「――さて、昼休憩の時間も、残り少なくなってきました。
そして、ぼくが担当する『ランチタイムメガミックス(仮)』の放送時間も、残りわずかになりました。
2月に入ってからも突発的に放送するという案もあったんですけど、さすがに往生際が悪いので、やめることにしました。
なので、明日からは、放送部の後輩の子が旧校舎のスタジオに来てくれて、パーソナリティを担当してくれることになっています。
なにしろ放送部で鍛えた子たちですから、ぼくなんかよりも喋(しゃべ)りの技術はずっとずっと上のはずです。
この番組も、安泰だな。
……さてさて、エンディングテーマも流れてきたことですし、締めさせていただきたいと思います。
どうも皆さん、短いようで長い間、ありがとうございました。
明日からも『ランチタイムメガミックス(仮)』は末永く続くはずなので、どうぞよろしくお願いします。
泣いても笑っても、羽田利比古担当分の放送は、これでお開きです。
サンキュー・フォー・リスニング」
× × ×
3年の授業は半日で終わっていた。
これからぼくたち3年は、自由登校期間に入る。
いろいろな区切りがつく。
ぼくは……つい先程(さきほど)、『ランチタイムメガミックス(仮)』に区切りをつけ、KHKの活動にも区切りをつけた。
卒業は近づいている。
× × ×
旧校舎から出てきたら、野々村ゆかりさんが立っているのが見えた。
ぼくに視線を注(そそ)いでいる。
待ち受けていたらしい。
ぼくは野々村さんに近づいていって、
「……出待ちかな」
「まあ、そんなとこかもね」
「なにか用なの」
「用なんてないよ」
「え、だったらどうして、ぼくを待ってたの」
彼女は枯れた噴水の方角を指差して、
「あそこに座って、お昼ごはん食べながら、羽田くんの『ランチタイムメガミックス(仮)』の終焉を見届けてた」
見届けてたのかー。
少し視線を逸らせながら、彼女は、
「お疲れ様でした、って、言ってあげても……いいかな」
と、ねぎらい。
素直じゃないなあ。
「素直じゃないなあー、野々村さんも」
すると彼女は厳しい眼つきになり、
「そんなこと言ったって、ムダだから。わたしは、羽田くんの『素直じゃないなあー』に動揺したりなんか、しないから」
そっか。
彼女は腕組みして、
「ひとつ確認。さっき、エンディングで流れてた曲って、『ルーシーはムーンフェイス』って曲だよね?」
「エエッ、どうしてわかったの、すごいね」
ぼくの『すごいね』に表情を変えることもなく、
「西川貴教のオールナイトニッポンのエンディングテーマだったんでしょ?」
「そうだよ。物知りだね、きみ」
「あーそーですか」
軽く突っぱねてから、ぼくの3年連続クラスメイトたる彼女は、
「15年以上前に終わったラジオ番組のエンディング曲を引っ張ってくる意図は、なに」
「それを話せば、長くなる」
「うわっオタクだ、羽田くんオタク」
「あはは」
「みんな見た目に騙されてるんだ、見た目に騙されて、下駄箱にラブレター入れたり体育館裏で告白したりしてるんだ」
「ディスるね、ずいぶん」
「ディスるに決まってんでしょ」
ぼくではなく、枯れ噴水に眼を凝らし、
「もうあとちょっとで、卒業なんだから。アナタとも、あとちょっとで、別れ別れになるんだから」
と、終身名誉クラスメイトの、野々村さんは。
「あ~~っ」
ぼくの終身名誉クラスメイトは、天を仰いで、
「いろいろ言ってたら、お腹すいてきちゃったじゃんっ。さっきお昼ごはん食べたばっかりなのにっ。羽田くん。アナタが責任取ってよねっっ」
と、無茶苦茶なことを。
拒否権は、無いんだろう。
もちろん、無いんだろう。
「ダブルチーズバーガー、3個頼んでやるんだからっ!」
「さっきお昼ごはんだったのに?」
「べ・つ・ば・ら」
「マクドナルド、値上げしたのに?」
「お・ご・り・で!!」
――払わされるのか。
やれやれ。
やれやれ、の4文字が――ほんとうに、野々村ゆかりさんには、よく似合う。
やれやれ。