【愛の◯◯】史上最大の引き継ぎ

どうも皆様こんにちは。

一宮桜子(いちみや さくらこ)、スポーツ新聞部です。

 

ーー、

ーー、

 

 

…昨日は、お見苦しい茶番を演じてしまいました。

ですが、気を取り直して、きょうを乗り切れば三連休なわけなのです。

 

そしてきょうは。

「あのひと」が、とある場所から帰ってくる日ーー。 

 

スポーツ新聞部

活動教室

 

瀬戸くん「中村部長がきょう、福岡から帰ってくるんだよな。

 そうだろ桜子?」

 

わたし「そうよ、大学入試を終えて。

 わたし部長の引き継ぎをしないといけないと思ってるんだけど」

 

岡崎くん「そんなの後回しでいいじゃないか」

 

わたし「よくない! 卒業式はすぐそこだし」

 

岡崎くん「あせるなよ、桜子」

 

わたし「あせってない!!

 岡崎くんはいつも落ち着いてるよね、落ち着きすぎなぐらいに」

 

岡崎くん「『急いては事を仕損じる』ってのがウチの家訓でな」

 

わたし「(わざとらしく)へえ! 家訓?

 ずいぶんごりっぱなことで」

 

岡崎くん「なんなんだよ……ったく」

 

 

あすかちゃん「内心は、中村部長に早く帰ってきてほしいんですよね、桜子さんw」

 

 

 

 

 

 

 

あすかちゃん「あ、桜子さん『どうしてわかるの』って顔してるw」

 

 

 

 

『思慕』とか、そういうのとは違う。

 

純粋な、『あこがれ』だけ、わたしは中村部長に持っている。

 

混じりけのない『あこがれ』で、2年間、中村部長とやってきた。

やってきたんだ。 

 

 

わたし「あすかちゃん、わたし、中村部長が好き」

 

 

 

 

 

 

 

わたし「なにみんな愕然(がくぜん)としてるの?w

 部活の先輩として、好き、に決まってるじゃない」

 

 

ガラッ

 

ただいま~~

 

 

わたし「ぶっ部長っっ

 

 

あすかちゃん「おかえりなさいませ、部長!」

瀬戸くん「おかえりなさい部長、お疲れ様です」

岡崎くん「お待ちしておりました」

 

 

部長「YOYOYO。入試受けてきたぜよ」

 

わたし「なにがYOYOYO、ですかっっ」

 

部長「桜子、棒立ちになってどうした?

 

 全身ガチガチで、固まったアイスキャンディーみたいだぞ」

 

わたし「季節外れで下品なこと言わないでくださいよ」

 

部長「下品かなあ?」

 

 

 

わたし「(くすっと笑って)

 ……なにやってんだろ、わたし。」

 

 

一同『?』

 

 

 

部長「あ! みんな入試の結果知りたいだろう」

 

わたし「部長、入試の結果はあとです。引き継ぎです

 

部長「こ、拘束力は!?」

 

わたし「史上最大。

 

 

 

 

【愛の◯◯】桜子の悪いクセ発動… ハグって、沈黙。

どうも皆さんこんにちは。

瀬戸宏(せと こう)っていいます。

とある高校の2年生でして、

えー、もうお馴染みかもしれませんけれども、

「スポーツ新聞部」という部活に入っております。

 

同級生の一宮桜子(いちみや さくらこ)に、よく、

「瀬戸くんは『水(みず)』の競技の担当って言われるんですけれども、

水が関係する競技って、必ずしも競泳だけじゃなくって、

ほら、ボートなんかもそうですよね。

水泳にしても競泳のほかにも、飛び込みだったり水球だったりシンクロだったり…。

(ところで、あだち充の『ラフ』っていう漫画知りませんか? ヒロインが飛び込み競技の選手なんですけど。映画化もされたんだけど、ご存知ありませんかねえ。)

ま、さすがにウチの高校にはシンクロ部まではありませんが。

 

まあそれはともかくとしまして、きょうの放課後もゆるゆると活動教室に行って、ゆるゆると部活を始めていたわけなのです。 

 

@スポーツ新聞部の教室

 

・ヒマなので、後輩のあすかさんとダベり中

 

あすかさん「ノムさん野村克也監督)が亡くなりましたけど、ノムさんってたしか現役時代は『南海ホークス』の選手だったよねと思って、Wikipediaで『南海ホークス』で検索してみたら、『福岡ソフトバンクホークス』のページに飛ばされて」

