【愛の◯◯】もつれる半紙

あけましておめでとうございます。

青島さやかです。

 

ーー、

「あけましておめでとうございました」

って言うべきですかね?

きょう、1月2日だし。 

 

えーきょうは愛が居候しているお邸(やしき)に来ました。

もちろんことし初訪問です。 

 

昼下がりの戸部邸

 

「今年もよろしく、愛」

「よろしくさやか」

箱根駅伝観てた?」

「観てた」

「アツマさんの大学は出てないの」

「出てないよ。

 でもいっしょに観てた」

「駅伝、好きそうだもんね」

「走るの好きだもん」

「いまはどうしてるの? アツマさん」

「あすかちゃんとラグビー観てるよ。

 わたしは書き初めの準備」

「じゃ、わたし愛を手伝うよ」

「ありがと~」

 

× × ×

 

「せっかく書き初めやるってんのに、アカ子が不在だと、さみしいよね」

「アカちゃんわたしより字が綺麗だもんねぇ。

 仕方ないよ、この時期は、アカちゃんはいそがしいんだよ」

「家の会社の事情、ってのがねー。」

「思うんだけど」

「? なにを?」

「さやかはさ、

 もっとアカちゃんと遊んであげるべきよ」

「そんな愛ばっかりに依存してたかなあ」

「アカちゃんの邸(いえ)より、この邸(いえ)に来た回数のほうが圧倒的に多いでしょ」

「…否定できないかな…やむを得ない点もあるとは思うけど」

「蜜柑ちゃんに会いたいでしょさやか」

「会いたいけど、会いたいと、かえって気後れするの」

「あこがれてるから?」

「そーゆうこと」

「新学期になったら、行ってみなよ、アカちゃんちに。

 わたしが背中押してあげるから」

「押されなくとも」

 

 

と、言うわけで

書き初め、開始@和室

 

アツマさんとあすかちゃんが合流。

ひとしきり新年の挨拶。

 

畳に正座し、めいめいが半紙のまえに向かう。

 

愛「墨を磨(す)るところからやりましょうか

わたし「ずいぶん本格的ねえ」

 

アツマさん「え…墨汁(ぼくじゅう)っていう便利なものがあったと思うんですけど」

愛「なんのためにわざわざ和室でセッティングしたと思ってるの?

アツマさん「書き初めだからだろ」

愛「墨、磨(す)らないと雰囲気が出ないでしょ!

アツマさん「そんなこといったって墨の磨りかたわかんねえよお」

愛「教えてあげるから」

 

わたし「あすかちゃん、わたし磨(す)りかた知ってるから、手伝ってあげるよ」

あすかちゃん「え! いいんですか」

わたし「兄が書道やってたから…その影響……で」

あすかちゃん「なんでそこでドギマギするんですかw」

 

わたし「まずこうして、で、墨を、こういうふうに」

あすかちゃん「こんなかんじですか?」

わたし「そうそう、いい感じいい感じ。

 

 …すこし、慎重すぎるかも。

 もうちょっとスピード上げても大丈夫だよ」

あすかちゃん「こう…ですか?」

わたし「(じっと確認する)

 うん、そんな感じで。」

 

あすかちゃん「これぐらいで…いいんでしょうか」

わたし「ちょうどいい、ちょうどいい。

 上手くいったじゃないw(拍手)」

 

(照れ笑いするあすかちゃん)

 

あすかちゃん「さやかさん、なんだか…」

わたし「なんだか、?」

あすかちゃん「さやかさんはいいお母さんになれそう

わたし「えっ

 

そんなこと言われたの、

生まれてはじめて…

 

わたし「む、むかし、あすかちゃんには、

 『女の子にモテそうですよね』

 って言われた記憶が、わたし、あるよ、」

 

あすかちゃん「(キッパリと)それはそれ、これはこれです」

 

あすかちゃん、

つよい。

 

 

× × ×

 

愛「アツマくん全然ダメじゃないの」

アツマさん「いきなり完全否定から入らないでくれ。

 具体的にどこがダメなんだよ」

愛「(何やら半紙のいろいろなところを指差している様子で)

 ここと、ここと、ここ。

 もっと厳しく言えば、ここや、ここも!

