サークル部屋で羽を休めていたら、ノック音。
ムラサキ?
いや、星崎か?
それとも、茶々乃さんか?
――いや、違う。
ムラサキでも星崎でも茶々乃さんでもない。
たぶん、このサークルに出入りしている人物じゃない。
『だとすれば、いったい、だれが…』と思いつつ、ドアを開ける。
立っていたのは、大人びた女性。
おれより確実に……年上。
成熟した大人の女の人……といった雰囲気を醸し出している。
25歳前後か?
スラリとした細身の長身。
そのスタイルが、大人びた印象をますます強くさせている。
彼女はチラシのようなものを差し出して、
「これ、イベントのお知らせなんだけど――受け取ってもらえないかな?」
いきなりタメ口で来たっ。
…まあ構わないが。
おれはイベントお知らせの紙を見る。
「『西日本研究会』……ですか」
「もしかして、初めて見るサークル名だった?」
「はい。ぶっちゃけ」
「きみ、正直でいいね」
ほめられた…のか!?
「自己紹介、遅れちゃった。
私、東本梢(ひがしもと こずえ)っていいます。はじめまして」
「こちらこそ、はじめまして。おれは戸部アツマっていいます」
「アツマ君か。きみは何年生?」
「3年です。4月から4年」
「なるほど。
――私は、1年生。つまり、来月から2年」
……えっ!?!?
「アハハー。そりゃあ驚いちゃうよねー、仕方ないよ。
私みたいなオバサンが、まだ1年なんだもんねえ」
「いや……オバサンでは、ないと思うんですけど」
「マジ!? ありがとう、アツマ君」
「失礼ですが……東本さんは、おいくつですか?」
「おっと」
「…??」
「苗字呼び、やめてよ。下の名前の『梢』で呼んで」
「……では、梢さん」
「よろしいよろしい」
「あらためて……おいくつですか」
「24。今年で、25」
「っていうと……つまり」
「97年度産まれだね」
ルミナさん&ギンさんのカップルよりも、さらに1個上。
それにしても。
「入り直し、ってことですか? 大学に…」
「ビンゴぉ。
最初に入った大学、ソッコーで中退してさー、そんでもって、社会人経験してから、去年、この大学に。
2度めの大学デビューだね」
この人は、おれよりも、3つ年度が上。
しかしながら、いまの学年は、2個下、というわけだ。
複雑だなあ……大学ならでは現象だが。
「混乱してきてない? だいじょうぶアツマ君」
「はい、だいじょうぶ…なんですが、」
「ンッどうした」
「…『西日本研究会』というのは、なにをするサークルなんですか?」
「それに答える前に――」
「ま、前に??」
「私らのサークル部屋、移転してね。きみたちのサークルの、すぐ近くに来たんだ。だから、きょうは、引っ越しの挨拶も兼ねての訪問だったというわけ」
おもむろに右手を差し出して、
「これからよろしくね、アツマ君」
と握手を求める。
応じるしかなく、握手するも、
「それで、そっちの『西日本研究会』は、いったいどんな……」
と訊き返す。
しかし、梢さんは、期待を裏切り、
「引っ越しソバ、要る?」
と…手垢のついた冗談を言って…はぐらかす。
× × ×
梢さんが去り、星崎が入室。
鼻歌を歌いながらCD棚を物色する星崎めがけ、思わず、
「――子どもだなあ」
とつぶやいてしまう。
瞬時に星崎が振り向き、
「わたしのこと言ったの!? どこまでバカにする気なの」
とキレる。
おれは即座に、
「すまない。余計なこと言った。
『余韻』が……残っていたからな」
「余韻??? …なにそれ」
「余韻は、余韻だよ」