旧校舎の入り口付近に、女子生徒が立ちはだかっている。
クラスメイトの、野々村ゆかりさんだ。
野々村さんとは2年連続でクラスメイトで、良くしてもらっているのだが……どうして、こんなところに?
「野々村さん、どうして、こんなところに? ぼくを通せんぼするみたいにして」
「鋭いね羽田くん。そうだよ。羽田くんを通せんぼしたかったんだよ」
「え……!」
「話があります」
× × ×
とりあえず、ボロボロの噴水のところに。
微妙な距離感で腰かけている野々村さんだったが、おもむろに、
「――さっきまで、なにをしてたの?」
と訊いてきた。
「取材をしてたんだ。KHKの」
「――へえ」
「この学校の歴史をさぐる番組を作ってるんだ。それで、伝統のある部活をまわっていて、きょうは、応援部に」
「羽田くん、苦手じゃなかったの? 応援部。篠崎先輩だとか…」
「篠崎先輩は卒業したでしょ?」
「したけど、さ」
「…さいきんは、苦手意識は、なくなってきてるんだよ」
「ふーーん」
び、微妙なリアクションだ。
「の、野々村さんは…ぼくが放課後になにをしてるのか、が知りたかったのかな?」
「それも、ある」
「『も』? 『も』、って……!」
「羽田くんの放課後の様子も気になる。だけど、それだけじゃない」
「……具体的に、お願いできるかな」
「2点」
「2点?」
「まず、ひとつめ。
『羽田くん、KHKでぼっち問題』」
ああっ……。
「……羽田くんも、意識はしてるみたいね、『ぼっち』の3文字は」
「……」
「ま、同じクラブの先輩がぜんぶ抜けて、ひとりぼっちになるって、よくある話のような気がするけど」
こころなしか……野々村さん、距離を詰めてきてるような。
「ねえ、『この音とまれ!』って漫画知ってる? ジャンプスクエアで連載されてるんだけど」
「…知らない」
「そっか。まあいいんだけど。あの漫画、話の発端が、そんな感じなんだよ」
「つまり…先輩がみんな抜けちゃって、ひとり取り残された部員の…」
「まあそんな感じ。いまの羽田くんと状況が似てる。
――漫画だったら、仲間集めもトントン拍子で行くかもしれないけれど。現実は、漫画じゃないんだよね」
『そうでしょ? 羽田くん』みたいな視線を、感じる。
「ボヤボヤしてると4月来るよ。入学式だよ。――練ってる? 新入生勧誘を、どうするか」
ぼくは、沈黙……。
沈黙、しながらも、苦し紛れだけども、
「も、もしかして、助けてくれる、とか……野々村さん」
と言ってみる。
「手助けする気持ちがあるから、こうやって、話してるとか」
「――なにいってんの」
「ぐ……」
「自己責任ってことば、知ってるよね!?」
「ぐぐ」
「ヘンなリアクションは、やめて。
――懸念事項、ふたつめ。
『放送部女子に振り回されてる羽田くん問題』」
「猪熊さんや小路さんの…こと?? 『問題』、なのかなあ…果たして」
「問題でしょ」
「ヒエッ」
「だから、なんでそんな奇妙なリアクションするわけ!? のけぞらなくてもいいじゃん」
「のけぞっては、いないって……」
「のけぞってるよ!!」
怖い。
野々村さん、怖いよ。
「単純に。単純に、さ。猪熊さんとか小路さんとか、放送部のあのへんの女子たちに、羽田くん、著しく『拘束』されてるわけじゃん!? 教室に押しかけて来ることも、頻繁に……」
「まあねえ……。そういう意味では、振り回され気味なのか、ぼく」
「いいの!? このままで。あの子たちに、じぶんの活動、阻害されてるんじゃん」
「……阻害とまでは、行かないよ。まだ」
「あきれた」
「野々村さん……」
「『衝突』は、避けられないね」
「衝突……??」
「……あのさぁ」
「??」
「なんでそんなに物分かり悪いわけ!?」
明白に、ムカムカな……彼女。