【愛の◯◯】『負けヒロイン属性』を勝手につけてくる兄

・AM8:50

 

土曜だからといって遅くまで寝たりはしない。そこら辺はキチンとしているんである。
で、大親友と通話中。

「今日ダイチとデートなの」

電話の向こうの大親友のソラちゃんが告げてきた。そっか。そっかそっか。土曜日なんだもんね。デートにはうってつけだよね。

だけど、

「ソラちゃんの彼氏、もしかしたらまだ寝てるんじゃないの?」

「かもねー。そうだったら、ダイチが遅刻する確率99パーセントだな。遅刻を謝ってくる前にカバンで叩かなくちゃ」

「ソラちゃんもバイオレンスだねえ」

あたしは笑いながら言うんだけど、

「ヒナちゃんもわたしと同じくらいバイオレンスじゃない?」

と言われたから途端にテンパり始め、

「な、ななっ、なんでっ」

大親友で、距離が近いから……分かるんだ。それに女の子同士だもんね」

あたしは話題を変えたくて、

「どこで遊ぶつもりなの!? お昼ご飯は何を食べるつもりなの!?」

「当ててみなよ」

「……」

沈黙。考え込み。不甲斐ない。

ラチがあかずに、

「あたし、あたし、顔を洗ってくるっ。戻ってくるまで待機してて……!」

 

× × ×

 

・PM13:15

 

彼氏なんて持ったことも無いから、デートスポットもデートご飯もなかなか想像できない。

 

現在デート真っ只中であるはずの水谷ソラちゃんと会津ダイチくんを少し羨みながら、ダイニングテーブルの横を通ってリビングに近づく。

兄がアニメを鑑賞していた。

「土曜の昼下がりからお兄ちゃんはどうしよーもないね」

「そりゃどんな挨拶だ、ヒナ子よ」

「挨拶ってなに、ヒナ子ってなに。おかしいよ」

「おかしくない☆」

何か重量のあるモノで兄の頭を叩きたかったが、それこそバイオレンスなので思い直し、テレビ画面を睨みつける。

「これ、『負けヒロインが多すぎる!』ってアニメだよね?」

「よく知ってたなヒナ子。公式の略称は『マケイン』だ」

青髪の女の子が眼を見開きながら叫び声を上げている。確か八奈見杏菜(やなみ あんな)って娘(こ)だ。

「なーなー。こういうアニメを観ていて、おれには感じるコトがあるんだが……」

ろくでもない発言が飛び出すに決まっているから身構えるあたしに、

「おまえも『負けヒロイン属性』持ってるよな」

と兄は……!!

「兄貴ッ!!」

「なんだよ怒ったか」

「あたし、女の子なんだからね!!」

「へ?」

「そ・れ・に!!」

「なに」

『負けヒロイン属性持ってるよな』って言った人間が、負けヒロイン属性を持つんだからっ

「いや非常に意味が分からんぞ、それは」

 

× × ×

 

・PM19:30

 

晩ご飯の時、右隣に居た兄貴の足の脛(スネ)を蹴りたくて仕方がなかった。でも、できなかった。

 

兄貴に対するヘイトが収まらずに、自分の部屋にスナック菓子を3袋持ち込んだ。

コンソメパンチなチップスの袋を雑に開け、チップスをどんどん口に放り込んでいく。

むしゃくしゃしながら、ムシャムシャする。

あっという間に完食。

あと2袋残っている『救い』はあるんだけど、

「兄貴の失言のせいで、カロリーオーバーになっちゃう」

と、ベッドの側面に身を委ねながら呟き、剰(あまつさ)え、

「カロリーオーバーになるべきは絶対に兄貴の方なんだからっ。明日の日曜日、丸1日使って、兄貴を太らせる方法を考えなきゃ……」

と、クドクド独(ひと)りごちる。

日曜にデートの予定でも入っていれば、こんなこと考えるわけもない。

つらい。