お邸(やしき)に来たアカ子さんとさやかさんに、勉強を教えてもらっている。
年も明けたし、ラストスパートって感じだ。
頑張ろう。
× × ×
ところで現在、姉とアツマさんとあすかさんは、3人いっしょに立川に出かけている。
なんのために?
ショッピングのために。
『3人でデートするの』
姉はそう言い張っていた。
3人でデートって、どういう意味なんだろう。
疑問だ。
姉もあすかさんも、あまりアツマさんを振り回しすぎていないといいんだけど。
お願いしますよ、ふたりとも。
ただでさえ普段から、アツマさんをいじくりまくってるんだから。
明日美子さんは例によって寝室で爆睡中だ。
流さんは自室で小説を書いている。
明日美子さんも流さんも部屋に籠(こ)もっているので、なんだかひっそりとした感じがする。
「静かだね」
さやかさんがふと呟く。
「愛ちゃんとあすかちゃんとアツマさんが出かけてるからでしょう、さやかちゃん」
アカ子さんが言う。
「立川ですっけ?」
右前方からぼくに確かめてくるアカ子さん。
「ハイ、立川に」
ぼくが答えると、今度は左前方からさやかさんが、
「仲が良くっていいね。あの3人は」
「そうですね。なんだかんだで」
「愛は当然として、あすかちゃんも、アツマさんのことが大好き」
「頼れるお兄さんですから」
ぼくがそう言うと、さやかさんは苦笑して、
「あすかちゃんがアツマさんに甘えてるとこなんか、あんまし想像できないけど」
無理もない。
ただ、
「あすかさんは、10回のうち8回は、アツマさんにツンツンな態度なんです。だけど、残りの2回で、デレっとする」
「ほほお」
面白そうにさやかさんが、
「どんなふうに、デレっとするの??」
と訊いてくる。
「それは、あすかさんのプライバシーに関わってしまうので」
ぼくは模範的に回答。
勝手にべらべら明かしちゃうと、あとが怖いもんなー。
「そっか。プライバシーか」
良かった。
さやかさん、深追いはしなさそうだ。
「わたしら兄妹とは、ちょっと違った関係性みたいだね」
右手でボールペンをクルクルと回転させながら、さやかさんが言う。
「わたしらのほうは、歳が10歳近く離れてるから。まずそこで差異があるんだけど」
そういえば、そうだ。
「ねえねえ」
ボールペンでアカ子さんを指差して、
「アカ子、羨ましくない?」
と振るさやかさん。
「蜜柑さんは、あんたのきょうだいみたいな存在だとしても。
オトコのきょうだいがいないじゃん――あんた」
アカ子さんは動じることなく、
「羨ましいわよ。それは」
「おー。素直に気持ち、打ち明けた」
微笑みながら、
「アツマさんみたいなお兄さんがいたら、どんなに楽しかったかしら……って思うし」
そこまで言うのか、アカ子さん。
「あすかちゃんは、本当に幸せものよ」
ヤキモチを焼く素振りもなく言う、アカ子さんだった。
× × ×
大の苦手の世界史の記述問題を解き、さやかさんにチェックしてもらう。
「まあまあだね」
チェックのさやかさんは、
「部分点しか、もらえないだろうけど」
と。
そうか、やっぱり記述問題は手強いな。
でも、第一志望校の過去問には、毎年必ず記述問題があって。
ここは攻略したい。
「できればぼく、記述問題で満点解答が書きたいです」
さやかさんに眼差しを向けて、
「どうすれば、部分点が満点になるでしょうか?」
と問う。
ふふっ、と小さく笑ったあとで、さやかさんは、
「気合い入ってるね、利比古くん。
でも、肩にチカラが入りすぎてるのかも」
え。
「少し休憩しよーよ」
「せ、世界史の問題演習は、さっき始めたばかりだと思うんですけど」
「まーまー」
さやかさん……??
「リラックス、リラックス」
い、いや、リラックスと言いましても?!
「今日は、利比古くんのお姉さんも、不在なことだし――」
???
「わたしが、利比古くんの、お姉さん代わり」
そっ、そんなあ。
「ピンチヒッターの、お姉さん。そう思ってくれていいよ」
なぜに。
「さやかちゃーん。彼、すごい勢いで戸惑ってるわよ」
さやかさんに笑いかけるアカ子さん。
笑顔で、
「お姉さん代わりになってあげたい気持ちはわかるわ。
だけれど。
さやかちゃんだけが、お姉さん代わりだなんて――抜け駆けじゃない!? それは」
と、穏やかじゃない発言をする、アカ子さん……!!
「せっかくの祝日なんだし、わたしだって、お姉さん代わりになりたいんだけれど♫」
アカ子さん?!?!
祝日であることと、お姉さん代わりになる意欲に、どんな関連性が!?!?