おれ「つまり、南海とダイエーソフトバンクがひとまとまりになっているんだな」

あすかさん「そうなんです。球団の歴史も、南海時代からで。

 わたし、南海時代から現在までの記述をずーーーっと読んでいったんですけど、球団の歴史だけでもぜんぶ読むのに1時間以上かかって!!」

おれ「そりゃあなー。だって70年や80年っていう歴史でしょ?」

あすかさん「1938年からはじまってますからねーw

 

 南海ホークスって、鶴岡一人さんっていう監督の時代がすごく強かったみたいですね。ノムさんもそのころの中心選手で。大阪の球団だったけど、もとは阪神より人気があったとか」

おれ「パ・リーグだけど、阪神より人気してたのか」

あすかさん「サンテレビが開局する前のはなしですよ」

おれ「サンテレビ関係あるかなあw」

あすかさん「どうでしょうww

 デイリースポーツはもうあったと思いますよww」

 

 

桜子「あすかちゃん」

あすかさん「アッはい」

桜子「今回、むかしのホークスについて調べてわかったことを、記事にしたりはしないの?」

あすかさん「それはちょっと」

桜子「理由は?」

あすかさん「南海時代のこととか、福岡に行ってしばらく低迷してた時期の記述とか面白かったんですけど、

 Wikipediaですから。

 Wikipediaが出典なんじゃなくて、Wikipediaの記述にはソースがある、逆に言えば、ソースあってのWikipediaなんですから」

桜子「Wikipediaが『一次資料』にはなりえない、ってことね」

 

おれ「なるほどなぁ」

桜子「なるほどなぁ、じゃないわよ瀬戸くん」

おれ「へ」

桜子「瀬戸くんもそこんところ気をつけてよ」

おれ「でも…『一次資料』とか『二次資料』とか『出典』とかまどろっこしくないか」

桜子「…瀬戸くん、本、読む?」

おれ「雑誌や新聞は読むけど?」

 

桜子「瀬戸くん、もっと本、読んで……。

 ちゃんとした本を、読んで……。」

 

なんでそんなさみしそうなんだ。

 

おれ「なんでそんなさみしそうなんだ」

 

桜子「さ、さみしくていってるんじゃないの、瀬戸くんのことをしししし心配して、」 

 

おれ「それに、さっきまでの話の文脈と『ちゃんとした本を読むこと』と、どう関係があるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

おれ「桜子ぉ~、そこで黙られたら、おれも困るんだよぉ」

 

あすかさん「マアマア、瀬戸さんもちょっと責めすぎじゃないですか」

おれ「だって」

あすかさん「兄が話してたんですけど、

 大学の講義で、先生が『レポートでもテストでも、ネットのコピペしたら単位あげないよ~』って言ってた、って。

 まあ常識的に考えたら単位もらえないのはあたりまえなんですけど、『一次資料』や『二次資料』や『出典』っていうのは、つまりそういうことで、要するに、情報の出どころを明確にしようってことで。

 引用するなら、引用元を明確にしなきゃいけないし。かといって、Wikipediaは情報の出どころ、引用元としてどうかなあ? ってことで。

 その点、ちゃんとした本だったらちゃんとした資料を出典にしているし、引用のしかたもちゃんとしてるはずで、

 そういうふうにして書かれた本のような、ちゃんとした文章の作りかたを、瀬戸さんに知ってほしかったから、桜子さんは瀬戸さんに『ちゃんとした本を読んで』って言ったんだと思いますよ。

 

 …『ちゃんとした』って、何回言いましたか、わたし?w」

 

おれ「5回…いや6回か、いややっぱ5回かもしれない。

 

 それはどうでもいいんだけど、

 あすかさん…かしこいな…きみは」

 

あすかさん「!? かしこくなんかないです」

 

 

・突然あすかさんに抱きつく桜子

 

 

あすかさん「!??!」

 

 

 

 

あすかさん「あの、桜子さん、抱きつくだけじゃ、なんの意思表示をしてるのかわかんないです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おれ「やれやれ」

抱きつかれたあすかさん「せ、瀬戸さん、たすけてください桜子さんがなにも言ってくれません」

おれ「『わたしの思ってることを言ってくれて、ありがとう。』

 そう言いたいんだよ、桜子は。

 でも言えないから、それを言う代わりに、あすかさんへの感謝の気持ちをハグであらわしてるんだ。

 

 そうなんだろ? 桜子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうなると、桜子はうんともすんとも言わない……。

 

(^_^;)う~む、桜子に「返事のしかた」を、どうやって学ばせるべきか?? 

