【愛の◯◯】さやかのお母さんとさやかのお兄さんとそれから大吟醸

 

出迎えてくれたのは、さやかのお母さんだった。

「元気そうね、愛ちゃん」

「ハイ、元気です」

「良かったわ」と言ってから、ニッコリとして、

「してほしいことがあったら、言ってちょうだいね。なんでもしてあげるから」

「アハハ……」

「さやかは、アカ子ちゃんと一緒に、自分の部屋に居るから」

そう言いつつ彼女は、わたしの左肩に右手をポン、と乗っけて、

「愛ちゃん」

「なんですか?」

「応援してるからね」

「え。応援してるって、なにを……」

「それは、いろいろよ~~」

 

× × ×

 

なんとなく、「いろいろ」の中身が把握できた気がする。

 

――さやかの部屋に行く前に、さやかのお兄さんと出会ったので、挨拶を交わし、軽く立ち話をした。

今日は平日だけど、妹の誕生日なので、仕事をお休みしたらしい。

素敵なお兄さんだ。

「さやかがいつもお世話になってるね」

「こちらこそ」

「あいつ、人付き合いが得意なほうじゃないから、愛さんみたいな親友がいてくれて助かってる」

「ありがとうございます、そう言ってくれて」

「いやいや、感謝するのはこっちのほうだよ」

お兄さんはそう言ってから、さやかの部屋の方角をちらりと見て、

「おれ、今年で30歳なんだけどさ」

と言って、

「まだまだ『兄さん離れ』してくれそうにないな、あいつは」

と。

わたしは苦笑い気味に、

「なかなか『兄さん離れ』できないって、カワイイ」

「身体(からだ)も大人、頭脳も大人……なはずなんだけど、肝心なとこが、子供のままな気がして」

「『肝心なとこ』って、どこですか? わたし気になります」

するとお兄さんは、

「きみもなんとなく分かるんじゃないのか? 長い付き合いなんだから」

「たしかに、付き合いは長いですけど――」

ここでいったんコトバを切り、ひと呼吸置く。

それから。

「共犯者」みたいに――お兄さんと互いに笑い合う。

 

× × ×

 

「兄さんと雑談してたみたいだね」

「バッタリ会ったから」

「なに話してたの」

「気になるの?」

「たぶん……わたしのことがメインだったんでしょ」

「あたり」

「……」

「さやかが主役の日なんだから、さやかのことが雑談のメインテーマになるのは必然」

「兄さんに変なこと言ったんじゃ……」

「疑り深すぎよぉ、さやかぁ」

スマイルを絶やさぬことに努めて、勉強机の椅子に座っているさやかをカーペットから見上げて、

「あなたは今日のメインヒロインなのよ!? わたしとしては、もっとメインヒロインらしくしてほしいところなんだけど」

さやかは面食らって、

「め……メインヒロインって、いったい」

「アニメのエンディング映像で、主人公男子のすぐ下にクレジットされる女の子みたいな存在」

「!?」

「ごめんごめん。わかりにくいし、まわりくどいよね」

一応謝ってから、持続させ続けたスマイルでもって、

「言っておかなきゃ。

 さやか。

 21歳の誕生日、おめでとう」

 

× × ×

 

照れながら、さやかは「ありがとう」と言ってくれた。

 

さて、さやかのお部屋には、わたしとさやかだけが居るわけではなく。

 

「――アカちゃんごめん、あなたを放置してたみたいになってた」

「いいのよ愛ちゃん、謝らないで。愛ちゃんとさやかちゃんのやり取り、面白かったから」

そう言って微笑むアカちゃんを見下ろして、さやかが、

「アカ子は、家に来て『いの一番』に、わたしの誕生日を祝福してくれたけど」

と言ってから、

「祝福の直後に、大吟醸を母さんに手渡したから、唖然としちゃったよ」

 

あらあ。

大吟醸が、アカちゃんのバースデープレゼントだったのね。

 

「なかなかやるわね、アカちゃんも」とわたし。

「……そうよ。なかなかやるのよ」とアカちゃん。

さらにアカちゃんは、

「日本酒だったら、炭酸ダメな愛ちゃんだって、一緒に飲めるでしょ?

 もっとも。

 なんだか最近わたし、お酒大好きキャラが定着してしまって……『四六時中アルコールのことばかり考えてるんじゃないのか疑惑』が、浮上どころじゃない度合いで浮上してしまっているけれど。

 本来のキャラクターが崩壊する手前でなんとか持ちこたえているっていうのが、現状だわ」

 

……語るのね。