 

 とめ・はね・はらい、押しなべてダメダメ」

 

(^_^;)サディストなの? 愛は…w 

 

アツマさん「(;;-_-)正月早々、こころ折れるぜ…」

愛「筆は折らないでよ」

アツマさん「折るわけねーだろ」

愛「アツマくんの握力だと折れちゃわないか心配なのよ」

 

わたし「愛、『筆を折る』だと別の意味になっちゃうよw」

愛「アツマくんは物理的に筆を折りかねないから」

アツマさん「(;´Д)おい冗談だよな…冗談だって言えよ」

 

愛「まったく、もう。

 大学のテストで、答案読んでもらえなかったらどうするのよ。

 

 だけどーー、

 ダメ出ししたからには、手本、見せてあげないとね」

 

(俊敏な動きで筆を動かす愛)

 

愛「はい」

 

わたし「(愛が書いた半紙を見て)『知と愛』。

 ヘルマン・ヘッセだねえ」

 

愛「もう一枚!」

 

(再度、俊敏な動きで筆を動かす愛)

 

あすかちゃん「『鼠(ねずみ)』…ですね。

 難しい漢字。」

 

アツマさん「今年の干支(えと)ってこと?」

愛「そう」

アツマさん「いや上手いのはわかるんだけどさあ」

愛「文句ある💢」

アツマさん「達筆すぎで、動きが速くてよく見えなかった」

愛「お手本にならなかったってこと!?

 ショック!!」

アツマさん「そこまで完全否定はしてないけど…」

愛「もうこうなったら、あなたの手を動かすしかないみたいね」

アツマさん「どーゆーことだよそれは」

 

(アツマさんの背後にまわる愛)

 

わたし「あんた、アツマさんの背中に来るの、好きだよね」

愛「(明らかに狼狽(ろうばい)して)ちょっとさやか!!

 下品なこと言わないでよっ!

わたし「すみませーんww」

 

なーに想像してんだか、愛はwww

 

愛「筆の持ちかたから直しなさい」

 

 (アツマさんの右横に、自分の筆を持った右腕を並べる)

 

愛「わたしの筆の持ちかた、よく見て。

 

 まだダメ。

 

 それじゃまだダメっ。

 

 ーーうん、及第点かな、とりあえず」

 

困惑気味のアツマさん「愛」

愛「『近い』って言いたいんでしょ」

困惑気味のアツマさん「うん、近い、愛のからだ」

愛「(取り合わず)ーーあなた、何を書きたい?」

困惑アツマさん「書きたい文字のことか?」

愛「そう。どんなことば書きたい?」

 

超困惑アツマさん「……、

 

 …………、

 

 …………、

 

 『』とか。」

 

わたし「いいじゃないですか!」

あすかちゃん「いい、いい、季節違いだけど、冬の次は春が来るから」

 

愛「思わず、ハルくんを連想しちゃったw」

うろたえアツマさん「こんな時にダブルミーニングかよお」

 

あすかちゃん「(いたって冷静に)ハルさんの『ハル』は違う漢字ですけどね」

わたし「愛のいじわる…」

あすかちゃん「(至極冷静に)さやかさん、もう過剰反応ですから」

わたし「蒸し返してる気がして」

あすかちゃん「(あっさりと)そういうのはもうないんです」

 

愛「ごめんね、いじわるで」

わたし「聞こえたの?」

あすかちゃん「おねーさんはほーんとイジワルですねwww

愛「ごめんね~~www

 

アツマさん「あのなー」

愛「はいはい」

アツマさん「脱線がすぎるぞ…ったくもう。

 上手い書きかたを教えてくれるんだろ、

 身体(からだ)で。」

愛「いやらしいこと言わないでよ」

アツマさん「だってそういう言いかたしかないだろうが」

愛「ボキャ貧!

 

愛「いい?

 わたしに身を任せて。」

アツマさん「何いってんのお前!?」

愛「アツマくんは! 筆を! にぎってればいいの!!

 わたしが!! アツマくんの手を!! 動かしてあげるから!!」

 

 

わたし「ーーあのやりかた、ほんとうに効率的なのかな」

あすかちゃん「(^_^;)収拾つかないですよねw」

わたし「きょうはアツマさんが完全に尻に敷かれてるね」

あすかちゃん「ーー久しぶりかも。

 おねーさんにタジタジな、お兄ちゃん」

 

わたし「(半紙の前でもつれ合い状態になってるふたりを眺めながら)

 どっちが『押し』でどっちが『引き』なの? ふだんは」

あすかちゃん「あのふたりの力関係のことですか?」

わたし「あすかちゃん理解速いね」

あすかちゃん「いっしょに住んでますからね~。

 

 さやかさん、ちょっと耳を貸してください」

わたし「いいよ~~♫