 

 

【愛の◯◯】幼なじみシンパシーと年齢デリカシー

某児童文化センター

 

え、戸部くん月曜にここ来たの!?

 

 

× × ×

 

月曜、どうやらあたしがセンターから帰ったあとで、

戸部くんがやってきて、子どもたちと遊んでいたらしい。

 

あ、

どうもどうも。

茅野(かやの)ルミナです。

 

大学が、入試関係でロックアウト状態なのでして、

きほん、家で公務員試験の参考書とにらめっこしているのですが、

引きこもって勉強ばかりしているのもツラいわけです。

お外の空気が吸いたいのです。 

 

で。

月曜同様、大学のオンシーズン(?)よりも早い時間帯に児童文化センターに来てみたら、

長いことお世話になっている職員の「松江(まつえ)さん」から、戸部アツマくんが月曜にうんぬん~といった話を聞かされて。

 

戸部くんといえば、大学休み期間に入ってから、夏休み同様またカフェの『リュクサンブール』でアルバイトを始めている、という情報がどこからともなく耳に入ってきているので。

 

耳に入ってきているので。

 

お昼ごはんもまだだし、あたしお腹がすいているので……w

 

 

@『リュクサンブール』

 

「いっいらっしゃいませ…」

 

「やってる? 戸部くん」

「やってるって、なにをですか」

「やだーにぶいねえ、『元気にやってる?』ってことだよ。」

 

「ご注文はーー」

「まだランチタイムだよねえ?」

「はい」

「じゃあねえ、

(メニューをしげしげと見て、)

 へえ~ロコモコはじめたんだ」

「はい、新メニューでロコモコを」

「おいしいですか? ロコモコ

「おいしいですよ、ロコモコ

 

× × ×

 

・食後。戸部くんがお冷やを入れに来る

 

「ごちそうさま。

 戸部くんのことばに、ウソはなかったよ☆」

「(;^_^)どうも。

 

 あ、

 葉山って、覚えてますか?」

「あ~覚えてる覚えてる~、愛ちゃんの先輩」

「あいつたぶんもうすぐここに来ますよ」

「常連なのね、葉山ちゃん」

 

 

♪カランカラン♪

 

 

「葉山、噂をすれば」

「おはよう戸部くん」

「おはようじゃないだろもう」

「疲れたから遅く起きたから」

「あー…なるほどな」

 

葉山ちゃん!!

ルミナさん!!

 

「なんですか、感動の再会みたいに」

「だってぇ~~感動の再会だよ、戸部くん」

「また逢えた……ルミナさんに(泣き真似)」

「はいはい、葉山はきょうはなに飲むんだ?」

ロイヤルミルクティー。」

「あ、あたしもロイヤルミルクティー追加で」

「(;-_-)はいはい…」

 

 

× × ×

 

で、ロイヤルミルクティーを飲みながら、

同じテーブルで葉山ちゃんと話し込んだ、というわけ。

 

「そっか、葉山ちゃん、キョウくんっていう幼なじみがいるんだ」

「はい。それで日曜・月曜と、わたしが彼の受験の付き添いみたいになって」

「それはご苦労さま」

「……。

 あのっ、キョウくんのこと、もっと知りたくないですか?」

「そりゃまた、どして?」

「すみません、ヘンな質問だったでしょうか」

 

「…余計なことは訊(き)かないよ、あたし。

 安心してw

 ただ、葉山ちゃん、あなたがもっと話したかったら、その話を聴いてあげるだけ」

 

「ありがとうございます、なんだか恥ずかしい」

 

「ーー、

 

 あたしにも幼なじみの男子がいるんだ。

 山田ギンっていうんだけど。

 幼稚園から同じクラスでね。

 腐れ縁って、まさにこういうこと」

 

 

葉山ちゃんにはキョウくんがいて、

あたしにはギンがいて、

 

葉山ちゃんのことが、ますます身近に感じられるようになって、よかった。

 

「共犯関係」っていうたとえは、ヘンかなあ?w

 

 

・葉山ちゃんが帰ったあと

 

「ルミナさんが大人でしたね」

「(うれしくて)えええほんとう!? 戸部くん

 

「残念ながら聞こえてたんです、会話が。

 キョウくんのくだりとか。

 

 ほら、『余計なことは訊かない』ってルミナさん言ったじゃないですか。

 あそこらへんのしゃべり方が、さすが歳上だけあるな~、大人だな~、って」

 

