【愛の◯◯】酔い潰した張本人が迫ってくる

 

頭に鈍痛を感じつつ眼を覚ます。

ぼやけた視界がだんだんとハッキリしてくる。

おれの視界に入ってきた2人。

……愛とアカ子さんだった。

2人ともエプロンを装着している。

愛のエプロンはいいとして、アカ子さん用のエプロンはどうやって用意したというのか。

そんな些細な疑問とともに、頭に昨夜の反動たる痛みが響く。

状況。

紛れもなく土曜の朝である。

おれはソファで眼が覚めた。

おそらく、ではなく、確実に、酔い潰れたまま寝入ってしまったのだ。

アカ子さんのアルコール耐性が強すぎて、彼女についていけなかった。

そうであっても彼女の束縛から逃れることは不可能であったから、とうとう限界が来てブッ潰れたというわけだ。

 

おれを完膚なきまでに打ちのめしたアカ子さん。

彼女が数歩近づいてきて、

「おはようございます、アツマさん」

と満面の笑顔で言ってくる。

笑顔がまぶしく、

「……おはよ」

と、控えめな挨拶返しになってしまう。

なぜかアカ子さんはさらにおれの間近に迫ってくる。

おいおい。

うろたえ始めるおれに構いもせず、覗き込むようにして顔を近づけてくる。

それから、上品な苦笑いで、

「ゆうべの酔いがまだ残ってるみたいですね」

と言い、

「立ち上がれますか? 立ち上がるのを手伝ってあげたほうがいいですか?」

と言う。

視線を逸らさざるを得なくなるおれ。

迫りくるアカ子さんを……まともに受け止め切れるわけもなく。

「まだ低調みたいですね。起きたばっかりだからかしら」

と楽しげな声で言って、

「今から愛ちゃんがお味噌汁を作るので」

と言って、

「ここに持ってきてあげますから♫」

と、笑う。

 

「アツマくーん」

ダイニングテーブルのそばに立つ愛が、

「アカちゃんやさしいねー」

とニヤニヤ顔で言いやがり、

「どう? アカちゃんにやさしくされる気分は」

とも言いやがる……。

 

「……アカ子さん。」

「はい」

「おれの寝顔はどこまでアホ面だっただろうか」

「どうしてそんなこと訊くんですか~~?」

ぐ。

「二日酔いがまだあるみたいですねっ☆」

ぐぐぐ……。