【愛の◯◯】ピンチヒッターに、なってよ。

 

小鳥が着水(ちゃくすい)し、波紋が広がる。

波紋、か。

わたしも、波紋、広げちゃったな。

共通試験で失敗して、取り乱して、波紋を広げた。

広げた責任を……どれだけ、取っていけるだろうか。

 

池と向かい合っていた。

すると、だれかが近寄ってくる気配がした。

振り返らなくてもわかる。

ウッツミーだ。

 

× × ×

 

「調子はどうだ、小路(こみち)」

背中に声をかけてきた。

「まあまあだよ」

わたしは答える。

「まあまあだよ、じゃ、心もとない」

ウッツミーが言う。

マジで気づかってくれてるんだ、わたしのこと。

「あのね」

小石を拾い、水面に投げながら、

「1週間前のわたしと比べたら、ぜんぜん良(い)いの」

と言う。

なぜかっていうと。

「なぜかっていうと、ね。

 ……。

 ウッツミー。

 あんたが突然、LINE通話してきてくれた、おかげ」

彼のリアクションは感じられない。

いま、どんな顔してるんだろ。

真顔かな。

真顔になって、わたしのコトバの続きを待ってる。

そんな感じかな。

「先週の月曜の『アレ』で終わりじゃなくって、この1週間、あんたは何回か、わたしのスマホに連絡してきてくれた」

ようやく、わたしは振り返って、

「嬉しかったよ」

と笑いかける。

畳みかけで、

「わたしのわけのわからない話を、あんたが聴いてくれたおかげで、亜弥との『より』を、戻すことができた」

「……おまえの話を聴いてやったことと、猪熊と仲直りしたことに、いったいどんな因果関係が」

「細かいことはいいの」

わたしは立ち上がり、スカートをぱんぱん、と叩きながら、

「元々、細かいこと気にしない性格(タチ)だから、わたし。それに、あんたにも、細かいこと気にしてほしくないし」

彼は目線を少し下げて、

「まあ、結果オーライなら、それでいいか」

「そーそー。結果オーライ」

距離を詰め、

「亜弥との仲が、元通りになった。それが嬉しくて、亜弥とデートがしたくなった」

「デートって。女子同士だろ」

「女子同士でも、デートはデートだから」

『わかってないなあ……』的な表情を、わざと作ってみる。

それから、

「でも、亜弥、これから忙しくなるし、亜弥とのデートは、お流れになった。

 だけど。

 だけど、だけどね……ウッツミー」

一拍(いっぱく)置いて、

「デートがしたい、っていう気持ちに、変わりはない。

 亜弥とは、デートできないけど。

 

 ねえ、ウッツミー。

 

 亜弥のピンチヒッターに、なってよ。