「『余計な詮索(せんさく)はしないであげてください』って言ったの、戸部くんじゃん」

「ああ、たしかに言ったおぼえあります。去年、ルミナさんと葉山が初対面したとき」

「でしょ?」

 

「でもーー。

 

 さすがにルミナさんは90年代産まれですね。

 

 大人です。」

 

 

 

 

「(むくれて)せっかく、戸部くん、おだてるのうまいと思ってたのにっ

「?」

 

 

 

【愛の◯◯】春が遠そうなギンよ

・音楽誌『開放弦』のバックナンバーより

 

松任谷由実 90年代の3枚のヒットシングル

 

圭二「『真夏の夜の夢』。いまではとんだ風評被害を食らってますが、93年発売でなんとシングルのリリース自体が4年ぶり……」

 

小鳥遊「アルバムは出してなかったんですか?」

 

圭二「いい質問だ、小鳥遊。

 シングルを出していなかった時期も、ユーミンは毎年のようにアルバムを出していた。ベストじゃないぞ。オリジナルアルバムだ」

 

小鳥遊「エッそれってシングル曲がいっさい入ってないアルバムってことですよね」

 

圭二「それが200万枚売れるんだから、すごいよね」

 

 

小鳥遊「『真夏の夜の夢』か。『夏の夜の夢』っていうシェイクスピアの喜劇なら知ってるけど……」

 

圭二「え、そんな作品あったの」

 

副編集長「教養、っつーやつやろ、圭二。たぶん曲名もシェイクスピアのその喜劇からとったんやと思うで」

 

圭二「それ確定情報なんですか? 副編集長」

 

副編集長「しらん」

 

圭二「はぁあ…。

 にしても小鳥遊、よくシェイクスピアの喜劇の名前が出てきたね」

 

小鳥遊「文学少女ですから♪」

 

圭二「『少女』……??」

 

小鳥遊「そ、そこにつっこまないでください」

 

副編集長「ええやないか、文学少女的編集者っちゅうのも」

 

小鳥遊「(救われたように)副編集長~!」

 

圭二「きみ、入社何年目だっけ」

 

小鳥遊「2年目です」

 

圭二「……」

 

小鳥遊「……」

 

 

副編集長「それはそうと『真夏の夜の夢』はドラマの主題歌やったろ?」

 

圭二「そうみたいですね」

 

副編集長「『誰にも言えない』っていうTBSドラマの主題歌だったはずや。実家に録画したVHSがあったのを、なぜか憶えとるんや…」

 

小鳥遊「ぶい、えっち、えす、???」

 

圭二「小鳥遊ちゃん、ビデオテープってわかる?」

 

小鳥遊「DVDみたいなものですよね?」

 

圭二「少女だ。」

 

副編集長「少女やな」

 

(きょとんとする小鳥遊。無理もない)

 

 

副編集長「たしか佐野史郎が出とったドラマや」

 

圭二「佐野史郎といえば…冬彦さん…『ずっとあなたが好きだった』…」

 

小鳥遊「あ、『冬彦さん』って、おぼえてるかも」

 

圭二「そうだ、『冬彦さん』現象の『ずっとあなたが好きだった』の主題歌が、サザンオールスターズの『涙のキッス』でーー」

 

小鳥遊「JPOP講座やってましたよね、わたしが入社前の研修中のときに」

 

副編集長「遠い昔のようやなぁ」

 

小鳥遊「でもわたしおぼえてましたよ」

 

圭二「おれもJPOP講座のことは、今でも『再開したい』って思ってるよ」

 

小鳥遊「だれの話でしたっけ」

 

圭二「そうだ、ほんらいユーミンの話だったのに」

 

副編集長「ユーミンとサザンがつながっとるやないかw」

 

・・・・・・・・・・

 

 

「ギンのばか、雑誌読みながら声出して笑わないでよ」

「ごめん、思わず声が出た」

「勉強中なんだからねっ、あたし!」

「おれも勉強しようかな」

 

 

「(眼を見開いて)ギン、あなただいじょうぶ……?

 

 

「だいじょうぶだから勉強するんだろ?

 せっかくルミナの部屋にも来たことだし」

「その『せっかく』って、いったいどういう意味があるの……」

 

 

 

「なんの記事読んでたの」

「『松任谷由実 90年代の3枚のヒットシングル』」

ユーミンの『春よ、来い』って、いい曲よね」

「だな。今の季節にぴったりだ」

「ギンの春はいつ来るの」

「そりゃどういう意味ですかルミナさーん」

「だってw

 

 年がら年中、春が遠そうにしてるじゃない、ギンww」

 

 

 

 

【愛の◯◯】「アツマにーちゃん」、見参

どうも戸部アツマでござんす。

 

いかがお過ごしですか? 

