【愛の◯◯】おれに迫りくるベースの女子

 

あ。

どうも。

こんにちは。

おれ、和田成清(わだ なりきよ)っていいます。

某大学の2年生。

所属しているサークルは、「漫研ときどきソフトボールの会」。

……エッ、特技ですか??

特技はやっぱり……かなあ。

歌の上手さには割りと自信があって……。

あとアニメソングが好きです。

 

× × ×

 

ひょんなことから「ソリッドオーシャン」というバンドのボーカルを務めることになった。

重大な問題は、おれ以外のメンバーが3人とも女子だということ。

紅一点の反対って、なんだっけ。

 

バンドの練習場所。

ドラムスのちひろさんが近づいてきて、

「ワダくんワダくん」

「どうしたの? ちひろさん」

彼女は楽しそうな眼で、

「もう一緒に何回も練習してるんだし、『さん付け』は、やめよーよ

んんっ。

ということは。

「……呼び捨てで行こう、と??」

「ズバリだね」

「呼び捨てかぁ……」

「『ちひろさん』だと5音で長いし」

たしかにそれもそうか、と思い始めていたら、

「あたしからもお願いするよ」

と、ちひろさんのやや後方から、今度はベースのレイさんが。

「『レイさん』じゃなくって『レイ』って呼んで。同学年でもあるんだし」

「レイの言う通りだね。みんな同学年なんだから、呼び捨てでもっとフレンドリーになるべき」とちひろさんも加勢してくる。

「そう。フレンドリーに」

そう言ってから、レイさんはおれの顔をジッと見てきて、それから、

「あたしは『成清(なりきよ)』って呼ぶから。――いいよね?」

ひと呼吸置いたあとで、

「――わかった。」

とおれは承諾。

承諾してから、

「じゃあ、『ちひろ』と『あすか』も呼び捨てで行く」

と言うおれ。

「だから、ちひろもあすかも遠慮なく『成清』と……」

そうおれは言いかけた。

しかし、ちひろが、

「わたしは『ワダくん』呼びを継続する」

ええっ。

えええっ。

呼び捨てにするんだから、そっちも呼び捨てにしてくれよ。

筋が通らなくね!?

しかしながら、ギターのあすかも、

「わたしも『ワダくん』呼びのままがいい」

とか言い出してくる。

「なんで……」

動揺気味になっちまうおれ。

ここで、レイが、

「細かいことは後回しだよ、成清」

と言ってきた。

「あたしたちのバンドは細かいことにこだわらないのがモットー。『ソリッドオーシャン』っていうヘンテコ過ぎるバンド名にもこだわらなくなるぐらいに」

……それでいいのかよ。

「ずいぶんとアバウトな」

思わずそんなツッコミを入れるのだが、

「成清~~」

「な、なんだよっレイ」

「成清って『好き嫌い』しないよね??」

「『好き嫌い』?! なんの好き嫌いだよ」

「音楽の好き嫌い」

「ぐ、具体的には」

「アニソンだけじゃないじゃん。アニソンしか歌えないのかと思ってた。でも、あたしたちのレパートリーにすぐに順応したし」

「順応?」

「そ。順応。モーサム・トーンベンダー知ってるとか、ちょっとビックリした」

「も、モーサムの曲は、たまたま知ってただけで」

ほんとかな~~??

レイが急接近してきた。

女子3人の中ではいちばん背の高いレイが、限りなく距離を近づけてくる。

おれに戸惑いが襲う。

ちひろとあすかは明らかに意図的に傍観者モード。

あすかを見れば、ニヤつき顔。

ちひろを見ても、ニヤつき顔。

だれも助けてくれない。

助けてくれる人間なんてこの場には居ない。

紅一点の真逆。

それの……不都合が。