【愛の◯◯】弱々(よわよわ)マッキー

 

「ねえ卯月(うづき)ちゃん、トーコちゃんとユーガちゃんの『アレ』は、どーなったの??」

「小麦さん……。『アレ』ってなんですか、『アレ』って」

つれないなー、卯月ちゃんも。

「トーコちゃん・ユーガちゃんコンビを放送部に引き入れるコトだよ。グズグズしてると、トーコちゃんもユーガちゃんも3年生になっちゃうよ。ということは、グズグズしちゃってたら、卯月ちゃんも3年生になっちゃうし、わたしたちは卒業しちゃうってコトなんだよ?」

「気が早すぎませんか」

『まだ1学期ですよね』と言いたいんだろうけど、

「甘ーい甘ーい。カスタードクリームパンのとろけるようなクリームみたいに甘ーい」

「また、ヘンテコな比喩を……。懲りないですよね」

わたしのご近所さんであるがゆえの態度。カワイイ態度である。

 

× × ×

 

トーコちゃんとユーガちゃんは卯月ちゃんの同学年の親友女子、トーコちゃんは髪が長く、ユーガちゃんは髪が短い。

新入生部員が一向に誕生しないので、2年のトーコちゃん・ユーガちゃんコンビを是非とも部に引き入れたかった。卯月ちゃんの方から、『あの2人なら脈があるかもしれないです』という話が4月の時点で出ていたのだ。

だけど、ゆっくりとしか話は進んでいない。

今日も、2年コンビ引き入れ作戦に進展は無く、ウヤムヤみたいになって部活が終わってしまった。

 

で、校舎の外に出たわたしは体育館の辺りをてくてくと歩いている。

間近に自販機。ロイヤルミルクティーを買って飲みたい気持ちもあるけど、財布の中に320円しか無くって、迷う。

自販機の飲み物の値上がりが激しくって、困る。わたしの財政的に、週に2回しかロイヤルミルクティーが買えないんだもん。

ぬ〜っと自販機を凝視して悩んでいたら、わたしの右横から男子生徒がひょこっ、と登場。

よく見知った男子生徒だったのだ。

彼は巻林英雄(まきばやし ひでお)くんという。3年3組のわたしのクラスメイト。

同学年のほとんどが『マッキー』とニックネームで呼んでいる。わたしもそう。

「マッキーだー!!」

明るく元気に呼び掛けてみる。

「中嶋(なかじま)ぁ」

残念ながら(?)わたしを苗字呼びのマッキーは、

「もう下校時刻間際だろ。なんでそんなにテンション高くて声が大きいんだ」

「マッキーどうしたの!? わたしの逆で、落ち込んでるの!?」

「そうじゃないっ」

マッキーは自販機に小銭を投入する。コーラのボタンを押す。がこん、と出てきた缶を取り出し、わたしの方に向き、がしゅっ、と缶コーラを開栓する。

「アレじゃね? 中間テストで数学の点数がまた良かったのが拍車をかけてるんじゃね?」

「拍車をかけてる?」

「つまりだ。数3と数Cの両方で、満点に近い点数をおまえは叩き出したから、今日に至ってもテンションがうなぎのぼりのまま」

マッキーはコーラをごくごく飲んでいく。

「うなぎのぼりか〜」

わたしは、

「うなぎ食べる時期だもんね、もうじき」

「いや、なんでそこで微妙に話を逸らすんだよ。おまえが天然ボケタイプなのは分かってるけど、そういう脱線のさせ方は流石にアクロバティック過ぎるぞ」

「わたし、怒られてるの?」

「指導だ、指導」

「柔道かな」

「柔道とは違う」

「だったら、何なの〜?」

呆れてしまったようで、答えるコト無く、ぐんぐんと彼はコーラを飲んでいく。

かなりの速さで飲み切り、ゴミ箱に缶を投げ入れようとする。しかし、入れ口に缶は入らず、入れ口じゃない所に直撃し、コロコロと転がっていってしまう。

転がった缶を彼は拾う。入れ口にちゃんと缶を入れる。偉い。

さて、マッキーはわたしの前に戻って来て、

「あのさぁ」

と呟く。

なぜか視線が斜めに逸れていて、「あのさぁ」の続きをなかなか言ってくれない。

なんでかな。

「……」

と、マッキーの沈黙が続く。

ヘンなの。

今のマッキー、弱々(よわよわ)じゃん。

わたしの元気がマッキーの元気を吸い取っちゃった?

そうだとしたら、吸い取られちゃったマッキーの方に責任があるよ。

なすり付けじゃない。

努力不足。

わたしの元気に自分の元気を吸い取られないように、もっと努力すべきだよ。

「……おまえ、こんなコト指摘されたら、怒っちまうかもしれないけど」

あ。

マッキー、しゃべった。

「髪が……。おまえの、髪がだな……。3年に上がってから、かなり、伸びたんじゃないかなー、って……」

そんなコト〜〜?

何を指摘し出すかと思えば。

たしかに事実だよ? 髪をかなり伸ばしたってコトは。

でも、その事実を指摘するために、なんでそんなに勿体ぶるの。

「マッキー」

なぜか斜め下目線を持続させ、なぜか顔が恥じらいモードになってきている彼に向かって、

「もっと堂々と話すべきだと思うんだ。クラスメイト同士なんだよ?」

すると、

「だけど……中嶋は、女子、だし」

えー。

ありえないなー。

「そんなコトを気にしてるなんて。高校3年にもなって。中学3年なら分からなくも無いけどさー」

わたしがそう叱ってあげたら、

「おれは、男子だから。精神構造、女子とは、違うから」

マッキーくぅん。意味を把握しかねるんですけどねー。

あと、すみやかに目線、上げてほしいんですけどー。

様子が、ちょっとどころじゃなく、おかしすぎるよ。

恋心抱いてる女子の前でおしゃべりする、なーんてシチュエーションじゃ、まったくないんだからさあー。