 

さて本日の東京はうららかに暖かく、春の訪れのようだった。

 

茶店のバイトもはかどるはかどる♫ 

 

おまけに店長さんに「早くあがっていいよー」と言われたので、

少し早くバイト終了。

 

葉山がいつもの時刻に来店しなかったのは気になったが、いい事が多い日だ!!

 

(^_^;)…けど、バイト早引けだったんで、時間を持て余してしまったな。

 

どうするか。

 

 

 

あ!

 

ピコーンと、ひらめいた、おれ。

 

・愛に電話

 

『もー、わたしが学校にいるときは、放課後でも極力電話しないで、って言わなかったっけ?』

「そうだったっけ」

『…まあいいわ。

 用件は?』

「えーと、2つある」

『最初に用件がいくつあるか伝える、いい心がけね』

 

「1つ目は、葉山がきょう『リュクサンブール』に来なくってさ。

 このところ毎日のように同じ時間帯に来てたから、ちょっと気になって」

『ああ、それは、キョウくんさんの入試につきっきりなのよ』

「あー、キョウくんの入試日だったのか」

『キョウくんさん昨日と今日が本命の入試なんだから』

「じゃあ葉山もつきっきりになるわな。

 それはそうと……、

 (^_^;)『キョウくんさん』って呼び方は、どう考えても不自然だから、やめような」

 

『(無言)』

 

「おまえらしくない日本語の乱れだと思うぞ」

 

『……わかったわよ。

 

 2つ目の用件は?』

 

「ああ、2つ目はな、バイトが早く終わって時間ができたから、

 児童文化センター、あるだろ?

 あそこに行ってみようと思って」

 

どういう風の吹き回しなの!?!?

 

「そんなびっくりせんでもいいだろー。

 

 大それた理由じゃねーよ。

 前に一度、おまえを迎えにセンターに入ったとき、

 オセロとか五目並べでガキんちょと遊んでさ、

 かなり楽しかったんだよ、じつは」

 

『………わたしはあなたがズケズケとセンターに入ってきてかなり恥ずかしかったけど、ね』

 

「知ってる。

 

 ーーだから、センターに行くときは、前もっておまえに許可を取っとかないといけないと思った。

 それで、いま電話したわけだ」

 

 

『………そういうこと。

 じゃあわたしは行かないからね。

 ひとりで行って、帰ってきて。』

 

徹底してるなーw 

 

『あと変なことは絶対にやらかさないでね』

 

「変なことってどんなことだよ」

 

じぶんでかんがえてよっっ

 

 

 

× × ×

 

やってきました

児童文化センター

 

 

いきなり職員のおばさんが話しかけてくるの巻。 

 

「ね、もしかして、羽田愛ちゃんのーー」

保護者です」

「(動じず)

 前に1回来てたよね?

 子どもたちによ~く馴染んでたじゃない。

 また来てくれたってことは」

「はい、子どもと遊んであげたくて」

「うれしい~~。

 

 惜しかったなー、

 愛ちゃんと一緒にね、ルミナちゃんって娘(こ)がよく子どもたちと遊んでくれて。

 ルミナちゃんはこのセンターで育って、このセンターで育て役になって、つまり産まれたときからずっとこのセンターに通い続けてるようなものなんだけど。

 でもルミナちゃん、大学休み期間だから、早く来てさっき帰っちゃって。ちょうどあなたと入れ違いみたいに」

「ルミナさんはおれの大学の先輩です」

「あら! 奇遇」

 

(^_^;)割とよくしゃべるオバサンだな。

 

 

× × ×

 

『おにーちゃん、『アツマにーちゃん』だろ? まえ、きてた』

「おーよくおぼえてるなー、

 そーだおれがアツマだ」

『アツマにーちゃん。

 アツマにーちゃん、ぼく、このコマがうまく回せないんだ。

 アツマにーちゃんなら、回せる?』

「まかせろ! こういうのは得意なんだ」

『てさきがきよーにはみえないけど』

「そんなことねーぞ。

 …ほれ」

『すげー!! そんなはやくコマのヒモってまけるんだ』

「見てろよ? …いくぞ。

 

 おりゃっ!(コマを投げる)」

 

すげーすげー!!! ぜんぜんコマのかいてんがとまらねー!! 

 ずっとまわってるよ!!

