【愛の◯◯】八畳間の長い夜

 

日曜日。

アカちゃん・さやかと楽しく過ごすことができた。

もう、夕食後だ。

 

「愛ちゃん、お風呂に入っちゃいましょうよ」

アカちゃんがお風呂に誘ってくる。

「このお邸(やしき)のお風呂、温泉みたいに大きいから、入浴するのが楽しみだわ」

そう付け加えるアカちゃん。

 

「愛。わたし、あんたを洗ってあげよーか」

こんなことを、さやかが言い出してきた。

「洗うって……どこを?」

わたしが訊くと、

「全体的に。」

という答えが返ってきた。

「じぶんのからだぐらい、じぶんで洗えるけど……いいわよ、さやか。全体的に、キレイにしてね」

 

「元々キレイなのが、ますますキレイになりそうね……。これ以上キレイになったら、どうなっちゃうのかしら?」

そう言ったのはアカちゃんだった。

言ったあとで、興味津々そうに、わたしを眺めてくるアカちゃん。

 

アカちゃんも、さやかも……ちょっぴり、エッチかも。

 

× × ×

 

で、入浴シーンは、ばっさりカット。

 

× × ×

 

「…お風呂に入る描写が重要なわけじゃないもんね」

 

「えっ、なにか言った?? 愛」

「ううん、なにも言ってない。『こっち』の話」

「…なにそれ」

「さやか、そんなことよりも!」

「んっ」

「――早く和室に移動しましょうよ」

 

今夜寝る場所は、わたしの部屋ではない。

同じ階の八畳間の和室にした。

例によって、このお邸(やしき)、部屋がありあまっているわけで。

ありあまっている部屋のなかで、わたしたち3人で寝るのに相応(ふさわ)しいのは、あの八畳間だよね……と、前もって決めていたのである。

 

× × ×

 

3つ並んだ布団に、各々が場を占めている。

 

「なんだか修学旅行みたいね」とアカちゃん。

「もっとも、わたしたちの女子校には、修学旅行なんて無かったけれど」とも言うアカちゃん。

「新鮮だな」とさやか。

「数年遅れで修学旅行がやって来た…って感じ」とも。

「愛ちゃんのおかげよね」とアカちゃん。

「そーだね。こんな体験ができるのは、愛が居てくれたおかげだよ」とさやか。

 

「そんな…。わたしは、なんにもしてないわよ」

布団の上で恐縮してしまう、わたし。

 

「愛は――」

「えっ、なに?? さやか」

「今晩は、そのぬいぐるみを抱きながらでないと、眠れないか」

 

…スターマンのぬいぐるみのことを言ってるのね。

 

さやか。…あなたの言う通り。今晩は、スターマンを抱きしめて、ベイスターズの勝利を祈るの。

 

祈るわけ、だけど。

 

「――野球の話題も、いいんだけど。

 わたしがベイスターズ語りをやり始めちゃったら、夜が更けていっちゃうから。ここでは、自重する」

と言って、

「あのね。わたし……高2のときに、アツマくんとあすかちゃんと3人で、関西旅行したことがあって」

「あー、そうだったんだってねえ」

「さやかにも話したっけ」

「話してる、話してる」

「わたしも憶えてるわ、愛ちゃん。高2のときの年末に行ったのよね? 年明けに、教室で愛ちゃんが熱く語ってくれた記憶があるわ」

「……記憶力抜群ね、アカちゃん」

 

豆電球だけになった灯(あか)りを見上げながら、

「あの関西旅行が、わたしにとっては、修学旅行の代わりになった……。わたしだけ修学旅行みたいなことして、抜け駆けみたいで、ちょっと……ズルかったかも」

と言う。

 

「ズルだとか、そんなこと少しも思ってないわよ」とアカちゃん。

「いい思い出作られて、良かったんじゃん」とさやか。

 

わたしの左横に寝転んださやかが、

「――また、アツマさんと旅行したいんじゃないの?」

とか、出し抜けに言ってきた…。

「…なにを言うのさやか。彼とふたりっきりの旅行ってことよね?? まだ…そんな段階じゃ、ないんだし」

「エーーーッ」

「へ、変なリアクションは程々にして、さやか」

「愛ってさ。そんなにまで、『オクテ』だった?」

「お、おくて!??!」

「アツマさん、来年は就職しちゃうんだし、今年の年末あたりとか、ちょうどいいタイミングなんじゃないのかなあ」

 

右横から、

新婚旅行しちゃいなさいよ、愛ちゃん」

という声。

 

……アカちゃん!?

 

「アカちゃん!? も、も、もちろん、誇張、なのよね、新婚旅行……だとか」

「そうね」

「……」

「大げさで紛らわしい表現になっちゃったかもしれないわね。コンプライアンス案件みたいなこと、言っちゃったわ。

 でも……」

 

「で、でも……?!」

 

「いい機会じゃないかしら? さやかちゃんの言うように。

 フライングで新婚旅行したって、いいじゃないのよ」

 

 

……唖然呆然。

 

速くなる、胸の鼓動……!

 

 

……。

 

懸命に、動揺を抑えつけたくて、わたしは、

「あ、アカちゃんこそ、ハルくんっていう、最高のパートナーが居るじゃないの。それこそ、ハルくんとふたりっきりで、どこかに――」

 

――アカちゃんは少しもたじろがず、

「ハルくんがクルマの免許を取ったなら、考えてもいいわね」

と。

 

「ど……どうして、自動車免許取得が条件なの」

「……ウフフ」

「あ、アカちゃん?!」

「愛ちゃん。――ハルくんには、どんなクルマが似合うと思う?」

「そ、それは……、アカちゃんの会社のクルマでしょう」

「模範解答ね」

「……」

「この話の続きは――明日にしましょうか。なんだかわたし、眠くなってきちゃったわ♪」

「……上手(じょうず)にはぐらかしたわね」