【愛の◯◯】アカちゃんの次はさやか

 

アカちゃんにお礼の電話。

 

「ありがとね、アカちゃん。いろいろしてくれて」

『――もっと、いろんなことをしてあげられたかもしれないって、少し後悔もしてるわ』

「じゅうぶんよ……。後悔なんかしないでよ」

『優しいわね……愛ちゃん』

「だ、だって、アカちゃんは大親友なんだし」

『その優しさを……大事にしてほしいわ』

 

アカちゃん……。

 

『愛ちゃん、』

「……?」

『わたしね。

 ――わたし、アツマさんの前で、泣いちゃったの』

「!? ――なにゆえ」

『理由は、じぶんでもよくわからない。けれど、感情がひとりでに、ドバッと溢れて……』

 

戸惑って無言になるわたしに、

 

『アツマさんは……やっぱりステキだった。なぐさめてくれたもの。ティッシュだけじゃ涙を拭くには足りないから、タオルまで持ってきてくれて――』

 

「か……彼にしては、気の利いたことをしてあげられたのね」

『愛ちゃんダメよ。それはアツマさんに対して過小評価すぎるわ』

 

う。

怒られた。

 

『困ったときは、アツマさんを頼るのよ。…愛ちゃん』

「う、うん…」

穏やかに、諭(さと)すように、

『必ず、アツマさんが、あなたを助けてくれると思うわ』

 

× × ×

 

アツマくんが、助けてくれる、か――。

 

彼の優しさに、甘え倒せばいいのかな。

 

これまで以上に、頼って、甘えて――。

 

もちろん、頼って甘えてばかりじゃなく――わたしのほうからも、彼に優しくしてあげたい。

うーんと優しくしてあげたい。

 

…できるかな。

 

× × ×

 

さて。

きょうは――アカちゃんに続いて、さやかが、邸(いえ)を訪ねてくる日。

 

× × ×

 

開口一番、さやかはこう言った。

「愛。わたし、ちょっとだけ、怒ってる」

 

「え!?」

 

こころなしかムスッとした顔で、さやかは続ける。

「ぜーんぜん連絡してきてくれないんだもん」

 

あっ……。

 

「なんで、抱えてる問題、話してくれなかったのかなー。もっと連絡してきてくれたら、ここまで調子が悪くなることもなかったかもしれないのに」

 

申し訳なさで……わたしは目線を下げる。

 

「ま、いまさら後悔したって、だし」

声が柔らかくなって、

「それに、わたしのほうでも、愛のこと、もっと気にかけるべきだったんだし」

と言って、それから、

「ごめんね。愛。」

と謝ってくる。

 

「わたしのほうこそ、ほんとのほんとにごめんなさい」

謝り返すわたし。

「はいはい」

とさやか。

 

目線をまた上げたら…さやかの顔が、微笑み顔になっていた。

こんなに優しさに満ちたさやかの笑い顔を見るのは、初めてかもしれない。

 

× × ×

 

「いま、なにがしたい?? 愛」

「……思い浮かばない」

「急に言われても……か」

「うん……正直」

「じゃ、ダラダラゴロゴロしよっか。――あんたの本棚、見ていい?」

「いいよ、もちろん」

「読ませてもらうね、あんたの蔵書」

「どうぞ? いくらでもお読みください」

「承知しました」

さやかは、本棚のほうを向きつつ、

「愛も、好きなことしてくつろぎなよ」

と言ってくれる。

 

「うまく……くつろげるかな」

と不安のわたしに、

「くつろぐに上手も下手もないでしょーっ」

と言うさやか。

「飲み物とかお菓子とか欲しかったら、わたしが階下(した)から持ってきたげる」

「…さやかが?」

「あんたには、徹底的に、ゴロゴロしてほしいからね」

「…」

「休息が必要なんだよ…愛には」

 

× × ×

 

ゴロゴロするための準備として、T-SQUAREのライブアルバムをラジカセに入れる。

再生ボタンを押してから、ベッドにゴロン、と寝っ転び、窓際に置いてあった講談社の某・純文学雑誌に手を伸ばす。

その某・純文学雑誌のページを、どんどんめくっていく。

本文を読む体力も気力もあるはずない。

だから、フォトリーディングという、苦肉の策。

 

それから、某白泉社の看板少女漫画雑誌のコミックスを手に取る。

そして、某花とゆめコミックスの某作品を、セリフを読まず、絵だけを拾い読みしていく。

 

絵だけの拾い読みだったから、あっという間に1冊の単行本が読み終わってしまう。

 

ここで、ふと…読書に熱中しているさやかを見る。

 

わたしも……あんなふうに読書に熱中できるまでに、回復することができるんだろうか……。