 

『ほんとだー!』

『こんなのはじめてだよ!』

『コマがまわるの、きれい~!!』

『にーちゃんがいちばんうまいよ!! アイねーちゃんもうまかったけど

 

おっw 

 

「そりゃそうだ、運動神経で愛はおれに勝てないからな!」

 

『…コマって、うんどーしんけーでまわすもんなの?』

 

「…しょ、しょーぎもオセロもあいつがおれに勝ったことは一度もないからなぁ!」

 

『そりゃそうだよ! アイねーちゃんよわすぎるもんw』

『それより、なんでアイねーちゃんのことそんなにものしりなの??』

『そんなにアイねーちゃんのことものしりなら、あそこのエレクトーンもひけるんじゃないの??』

『たぶんひけるよ! このおにーちゃんなんでもできそうだから』

 

(-_-;;)……………

 

子どもに…罪はない…… 

 

 

「ごめんな、できないんだ、楽器は」

 

『え~~~~』

 

「音楽で愛には一生勝てないよ」

 

『(おれの背中を叩いて)もっとがんばりなよ!

 

 

(-_-;)…………泣きそう。

 

 

【愛の◯◯】むちゃくちゃなバレンタイン

こんにちは! アカ子です!

 

……、

1ヶ月ぶりのごぶさた、ですか?

 

いいえ、別に「もっと出番がほしい」というわけでは、全然ないですから、

ないんですからね!! 

 

気を取り直して、きょうは2月14日。 

 

もう、何の日かは、おわかりですよね。

 

 

 

 

それで、わたしはーー。

 

 

ハルくんのサッカー部の練習場

 

ーー来てしまいました。

 

でも、マオさんが見当たらない。

 

その代わり、いつもマオさんが立っていたところに、別の女の子が立っていて、グラウンドに檄(ゲキ)を飛ばしている。 

 

 

「(こちらに気付いて)

 あ! アカ子さん、ですよね?」

 

「Σ(・・;)」

 

× × ×

 

「わたし四日市(よっかいち)ミカっていいます。

 マオさんの後任です」

「後任…ってことは、マネージャーの長(おさ)ですか?」

「そんな感じです。

 マネージャーも代替わりするので」

 

ということは、いま、わたしと同じ、2年生。 

 

四日市さん。

 あの……本来部外者なんですけど……今後ともよろしくおねがいします。

 (ぺこり、と頭を下げる)」

 

そんなにかしこまらなくても~~!!

 

「わたし、そんなにかしこまってますか?」

「はい、かしこまってます、かしこま状態です」

「か、かしこま状態!?」

かしこま!

 

 

・ここからはタメ口で

 

「アカ子さん、きょうここにわざわざ来たってことは、『そういうこと』でいいよね?」

「ええ。ハルくんにーー、」

わたしもハルにチョコつくってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い?

 顔が真っ青だぞ~??

 帰ってこ~い??」

 

「(さりげなく手ぐしで髪をならして)

 だ、だしぬけにさっきみたいなこと言われたら、誰だって顔が真っ青になると思うんだけれど」

「まっさかあww」

「まさか、じゃなくて」

「アカ子さんもしかして『ウブ』ってやつ?w」

「ーーーー、

 そ、そうね、『初めての心』って書いて『初心(うぶ)』だから、そうともいえるかもしれないわね」

「『初めての心』ーー。

 初恋だったんだ、アカ子さん」

 

 

 

 

 

 

「ーー何も言えないってことは、ビンゴなんだね。

 

 たしかにわたしもハルにチョコあげるんだけど、

義理チョコ』ってことば、知らない?ww」

 

「ーー知らなかったわ。初めて知った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして今度は四日市さんのほうが黙っちゃうのよ」

 

 

× × ×

 

 

@帰り道 with ハルくん

 

「さすがに今回は、練習場の入り口で出待ち、なんて非常識なことはしなかったんだな。

 学習、できてる。

 えらいぞ」

 

「子どもじゃないんだから。」

 

「えらい、えらい」

 

「わたし、あなたの娘じゃないんですけどっ!

 

 わたしは……あなたの……」

 

 

(その先が言えず、口ごもってしまう)

 

(ハルくんも、バツが悪そうに、沈黙する)

 

 

「わたしは、あなたの、

 

 …じゃなくってっ、

 わたしは!

 あなた『に』!

