「はい。今週も1週間、お疲れ様でした。残り半日の授業、がんばっていきまっしょい! ですねー。
というわけで、金曜日の『ランチタイムメガミックス(仮)』のお時間です。
パーソナリティはもちろん、わたくし羽田利比古です。
さて。
芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋……と、いろんな『◯◯の』が付くこの季節……なんですが。
きょうは、なんと!! 秋本番記念の、スペシャルゲストをお呼びしているんです!!」
「……羽田くん。秋本番記念って、なんですか?? 得体の知れない表現は、あまり……」
「まーまー。とりあえず自己紹介しちゃってよ、猪熊さん」
「……。
どうも、リスナーの皆様。
臨時ゲストの、猪熊亜弥と申します。
放送部です。」
「――ただの放送部員じゃないでしょ? 猪熊さんは」
「そうですね。
放送部の部長、という役職に、ぶら下がっている感じです」
「ぶら下がってるって」
「そういう苦笑いはやめてください……」
「エーッ」
「第3学年の10月……わたしの放送部人生も、風前の灯火といった感じで」
「そんな哀しいこと言わなくても」
「羽田くん!」
「ヒェッ、いきなりなに」
「わたし……実は、今回この放送にゲスト出演するにあたって、BGMを流してほしかったんです」
「あ、リクエストがあったの?」
「ですけど、力(ちから)及ばず、音源を持ってくることができませんでした」
「気になるね。きみがどんな音楽を流したかったのか」
「……クラシック音楽が、好きで」
「エッ、初耳」
「……いえ、『好き』と断言できるほど、詳しくはないのですが」
「や、いったん『好き』って言ったんだから、『好き』で押し通すべきじゃない??」
「……」
「猪熊さーん。ラジオ番組で黙りこくるのは、あんまりよろしくないよ」
「わかってますよ!!」
「うぉっ」
× × ×
「……猪熊さんの代わりに、ぼくが選んだBGMを流してるわけなんだけどさ」
「微妙な趣味してますね……羽田くん」
「辛口な」
「本音で行きたいんです。せっかくの臨時ゲストの大役を務めているので」
「へえ」
「……」
「じゃあぼくも、きみに対して突っ込んだ質問をしたって、許されるよね??」
「…?」
「さっききみは、クラシック音楽好きをカミングアウトした」
「それが…」
「カミングアウトを受けて、ぼくは思ったんだ」
「…なにを」
「猪熊さん、もしかして、ピアノとかバイオリンとか、習った経験あるんじゃないの??」
「…」
「お、おーーい猪熊さん」
「羽田くん。」
「え、なに。きみの雰囲気が変わったような…」
「あなたには、素敵なお姉さんが居(お)られますよね?」
「…エッ。そういう方向、行っちゃうの」
「行っちゃうに決まってるじゃないですか。
あのですね。
わたし、あなたのお姉さん情報を、また入手したんですよ…最近」
「……『また』が付くっていうのが、不穏だな」
「――ピアノが弾けるんですってね? あなたのお姉さんこそ。」
「ああ、そういう情報が流れてきたか。――うん。ぼくは弾けないけど、姉はずーっと弾いてるよ」
「超絶技巧。」
「?」
「……当然知ってるでしょう? 羽田くんは」
「……なにを」
「……わざと鈍い反応してるわけじゃないでしょーね」
「ちがうけど」
「お姉さんの……愛さんのピアノが、超絶技巧だという。そういう情報が、わたしの耳に流れ込んできたんですよっ!!」
「――それがどうかしたの」
「ば、ばかっ、羽田くんのばかっ」
「オイオイ、猪熊さん」
「鈍い反応を示すのばっかり、超絶技巧なんだからっ」
「……スゴい言い回し、するんだね」