【愛の◯◯】結局わたしもベッドに入る

 

愛にはひたすらダラダラゴロゴロしてほしかった。

しっかり休んで、しっかり元気を蓄えて。

 

辛抱強く、愛が回復するのを、待つ。

それが、きっと――大親友としての務め。

 

 

本棚から抜き取った本を読むのに熱中しているわたしを、愛は気にしているみたいだった。

読書なんかマトモにできるような状態じゃないじぶんと、比較しちゃっているんだろう。

 

きりのいいところで本を読むのを切り上げた。

それから、『他人と比べても意味なんてないんだよ……』という気持ちを込めた目線を、愛に送り届けた。

ベッドの上で足を投げ出して座っている愛が、少しドギマギする。

 

それからそれからわたしは、

「お風呂でも――入りに行かない?」

と提案。

 

× × ×

 

いつもながら戸部邸のお風呂は破格の大きさで、羨ましい。

 

愛の部屋に戻って、髪を乾かしながら、

「いいお湯だった」

と言う。

愛は、バスタオルを頭に被せたまま、ボケーっとしている。

「こらこら。乾かさないと台無しじゃん、せっかくのキレイな髪が」

「……」

 

……耳に入ってるんだろうか。

 

愛の美人を特徴づける栗色のツヤツヤした長い髪。

きちんと手入れしないと、ほんとうにもったいない。

なので、

「ドライヤーしたげるから、わたしが」

と……ドライヤーを持って、心ここにあらずな愛のもとに近寄っていく。

 

× × ×

 

愛のベッドの横に布団を敷いた。

アカ子は、直(ジカ)にベッドに入って寝たらしい。

つまり、添い寝。

添い寝で一夜を過ごす勇気が…わたしには無い。

 

 

…同じタイミングで、愛はベッドに、わたしは布団に入った。

 

LED照明を消した。

暗い部屋。

 

わたしは眠ろうと努力するが、なぜだか眼は冴え加減だ。

どうしてなんだろ。

 

愛のベッドの方向に、寝返りを打ってみる。

寝ながらスマホをいじっている愛の姿が眼に入った。

 

寝ながらスマホとか…いちばんダメなやつじゃん。睡眠の質が下がりまくっちゃうよ。

 

いったん、愛を注意しようかと思った。

でも、やっぱりやめた。

いま、愛を叱ったら、愛はつらくなって、ますます眠られなくなっちゃうかもしれない。――こう思うと。

 

× × ×

 

愛の様子をひたすら気にするわたし。

 

やがて――愛は、スマホを見るのをやめた。

これで、ようやく入眠体制になることが…できるかどうか。

 

入眠に期待したけれど、寝息はいつまでたっても耳に届いてこない。

 

眠られていないのなら、きっと、考えごとでもしているんだ。

 

よくない。

寝ながらスマホと比較にならないぐらい、よくない。

 

考えごとったって、同じような悪い思考の…堂々巡りなんでしょ!? どうせ。

 

こっちまで苦しくなってくるよ。

 

我慢比べみたいなことするのは……もう、沢山。

 

 

――ガバリ、とわたしは身を起こした。

 

「ど、どうしたのよ、さやか?」

 

不眠一歩手前の愛が、驚いて声を出す。

 

「あ~~~っ、もうっ、」

「さ、さ、さやか!?」

愛!

「は、はいっ」

「心配しちゃうじゃん、こっちまで眠られなくなるじゃん」

「えっ……」

わたしも、アカ子を見習う!

「ええっ……。それって、つまりは」

「…入らせてよ、あんたのベッドに」

「さやか……。」

「――愛。

 ダメだなんて、言わせないよ。

 独(ひと)りで寝たって、つらいだけじゃん。

 でしょ!? …絶対そうだよ」

 

× × ×

 

愛は細身(ほそみ)だ。

じぶんでいうのもなんだけど、わたしも細身なほうだ(たぶん)。

 

だから――、ふたりでベッド・インは、余裕。

 

至近距離の愛の様子を見る。

しばらくの間は、緊張があるかもしれない。

でも。

でも、わたしが、ベッドの中で優しくしてあげたら――身も心も、ほぐれていくと思う。

 

愛のほうに横向きになって、どういうふうに優しくしてあげようかと、軽く考える。

 

わたしは、

「撫でてもいい? ――頭を」

と訊いてみる。

 

「撫でる? さやかが? わたしの頭を?」

 

わたしは無理矢理、

「いいんだね、撫でても」

と、意志を押し通して、それからそれから……愛の頭に、そっと右手を置く。

 

「……エッチ。

 許可してないじゃない、わたし。

 エッチだよ、さやか……。いきなり、頭ナデナデなんて」

 

不満な愛の声が……14歳の中学生みたいで……とっても、かわいい。