 

 あげたいものがあって…ここにきたの」

 

「知ってる」

 

・カバンの中から、チョコを取り出そうとする。

 なぜか、なかなかチョコが見つからない。

 

「ミカと会ったんだろ」

「(一心不乱にチョコを探しながら)四日市さん?」

「そ。四日市ミカ。

 騒々しいやつだけど、仲良くしてやってくれ」

「わかったわ。あなたの頼みなら。

 

 ところでっ、

 わたしのチョコが、見つからないの」

「?」

「だ、

 か、

 ら、

 !

 

 わたしがあなたにあげたいチョコが、

 チョコがカバンに見当たらないの!!」

 

「学校の教室に置いてきたとか」

「そんなばかな」

「朝、自分の部屋に置いてきてしまったとか」

「最初から持ってこなかったってこと!?

 そんなはずないわ」

「ちゃんと確かめた?」

「………………………」

 

 

 

でも、

なんどカバンの中をかき回しても、

見当たらない、

ない、

 

ない。

 

 

徒労?

無駄な努力?

手作りが、水の泡……

 

 

ここまで来て、

バレンタインがわたしを見はなした。

 

 

 

 

 

絶望。 

 

 

「(立ち止まって)ハルくん……、

 つかれちゃった、

 ぐったりきちゃった」

 

 

「……泣いてるの?

 アカ子」

 

 

「(ハルくんの胸をコツン、と叩いて)

 バカっ、

 誰だって泣くに決まってるでしょ

 

 

・人目かまわず、泣きながらハルくんの胸にすがりつく

 

・そして人目かまわず、ハルくんの胸を乱打する

 

 

 

 

「(泣き疲れ、叩き疲れて)

 どうすればいいのよ。

 どうしようもないのに、どうしたらいいの

 

 

 

「…自転車」

自転車がどうかしたの

「…ここからきみんちまで、自転車でどのくらいかかる」

考えたこともないわよっ

「じゃあ、とにかく行こうよ、きみんちに。

 考えてるヒマ、ないよ。

 きみんちに行けば、チョコが部屋に置いたままになってるかもしれない」

二人乗り…?

「しがみついてれば大丈夫だ」

「…部屋に、

 部屋になかったらどうするの、

 チョコ」

「作ればいいだろ。おれも手伝うよ。蜜柑さんに教えてもらう」

むちゃくちゃよ、あなた

「ほら、乗って」

むちゃくちゃね、ほんとうに、あなた、

『おれも手伝う』なんて、バレンタインをなんだと思ってるのかしら…。

 

 

 振り落とさないでね。

 わたしも、絶対に離さないから

 

 

 

 

【愛の◯◯】掌(たなごころ)の……。

 

「~~♫」

 

『おはよう』

 

「おはよう~~~♫♫」

 

「なんだ、やけに楽しそうだな」

「センパイと、仲直りできたから」

「葉山と?」

「うん。アツマくんのおかげ。

 

 ご心配をおかけしました」

「(-_-;)だれに向かって言ってるのやら……」

 

 

「ねぇ、紅茶」

「紅茶が、どうかしたか??」

「きのう、飲ませてくれたでしょ。

 あれ、また飲みたい」

「何の変哲もない紅茶だったと思うが……」

「でも、いつもコーヒーだし」

「たまには紅茶に浮気するのも悪くないってかw」

 

「……」

「なんでそこで黙るんだよ!?」

 

「……コーヒーに、恋してるのかな、わたし」

「(^_^;)そうとも言えるかもな……」

 

 

 

「習慣を変更するのよ。ワンパターンじゃつまらないでしょ」

朝にブログを更新するとか?

「そう」

いっつも約2000字は書くところをごく短い分量に留めておくとか?

「そう」

 

「……原稿用紙1枚って何文字だっけ」

「400字よ、アツマくん」

「マジで!?」

「あのねえ💢」

 

 

【愛の◯◯】世界一信頼できるひとが、ふたりになった

夕方

戸部邸

 

「葉山先輩から電話だ」

 

× × ×

 

「もしもしー」

『こんにちは羽田さん。

 元気?

 カゼ、ひいてない?』

「げんきですよー」

『それはよかった。

 いま、なにしてた?』

「読書してましたよ。

 ロジェ・グルニエの『書物の宮殿』って本です」

『いい趣味してるわね』

「そうですかあ?w」

 

『えーと、

 急な要件で電話したわけではないんだけど、

 

 日曜日から、キョウくんの第一志望の入試なの』

「早稲田の建築でしたっけ?」

『そうよ。

 

 なんとかがんばってほしくて、

 それで一昨日(おととい)と昨日、キョウくんの家に泊まりがけで行ってーー』

「それはずいぶんおたのしみでしたねww」

『あのねー💢』

 

「ごめんなさいセンパイからかって」

『あなた結構、根は不真面目よね』

「かもしれませんね」

『…わたしは表向き不真面目なようで、根っこでは真面目だから、逆か』

「いいことじゃないですか」

『真面目なのが?』

「はい。」

 

『あのね。

 真面目だから、ひとに言われたことも真に受けすぎるところがあって、困ることがあるの。

 

 一昨日の夜、キョウくんのお母さんに言われたのよ』

「なんて?」

『これからもずっとキョウくんのそばにいてほしいって』

「いいじゃないですか~!

