがちだと思うんですけれど、

 未来にひと続きみたいな、前向きな巣立ちかたを、わたしたちはしてみたい。

 ……だから、まず、先生には、もっと自然体になってほしいんです」

 

「アカ子さん……。

 なんだか、羽田さんもアカ子さんも、厳しいな。

 どっちが先生なんだか。あたしが、教えられる側みたいで」

 

最後まで不真面目なわたしは、

「そういうこと、これまでも多かったじゃないですか。教える側と教えられる側が逆転するみたいな」

と容赦なく指摘してみる。

 

「――羽田さんは、鬼ね」

「わたし、先生をイジめたいんじゃないんです。

 ぶっちゃけて、どうしようもない先生だなぁ、と思っちゃったこともあったんですけど」

「ぶ、ぶっちゃけすぎ」

「待ってください先生。この話、続きがあって」

「続き……?」

「はい。

 ――立場が逆転するような場面も、あったかもしれないけど。

 それでも、

 伊吹先生は――紛れもなく、わたしたちの、先生で。

 わたしたちのほうが、教えられることが、やっぱり多くって。

 いろんなことを、先生は教えてくれたし、与えてくれた。

 これからも、

 伊吹先生なら……あとに続く子たちを、いい方角に導いてくれるって――わたし、信じてますから」

 

「――あたしよりたくさんしゃべってるね、羽田さん」

「ごめんなさい、先生」

「最後の最後まで――しょうがない子だ」

 

もちろん、伊吹先生は笑っている。

 

 

さて――、

そろそろ、来るかな?

 

 

「……あたしがどれだけ貢献できたかは、心もとないけど。

 だけど、いま、教室にいるみんな……なんだか、キラキラして見えるから。

 あたしも少しは――教師としての仕事が、できたのかな。

 

 ――お説教みたいなことは言いたくないし。

 もとから、そんなマネできない性質(たち)ではあるんだけどさ。

 

 それこそ、説教じみると、しめっぽくなっちゃうよね。

 

 あなたたちは――この先、どんなことがあっても、うまくやっていける。

 あたしがそう信じてるってことだけは、覚えておいてくれたら、うれしいな。

 楽しくないことが、あったとしたら――あたしのドジな顔でも、思い出してみてよ」

 

そう言って、伊吹先生は、教室の卒業生ひとりひとりに目を配る。

ほんとうに、丹念に、ひとりひとりに、眼差しを与えて。

 

――ロングホームルームが、クライマックスに達しようとしていたとき、

教壇の近くの扉が、ノックされる音がした。

 

 

「えっ」

不測の事態に、困惑する先生。

 

控えめに、扉を開けたのは、

花束を抱えた――川又さんだった。

 

「かっ川又さん――なんでっ」

 

驚愕する先生。

構わず、わたしは起立して、

扉付近の川又さんに歩み寄っていく。

 

「センパイ、あとはセンパイにおまかせですよ」

「まかせなさい、ちゃんとやるから」

 

そういうやり取りもそこそこに、

川又さんから花束を受け取った。

 

教壇の先生と、まっすぐ向かい合う。

 

「川又さんから、聞きました。

 この頃ずっと、伊吹先生、保健室通いが続いてたって。

 授業の途中で、保健室に行くこともあったって――大変でしたね」

 

「羽田さん……も、もしかして……一ノ瀬先生にも!?」

 

「そうです先生、裏を取ってないわけがないじゃないですか」

 

わたしはくすぐったい気分になって、

「まだ、大人じゃないから――こういうとき、どう言えばいいのか、わきまえていないんですけど。

 おめでとうございます、じゃ、月並みですか?

 おめでた、なんだから、

 そりゃもう、おめでとうございます、な案件には違いないにしても……、

『ご懐妊』じゃ、仰々(ぎょうぎょう)しくって、なんとなくヘンなのは、わかってるんですけど」

 

ドギマギにドギマギを重ねる先生に、

「とにかく、花束贈呈! のお時間です。

 じつは、花束だけじゃ、ないんですけどね」

 

アカちゃんも立ち上がり、

もうひとつのプレゼントを携えて、教壇のほうに向かっていく。

 

わたしのとなりにやってきたアカちゃんが、

「これは、寄せ書きです」

上(うわ)ずる声で、先生が、

「寄せ書きって――、いつの間に――、どうやって――、」

アカちゃんは満面の笑みで、

「企業秘密ですよ。」

 

