「お兄ちゃん」
「なんだー、あすか?」
「今週、わたしたち、空気じゃない??」
「く……空気って、なんぞ」
「影が薄いよね今週。わたしたち兄妹」
「それは……ブログ的な意味で、か」
「うん」
「……」
「どしたの、お兄ちゃん」
「……いや、メタ的な発言は、ほどほどがいいんじゃなかろうか、と思って」
「いーじゃん、ちょっとぐらい。メタな方向に口が滑ったって」
「……」
「まー、いっか。少しぐらい、戸部兄妹の影が薄くたって。
今月の主役は――利比古くんだから。たぶん」
「しゅ、主役!?」
「主役。」
「利比古が主役であるという、根拠は……」
「お兄ちゃんもわかってないねー」
「ぬ」
「利比古くんの高校、今月末に学校祭なんだよ!?」
「あ、あー、そうだったな。たしかに」
「過去2年ブログ内でいっさい描写されなかったのが不可解だけど」
「……またメタ発言かいな」
「しょうがないでしょ」
× × ×
「自己言及めいたものは、どうでもいいとして――」
「なあに? お兄ちゃん」
「テーブルに無造作に文庫本が置いてあるが。これは、あすかが読んでたんか?」
「そうだよ」
「なんていう本なんだ」
「澁澤龍彦の、『旅のモザイク』っていう本」
「……」
「え、なんでなんにもコメントしないの、お兄ちゃん」
「だって…」
「…?」
「澁澤龍彦ってさ……名前だけ、かろうじてうろ覚えしてるだけで」
「え~~~っ」
「な、なんなんだよっ、その大げさなリアクションは!?」
「兄貴は澁澤龍彦の本を1冊も読んだことないの!?」
「……ない」
「文学部でしょ!? 文学部に4年も通ってるんでしょ!? 4年も通ってて、なんで澁澤龍彦を読んだこともないわけ」
「そ、そこまで言うか、あすか……!」
「――ま、わたしも、この『旅のモザイク』で、初めて澁澤龍彦を読むわけだけど」
「――おいっ」