アカちゃんがマンションに来てくれた。
「こんばんは、愛ちゃん」
「ヤッホー、アカちゃん」
× × ×
「いいお部屋ね」
「そう?」
「そうよ。大きな本棚もあるし」
「あー、そこに眼が行くか」
「アツマさんの本もあるんでしょう?」
アカちゃんはわたしにニッコリ微笑みかけ、
「アツマさん、もうすぐ帰ってくるのよね」
「うん」
返答するわたし。
ニッコリニコニコを持続させているアカちゃん。
× × ×
3人で床にペッタリ座って、「飲み」を開始する。
アカちゃんがアツマくんに向かい、
「ご苦労さまです、お仕事」
と言う。
「サンキューな、アカ子さん」
とアツマくん。
「土日はお休みなんですよね」
「今週は休み」
「だったら、」
アカちゃんはスッ、とビール缶を差し出して、
「心ゆくまで、お酒が飲めるじゃないですか♫」
とすっごく楽しそうに言う。
「の、飲み過ぎるつもりは無いんだけどな」
「固いこと言うものでも無いと思いますよ?」
「え……」
「お酌しましょうか」
アハハー。
完全なるアカちゃんペースだ。
これは愉快。
見ものね。
アツマくんがどれだけアカちゃんに「ついていける」か――。
日本酒をグラスに注ぎながら、わたしは傍観者に。
× × ×
「アカ子さん、きみには感謝しなきゃな」
まださほど赤くなっていないアツマくんが言う。
「アカ子さんファミリーの援助のおかげで、ここで暮らしていけるんだし」
「どういたしまして」
「きみが愛の親友でいてくれて、本当に良かった」
そう言われたアカちゃんは、カマンベールチーズの包装を剥がしながら、
「アツマさん。わたしだって、アツマさんに感謝してるんですよ?」
と。
「え……。感謝されるようなこと、したことあったっけ」
即座に、
「ありますから、いっぱい」
と答え、カマンベールチーズを口に持っていく。
「……具体的には」
と訊くアツマくんであったのだが、アカちゃんは缶ビールの中身を一気に喉に流し込んで、
「『教えてあげない』って言ったら、どうします??」
と、素面(シラフ)同然の顔で、彼をイジり始めていく。
答えに窮する彼。
愉快な流れになってきた。
アカちゃん。
その調子よ。
× × ×
アカちゃんが解放してくれないので、缶の中身を減らしていくしかないアツマくん。
すでに飲み過ぎになりかかっていて、眼がトロトロとしかかっている。
しかしながらアカちゃんは容赦なく、プレミアムモルツの缶をさらに2本、彼の前に差し出していく。
「アカ子さん……ちょっと……ペースが……速い気が」
喋りかたに酔いがにじみ出る彼。
「なにを言ってるの。アカちゃんのペースに合わせてあげなさいよ?」
愉快なわたしは彼に対して言う。
「む……無茶苦茶言うんじゃねえよ、愛」
「アカちゃんはお客さんなのよ。お客さんなんだから、もてなす義務がある」
「そ……それは、お……おまえ、だって、」
ぬふふ。
まわってきた、まわってきた。
「『コールドゲーム』にしちゃいなさいよ、アカちゃん」
「コールドゲーム? 野球の?」
「そ」
「つまり、大量得点で試合を終わらせちゃう、と」
「アカちゃんっていくら飲んでも理解が速いから助かるわ☆」
「にゃ、にゃにいってんだぁ、おみゃえら。こ、こ、コールドゲームぅ??? コールドもホットもにゃいだろぉ、おれたち、ただ、しゃけをのんでるだけぇ……」
おーっ。
潰れかかってるじゃないの、アツマくん。
アカちゃんがロングビール缶をまたしても飲み干す。
とん、とその缶を置いてから、すぐさまヱビスの缶に手を伸ばす。
そのヱビスの缶も瞬く間に飲み干してしまって、それからそれから……。