たまには出前をとるのもいいよね……と、近所のお寿司屋さんに電話して、握り寿司2人前を配達してもらった。
食後。温かい日本茶を飲みつつ、
「アツマくん、『食べ足りない』とか言わないわよね」
「言わねーよ。満腹だし、満足だ」
「フフッ」
「なんじゃいな、その笑いかたは」
「フフフッ」
「あのなー、愛ちゃんよー」
「だって、あなたの『なんじゃいな』が面白いんだもん」
「ぬ……」
「ほとんど口ぐせよね、『なんじゃいな』」
そう言うと、彼はどうにかして話題を転換させたかったのか、
「……愛、おまえは昨日、さやかさんの家にさやかさんのバースデーを祝いに行ったわけだが。おれ、詳細を未だに聞かされておらず」
「そんなに詳(つまび)らかに報告してほしいの?」
「してほしい」
「どーして?」
「おまえの行動は把握しときたいし……それ以上に、さやかさんには常日頃よくしてもらってるからな」
「そーんなにあの子のことが気になるんだあ」
「る、るせえ! からかいやがって。アレだよっ、アレっ。おれからも……誕生日祝いのメッセージを、近いうちに」
「あなたって、そんなに律儀だったっけ」
「だったよっ!」
「うわあ」
× × ×
「夕方から大吟醸飲んでたの」
「は、はああ!?」
「ビビった??」
「び、ビビるだろ、そりゃ。『大吟醸』っつうワードがいきなり飛び出たインパクトが……」
「まーねー。夕方から大吟醸だなんて、ディープインパクトよねー」
「……たぶん、アカ子さんが持ち込んで来たんだよな」
「ピンポーン」
「平日の夕方に女子3人で大吟醸……」
「悪いかしら」
「おまえ、『こんなことできるのも大学生の特権なんだし』とか主張するつもりなんだろ」
「あはは」
「それにしてもなあ……」
「わたしとさやかとアカちゃんだけで飲んだんじゃないのよ? さやかのお母さんとお兄さんも飲んでたって、帰ったあとでさやかから言われた」
「マジかよ」
「マジよ」
「……。あまり説教臭くはなりたくないが、学生の本分というモノに対する弁(わきま)えも……」
「アツマくん」
「なに」
「抜けてるから」
「しゅ、主語」
「アルコール。大吟醸のアルコールは、抜けてるから」
「ぬ、抜けたからなんなんだよ」
「アカちゃんなんか、抜ける抜けない以前に、終始シラフ同然で――」
「こ、コラッ!!」
「なあに? なにか文句ある??」
「こ、こっちは、次から次へと文句が生まれて来てんだぞ」
「あのねえ。とっくに戻ったに決まってるでしょー??」
「なにに……」
「『学生の本分』に」
「……」
「さやかバースデーから一夜明けた今日なんか、午後1時から5時まで4時間に渡って、ドイツ語文献読み続けてたし」
「……」
「もちろんさやかも、『学生の本分』に戻っていって」
「……」
「駒場の図書館に6時間籠もってたんだって。熱心よねー、あの子も」
「……」
「どうしたのよ、あなた。さっきから『……』が4回も連続してるわよ?」
アツマくん、ぐうの音も出ないみたいで、
「負けるよ。おまえたちには」
と、弱く呟くだけだった。
ダメね~。