放課後になっている。
わたしと豊崎(とよさき)くんは放送部のお部屋に乗り込んでいる。
わたしたちの「第2放送室」と似た感じの構造のお部屋だけど、こっちのほうが規模が大きくてゆとりがある。
正式な部活の放送部と、クラブ活動に過ぎず活動も滞っているKHK。
格差をまざまざと感じさせられる。
でも、放送部と張り合って対立するのは愚策(ぐさく)だ。
協調路線。KHKの活動が順調さを取り戻すためには、放送部と手を結ぶのが必要不可欠である。
既に放送部からはサポートを受けていた。KHKのお昼の校内放送ラジオ番組『ランチタイムメガミックス』は、KHKの所属者が1人も居なかった昨年度は、放送部の方々にパーソナリティを担当してもらうことで放送を継続していたのである。
「……で、今年度もしばらくは、『ランチタイムメガミックス』のパーソナリティを放送部の皆さんに担当していただきたいのですが」
3年の秋本萌音(あきもと モネ)先輩にわたしはお願いする。
モネ先輩とわたしは互いに向かい合って木の椅子に座っている。
そしてわたしの背後の長椅子には豊崎くんが座っていて、存在感が薄い。
「部長の紅葉(もみじ)が居ないからなあ。わたしがオッケーしちゃって良いのかな」
「でも、モネ先輩、副部長ですよね? 今この場では放送部の最高責任者なんですから……」
「タカムラちゃん」
3年生だからか流石にオトナっぽい雰囲気のモネ先輩は、わたしを「タカムラちゃん」と呼んで、
「押しが強いね」
わたしは負けじと、
「今日決められないのなら、明日また来ます。部長さんが明日来てくれてたら、わたしが直接……」
「紅葉(もみじ)が明日も来なかったら、どーするの?」
うっ。
モネ先輩、圧(あつ)、強い。
「ぶ、部長さんなんですから、2日連続欠席なんて、あまり考えられない……」
そう言いつつ目線が下がってしまうわたし。
「ねー、タカムラちゃーん」
「……ハイ」
「わたしはタカムラちゃんの後ろのオトコノコに興味があるよ」
「……ハイ??」
「豊崎(トヨサキ)くんってゆーんだよね」
あからさまに豊崎くんに向けて視線をにゅーっ、と伸ばすモネ先輩は、
「トヨサキくん、こっち来てよ。パイプ椅子あるから、わたしの隣に座ってくんない?」
あの。
モネ先輩??
初っ端から「わたしの隣に座ってくんない?」って。
後輩男子との距離感、ヘンじゃないですか??
× × ×
隣のパイプ椅子に来た豊崎くんの接待にモネ先輩は夢中で、『ランチタイムメガミックス』のパーソナリティの件がウヤムヤになってしまった。
豊崎くんをモネ先輩に取られた悔しさは無いけれど、手持ち無沙汰になってしまって困っている。
そんなわたしに2年生の寺井菊乃(てらい きくの)先輩が近付いてきた。
ツインテールの彼女の眼つきが鋭い。
硬派(?)な感じがする。
木の椅子に座るわたしを寺井先輩が見下ろす。
「どうされました? 寺井先輩」
「下の名前でいいよ。『菊乃』」
「あっハイ、菊乃先輩」
「わたし気がかりなんだけどさ」
「気がかり?」
「復活するとはいえ、KHKは今んとこ、あんたとトヨサキくんの2人きりなワケじゃん。しかもあんたも彼も入学したばっかの1年。こういう状態で活動を続けていけるのかなあ? って」
「それは、『努力するしかない』って思ってます。努力して、番組作って、新しいメンバーも集めて」
「わたしらも協力はしてあげるよ」
「ありがとうございます」
「だけど」
わたしの右側にあるパイプ椅子に菊乃先輩が座り、脚を組んだ。
「うまく行かないコトだって、きっとある。あんたらは新入生なんだから、いろいろ吸収できると思うんだけど、一方で、手探りでやっていくしかない状況もいっぱい生まれる」
「『うまく行かないコトもある』って、『失敗もある』ってコトですか」
背筋を正すわたしは、
「わたし、失敗を恐れちゃダメだと思うんです。『失敗は成功のお母さん』なんですし」
「強いんだね」
と菊乃先輩。
「豊崎くんよりは」
とわたし。
菊乃先輩が微笑んだ。
そしてそれから彼女は、
「トヨサキくん、あっちでモネ先輩のオモチャみたいにされてるけど」
と、無残なコトになっている彼の方角に視線を寄せながら、
「わたしもイジってきていいかな?」
と、みなぎる笑顔で……。
豊崎くんって、年上の女子にモテるのかな?
そんな属性あるなんて、予想外。