寝ぼけているアツマくんに、ムニューと引っつく。
引っつきつつ、
「ほら、寝ぼけてないで。早く意識をシャッキリとさせるのよ」
だらしなく頼りない彼は、
「…もうちょい待って」
待てるわけないじゃないの。
「まずは、顔を洗うとこからっ」
わたしはそう言うんだけど、
「…おまえが密着してたら、動けるのも動けないよな?」
というツッコミを食らってしまった。
ゆるゆると身を離し、
「と、とにかくっ。急いでよねっ。ボヤボヤしてると、アカちゃんとさやか、来ちゃうわよ」
「あわててんな」
「あわてるわよ。……だらしないアツマくんの姿を、2人に見せたくないんだもん」
「自然体でも、良かろう?」
「そ、そんなことばっかり言ってると、ビンタしたくなっちゃうじゃないのっ」
「激しいな。こんな朝早くから」
× × ×
頭部に空手チョップを食らわせて、制裁した。
――さて。
アカちゃんとさやかの、新年最初のお邸(やしき)訪問である。
「あけましておめでとう、愛ちゃん」
アカちゃんの挨拶。
「あけおめ、愛。今年もよろしく」
さやかの挨拶。
「2人ともようこそ。そして、あけましておめでとう」
とわたし。
さやかが、わたしを見つめてくる。
どうしたの。
…意味深めいた、うなずき2回のあとで、
「――元に戻ってきてる。良かった」
と発言するさやか。
「どういうこと…?」
問うわたしに、
「元気な頃のあんたに、9割がた戻ってきてる、ってこと」
と答えるさやか。
「アツマさんと旅行したのも、プラスになったのかな」
と言い足す。
なんだか、嬉しそうなさやか。
「さやかちゃん。愛ちゃんの調子を確かめるのもいいけれど、早くソファに座っちゃいましょうよ」
とアカちゃん。
「急かすねえ、アカ子も」
さやかは意味深な笑みで、
「もしかしたら――」
「え? もしかしたら、って??」
と疑問符のアカちゃんに、
「ま、お楽しみだよね」
と、含みのあるコトバを返す。
× × ×
わたしから見て左にさやか、右にアカちゃんが座っている。
少し遅れてアツマくんが、のそ~っ、とやって来て、わたしの真正面のソファに座る。
「これで、揃ったわね」
とわたし。
「利比古は、自分の部屋にカンヅメになって勉強中。
あすかちゃんは、彼氏のミヤジくんと初詣中。
流さんも、彼女のカレンさんと初詣中」
「――よくわかったわ」
完璧に把握したわよ…という顔のアカちゃん。
「ところで、」
アカちゃんは、わたしのほうに身を乗り出してきて、
「日本酒が、届いたんですって?? 山陰地方の」
と訊いてくる。
苦笑いにならざるを得ないわたしは、
「ちょうど届いたところ。境港(さかいみなと)ってわかるかな? そこの酒造メーカーの」
「ああ、境港なのなら――」
アカちゃんは銘柄までも言い当てた。
どういうこと!?
「し、知ってたのねアカちゃん。ハタチにして、お酒博士……」
得意そうにアカちゃんは笑う。
しかし。
「気が早いなあ。アカ子さんも」
アツマくんが……アカちゃんに、ツッコミ。
若干無神経なアツマくんのご指摘が、手痛かったみたい。
のっけから日本酒のことでテンションを高めていた自分を恥じているんだろうか。
恥ずかしさが大きいのか……彼女は真下の床を見つめてしまう。
「ちょっとぉアツマくん。アカちゃんが小さくなっちゃったじゃないの」
「え、小さくなる…とは」
「わかんないの?! あなたの『気が早い』発言のせいで、縮こまっちゃってるのよ」
「……ん、そうか。マズかったか、おれ」
「フォローしてあげて」
「おれに……できるだろうか」
「女の子をなぐさめるのは得意でしょ、あなた」
「じ、自信ねーよ」
ここで、アカちゃんをめぐるやり取りを観察していたさやかが、
「アツマさん。さっきまで、キッチンに居たんですよね?」
「お、おう。料理を仕込んでた」
「それなら話は早い。
アカ子に料理を食べさせて、正気に戻しましょう」
「……食事で、元に戻す、と??」
「そうですアツマさん。
2人分の料理を食べたら、アカ子もちょうどよくなるはず」
「なるへそ……。アカ子さん、大食いだもんな」
「大食いじゃないです」
消え入りそうな声を振り絞るアカちゃん。
収拾をつけるのは、あなたよ……アツマくん。