【愛の◯◯】わたしの手は魔法の手

 

調子がイマイチな愛ちゃんをいたわってあげるために、お邸(やしき)を訪ねに行った。

 

「ごめんなさいね愛ちゃん。少し遅刻してしまったわ」

「全然いいんだよ、アカちゃん」

 

今は、愛ちゃんのお部屋に。

さやかちゃんも来ている。

 

「時間はできるだけ守りたいと思ってるんだけれど……きょうは立て込んでしまってて」

「いいのいいの。アカちゃんたぶん、わたしとは桁が違うほど忙しいんだろうから」

わたしを慮(おもんばか)ってくれる愛ちゃん。

「しかもきょうは、日曜なんだしね」

たしかに、愛ちゃんの言う通り……なんだけど、

「次に来るときは、ちゃんと時間を守るわ。約束するわ」

と、わたしは言うのである。

 

「アカちゃんは…強いね。それでいて、真面目」

「…そんなことないわよ。案外、ズボラよ」

「ほんとう~~??」

苦笑いしながら言う愛ちゃん…。

 

「ま、ときにはズボラになることも大事なのかもね、アカ子は」

そう言ったのは、さやかちゃんだった。

「社長令嬢の気の抜きどころ、か……」

さやかちゃん。

その意味深な眼つきは、なんなの。

 

……それはそうと。

愛ちゃんは、ぬいぐるみを両手で抱きながら、ベッドの上にいる。

ぬいぐるみが気になったわたしは、

「愛ちゃん、そのぬいぐるみ、ひょっとして――」

「横浜DeNAベイスターズのマスコットキャラだよ、アカちゃん」

やっぱり。

横浜DeNAベイスターズのユニフォームを着ているものね。

 

ベイスターズの某マスコットキャラの耳を、ふにふに、と愛ちゃんはイジる。

愛着があるみたい。

 

「――可愛いキャラクターね。愛ちゃんによく似合ってるわ」

「嬉しい。そう言ってくれて」

胸でギュッ、とぬいぐるみを抱きしめる愛ちゃん。

 

わたしは、ふと思った。

 

「――作ってみようかしら。そのキャラクターの、ぬいぐるみを」

思ったから、言ってみた。

 

「え!? スターマン、作るの!? アカちゃん」

眼を見開く愛ちゃん。

「ええ。余裕で作られると思うわ。仕上がったら、愛ちゃんにプレゼントしてあげる」

「ほ、ほんとうに!?」

「それぐらい、どうってことないわよ」

「さすが、お裁縫の天才」

「天才なのかしら」

「だって、信じられないぐらい手先が器用でしょ、アカちゃん」

「信じられないぐらいって。またまた」

「家庭科の授業のとき、いつもいつも羨望(せんぼう)の的になってたじゃないの」

 

まあ……事実、かしら。

 

「お裁縫にかけては、アカ子の右に出る娘(こ)なんて居なかったもんね」

 

さやかちゃんが同調。

ホメられて、嬉しくなっている……のは、否定しない。

 

× × ×

 

調理実習だと、愛ちゃんのほうが羨望の的だったんだけれどね。

お料理でだれも敵(かな)わなかった。

家庭科の先生を完全に凌駕している腕前だったんだもの。

お料理クラブに愛ちゃんは何度誘われたのかしら。

数え切れないほど…誘われていた印象。

 

復調したら、愛ちゃんのお料理を、味わわせてほしいわね……という気持ちを抱きつつ、スターマンぬいぐるみと戯(たわむ)れている愛ちゃんを眺めていた。

 

さやかちゃんが、

「ねえアカ子、愛にもっと、ひっついてあげなよ」

と言ってきた。

ひっつく?

 

…さやかちゃんは、若干照れながら、

「前回ここに来たとき、わたし、愛にベッタリしてたから。きょうは、アカ子がベッタリしてあげる番だと思う」

「――スキンシップ、ってことかしら」

「そ。そんなとこ」

 

――いったいさやかちゃんは、愛ちゃんにどんな接しかたをしたのかしら。

 

……いいえ。勘ぐるのは良くないわ。

 

わたしは腰を上げて、

「わかったわ。

 …愛ちゃん、あなたのベッドに座らせて」

と言う。

 

「うん、いいよ」

わたしに笑いかけながら、愛ちゃんは承諾。

 

 

……隣同士になった。

 

「観察」してみる。

髪がところどころ、ボサボサになっている。

もちろん変わりなく美人顔なんだけど……やっぱり、元気満タンとは行かない感じ。エネルギー補給がまだまだ必要みたい。

 

ここは、親友の役目を果たすべきね。

 

「愛ちゃん」

「なにかな、アカちゃん?」

「…ほんのちょっとの間(あいだ)だけ、スターマンのぬいぐるみを置いてくれないかしら」

「? いいけど…」

 

ぬいぐるみを置く愛ちゃん。

彼女の手が空(あ)くと同時に……その両手を掴んであげる。

 

戸惑い始める愛ちゃんに、わたしは優しく言ってあげる。

 

「あなたの両手に、元気になる魔法、かけてあげる」

 

「ま、まほう……??」

 

困惑の愛ちゃんに、続けざまに、

 

「わたしだけの、オリジナル魔法。

 元気が、ハイオク満タンになるみたいな……愛情いっぱいの、魔法よ」