「ほら、時間もないし、早いとこ渡しちゃおうよ、アカちゃん」

「そうね、愛ちゃん」

 

わたしは、伝える。

「先生。わたしたちからの、ささやかな、安産祈願です。

 もちろん、6年間の、感謝も込めて」

 

花束と寄せ書きの贈呈。

そのふたつが、先生の手に渡った瞬間、

万雷の拍手が巻き起こる。

 

感極まって、眼に涙を浮かべながらも、

寄せ書きを見ながら、

「『伊吹みずき先生へ』――って、間違ってんじゃないの。ホントは『白川みずき』よ? あたし」

「この期に及んで、細かすぎますよっ。旧姓の『伊吹』のほうが、馴染み深かったんです、みんな」

「――そっか。細かくてごめんね羽田さん」

「……先生には、お手上げです」

 

 

 

× × ×

 

「『お元気で』って、どうしても言いたくて。

 教室を出るときに、『お元気で』って伊吹先生に言おうとしたら、

 こみ上げてくるものがあって――しばらく、うまく言い出せなくって」

 

「でも、言えたんだろ?」

 

「言えたよ、言えた。

 でも泣いちゃった。

 先生とは、泣かずにお別れするんだって、心に決めてたのに――無理だった」

 

「もらい泣きもあったんだろ」

 

「伊吹先生のほうから、泣かれちゃうとね――花束、渡したとたんに」

 

「あれは感動的だったと思うぞ」

 

「――アツマくんも、教室の後ろで見てたんだから、終わったあとで、伊吹先生にあいさつしに行っても、よかったんじゃないの?」

 

「……勇気がなかった」

 

「年上の女性相手だと、弱気ね」

 

「……ったく」

 

 

アツマくんと並んで歩く。

母校の校舎が、歩くごとに遠ざかる。

 

「保護者役、ありがとう」

「母さんひとりで来るはずだったんだけどな」

「でも、明日美子さん、『あなたも保護者になってあげなさい』って、強引に」

「『明日美子パワー』だ……『明日美子パワー』に負けた」

 

そんな他愛ないやり取りのなか、

ふと、アツマくんが、

「――名残惜しいんじゃないのか?」

「母校が?」

「母校が。」

「ん~~、

 名残惜しいし、名残惜しくない」

「曖昧な」

「けど、やっぱり、名残惜しいかも。

 だけど、」

「だけど?」

「だけど……これが終わりじゃないんだなってことだけは、言える」

「…まあなぁ」

「始まってもない、というか。これから始まる、というか」

「そっか……なるほど」

「な~にひとりで納得してんのよ」

「いや……愛の言うことも、もっともだなあ、と」

「――いつももっと、素直に納得してくれたら、わたしはうれしいんだけどな~」

「……努力する。」

 

 

開花予想が、まだ先なのは、わかってた。

 

それでもわたしは、桜の木の下で、思わず立ち止まる。

 

「おいおいなんだよ、母さん待ってんだぞ」

「わかってる」

 

――そう言いつつも、いまだ咲かない木を、見上げてみる。

 

そして、この木の桜が、満開になっている情景を……精一杯、足りないイマジネーションで、イメージしてみる。

 

桜の花が咲き乱れたら、

春で。

 

また、春がやってきて。

 

はじまりが、はじまって。

 

 

「ねえ、アツマくん!!」

 

「どうしたんだよ」

 

「いまのわたし……幸せそうに、笑えてる?」

 

「……笑えてるよ。」

 

「しょーじきに言ってよねっ。ウソ言ったら、大学留年する呪い、かけちゃうよ」

 

「ウソなんて、言うもんか」

 

「それを聞いて安心」

 

「安心したなら、母さんのとこに急ごうや」

 

「――せっかちなんだから」

 

「――悪かったな」

 

「悪いなんて、言ってないでしょっ」

 

「……」

 

「どしたの」

 

「……、

 いい笑いかたしてんな、おまえ。

 きょうは、とくに」

 

「あら~~っ」

 

「な、なんだよそれっ!! 『ありがとう』って言ってくれても、いいだろ!?」

 

「ありがとう」

 

「お、おお」

 

「――何度でも、言ってあげる」

 

 

× × ×

 

 

ひとまず、さよなら、

わたしの母校。

 

バイバイ。

忘れないよ。

 

きっと、いつまでも――、

この場所と、つながっているから、

過ごした6年間という時間が――、

いつだって、わたしを、

支えてくれる。