【愛の◯◯】「途切れ途切れ」の小泉さん

 

「小泉さーん」

電話の向こうの小泉さんに呼びかけてみる。

しかし、返事が無い。

唐突な沈黙。

謎の沈黙。

なにゆえ?

「小泉さーーん」

もう1回呼びかけ。

すると、ようやく、

「あ、ああっ、あああっ、利比古くんゴメンねゴメンね、何もかも、うわの空だった……!!」

どうしてだろうか。

小泉さん、凄く慌てた声だ。

彼女にいったい何があったというのか。

一瞬、考えようとする。

でも、『まあいいか』と思って、

「とりあえず落ち着いてください」

と小泉さんにお願いする。

「……うん。精一杯落ち着く」

小泉さんのフニャけた声。

精一杯落ち着くって何だろう。

まあいいか。

この通話で大事なのは、

日本テレビ系列の夕方のニュース番組の歴史について話してくれるんでしたよね?」

「そうだったね利比古くん。わたしときみとで放送文化的トークするための通話だったよね。なのに、わたし、何をやってるんだろう。心ここにあらずとは、まさにこのコト……」

「大丈夫ですか? 話せそうですか? 小泉さんの勤め先の『泉学園』、夏休みに入ったんですよね? 1学期の疲れがドッと出てきたんでは……。教師は大変なお仕事だってよく聞きますし」

「まぁね。それなりに大変。1学期の最後になって、職務でちょっとしくじっちゃったコトもあって」

そう言ったあとで彼女は、

「しくじったから、挫(くじ)けた。挫けたけど、立ち直った」

と。

ぼくは、何気なく、

「立ち直るのを助けてくれた人が居たんですか?」

と訊いた。

するとまたもや、彼女からの応答が途切れる。

ラジオ番組でこんなに沈黙していたら放送事故だ。

1分、2分、3分。刻々と経過する時間。

彼女に、小泉さんに、いったい何が!?

 

応答が途切れてから10分近く経ってようやく通話に復帰した小泉さん。

「……利比古くん」

弱さの増した声で、

「カラダは大丈夫なんだけどね。ココロが、夏の暑さで参っちゃったみたいで。精神的に熱中症ってトコかな。アハハ」

 

うーむ。

彼女、日本テレビ系列の夕方ニュース番組の歴史について話してくれるようなコンディションでは無いな。

電話の向こうに団扇(うちわ)で風を送れないのが残念だ。