日曜出勤のアツマくんを見送った朝。食器を洗ったり部屋を掃除したりしたあとで、ノートパソコンを起動させる。
× × ×
モニターにアカちゃんが映った。
「おはよう、アカちゃん」
「おはよう、愛ちゃん。――元気そうね」
「わかる!?」
「ま、前のめりにならなくたって」
「そうなのよ、すこぶる元気なのよ」
「もしかしたら……明日にさやかちゃんの誕生日が控えてるから、そんなにテンションが高いのかしら」
「よくわかったわね。さすがに、わたしのことをアカちゃんはよく理解してる……」
ここで、冗談めかして、
「わたしの彼氏でも、アカちゃんのようにはわたしのことを理解できないわ♫」
「ちょ、ちょっとっ、愛ちゃん。アツマさんが聞いたら絶望しちゃうようなことを言っては……」
「言っては、いけない??」
「……起きてからコーヒーを5杯飲んだとかじゃないわよね、愛ちゃん」
「ううん」
アカちゃんは溜め息をつき、
「アツマさんに決まってるでしょ、あなたのことをいちばんわかってくれるヒトは。
……話は少し換わるけど。
8月7日が、さやかちゃんの誕生日で。
その1週間後、8月14日は――」
「――利比古の誕生日ね」
「近いのね、さやかちゃんと利比古くんの誕生日」
「偶然なんだけどね」
「愛ちゃんにとっては、親友の女の子のバースデーをお祝いしたら、すぐに自分の弟さんのバースデーがやって来ることになる」
「ねえアカちゃん」
「なあに?」
「利比古バースデーのときは、あなたも祝福に来る?」
「わたしも、お邸(やしき)に行って彼を祝うってこと?」
「YES」
「14日よね……。スケジュールを確認しなくちゃだけれど、おそらく大丈夫よ」
「ヤッター」
ヤッターと言いつつも、すかさず、性格が悪いわたしはニヤリとした表情を作って、
「くれぐれも、利比古に絡みすぎないようにね、アカちゃん♫」
「え!?」
「アカちゃん、ぜったい飲むでしょ?」
× × ×
彼女のお酒大好きキャラを突っついたら、スネられて、少し怒られた。なので、アッサリとわたしは謝った。
――ビデオ通話を終えたあとで、鼻歌を歌いながら、ダイニングテーブルやソファ前の丸テーブルなどを磨き始める。
× × ×
ダイニングテーブルのわたしの向かい側の席についた利比古が、
「キレイにしてるね、お姉ちゃん」
「あたりまえでしょー」
「ぼくが来るから、頑張った?」
「だからー、あたりまえだってー。普段からちゃんとしてるし、キレイにしてるのよ」
「見習わなきゃな」
「ほっほー」
「ほ、『ほっほー』ってなに!?」
「いや、あんたにしてはマジメなこと言うのねって。『見習わなきゃな~』とか」
「ぼ、ぼくをどんなキャラだと思ってたの」
「マジメの反対」
「そんな!?」
「根拠は、わたしの血筋を引き継いでるとゆーこと」
「……」
「どうして黙りこくるの?」
「一緒に暮らしてるアツマさんも……大変だな……って」
むうーーーっ。
「余計なこと言わないでよっ、利比古」
「だ、だって」
「『だって』の続きはなんなのよ!?」
「……やっぱいい」
「煮えきらないわね。もっと煮えきりなさいよ」
「お叱りモード……? お姉ちゃん」
「お叱りモードといえばお叱りモードね」
「なんか、ごめん」
「『ごめん』って言うだけじゃダーメ」
「え」
「姉命令よ。席移動しなさいっ、利比古っ!」
「移動って、どこに」
「と・な・り・よ。わたしの、お隣」
「えええ……」
「なんなのその反応!?!? あんたのスキンシップを要求するのが、そんなにイヤ!?!?」
ぽかーん、な状態の利比古。
大好きな弟なのに、らしくない。
ここは……ココロを鬼にすべきとき、と思い、
「利比古。
わたしの頭、ナデナデして。
ナデナデしてくれなきゃ……もっと怒る」