 親公認ですよ親公認!!

 なんで困ってるんですか?w」

『…急に言われたら、びっくりするじゃない?』

「そういうものですか?」

 

『羽田さん、戸部くんのお母さんにそういうこと言われたことあるの?』

 

「……」

 

『ないでしょ?

 経験がないと、ちょっと想像しづらいかも、だよね。』

 

「……」

 

『ごめんね。

 逆に羽田さんを困らせるようなこと、言っちゃった』

「いいえ…わたしも『親公認』なんて、調子に乗りすぎました、ごめんなさい」

『ごめん…』

「…こっちこそ。」

 

『………』

「………」

 

『……なんだか、気まずいね、電話だと、こういうとき』

「深刻に受け止めすぎないでください、センパイ」

『真面目すぎるのも罪だね』

「いくら真面目でも真面目すぎることはないと思います。

 でも、センパイがーーこう、沈みすぎるのは、ダメだとわたし思うから」

 

『………』

「………」

『……ねえ羽田さん』

「(できるかぎり優しく、)なんですか、センパイ。」

『キョウくんの家は湘南の海に近いの』

「ステキ」

『上の階にあがると、窓から海が見えるの』

「ステキ、ステキ!!」

『そう。

 ほんとうに、すてきよ。

 朝なんか、海がキラキラ光ってるの。

 

 ーーあなたは、湘南とか、行く機会なかなかないかしら』

「そんなことないですよ~」

『え!?』

「わたし横浜ファンなんで、じつはあそこらへんのことは割と詳しいんです。

 むかし、海水浴に行ったこともあるし」

『住んでたの? 近くに』

「そういうわけではないです。でも、神奈川県方面へのアクセスが便利な場所って、案外多いじゃないですか、東京はw」

『ああ…w そゆこと』

 

 

 

× × ×

 

おととし、アツマくんと湘南に行ったことは、

諸事情により、言えずじまいだった 。

 

 

 

あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

 

なんかグダグダだったなー。

尻切れトンボで、通話が終わってしまった感じ。

一瞬、気まずかったし。

センパイからせっかく電話してきてくれたのに。

 

軌道修正、しないと。

アフターケア。

 

× × ×

 

その夜

ダイニング

 

「どうした? 浮かない顔して」

「わかっちゃうよね、アツマくんなら」

「たまには紅茶でも飲まないか? 気分が落ち着くかもしれんぞ」

「そうかしら」

 

× × ×

 

・アツマくんと紅茶を飲む

 

「原因を当ててやろうか」

「浮かない顔してる原因?」

「そうだ。

 

 ずばり、葉山とケンカした」

 

「近い……限りなく近い。

 

 どうして葉山先輩とだって特定できたの?w」

 

「当てずっぽうだよ。

 ただ…」

「ただ?」

「おまえは葉山のことが大事だし、葉山にしたっておまえのことが大事だろ?

 互いにたいせつに思い合っている、ってことだろ?」

 

(うなずく)

 

「そんな関係が少しでもこじれたら、浮かない顔になるに決まってるだろ。

 

 少しだけ、行き違いがあったんだな?

 

 そーだろ?」

 

(両手で持ったマグカップに視線を落とす)

 

「しんみりすんなよな、そんなに。

 

 …アフターケア、したいんだろ?」

 

そうだ。

 

葉山先輩も、気まずく思ってるかもしれない。

 

このままじゃヤダ。

 

だから、だから。

 

 

ーー顔上げて、アツマくんの眼をまっすぐ見て、深呼吸してから。 

 

 

おしえてください、アツマ先生。

 

 アフターケアの方法。

 

 

 

 

こういうときは、アツマくんに頼るのが、いちばんいいんだ。

そうすれば、間違わない。

 

ーーわたしのおとうさんも、そうだった。

世界一信頼できるのが、わたしのおとうさんだった。

 

 

 

ーーいまは、世界一信頼できるひとが、ふたりになっちゃった。

いいよね、『世界一』が、ふたりいたって。