【愛の◯◯】夏祭り前夜。からかいのあすかちゃんと、ミーハーのおかーさん

 

利比古くんに、誕生日プレゼントで、本を贈った。

 

贈った……ことは、贈ったんだけども、

わたしが贈った本が、プレゼントとして果たして妥当だったかどうか、

いまになっても、わからないでいる。

 

あの誕生日プレゼントで、胸を張って、「うまくいった!」といえるのは、

同封したメッセージカードの文字を、きれいに書くことができた……ということぐらい。

 

ほんと、お習字だけは、自信が持てるんだよね。

 

お習字に自信持てたって、モテっこないんだけど。

 

……おっと。

手書きの字のきれいさと、異性にアピールできるできないは……まるっきり、無関係。

 

 

異性……、

異性、か。

 

利比古くん……異性……男の子……年下……。

 

意識が、

勝手に、利比古くんに行き着き、

いつの間にか、彼の爽やかでハンサムな顔を、想い起こしている。

 

想い起こしていると。

時間がどんどん過ぎちゃう。

時間を忘れるってこと。

それはつまり、ウットリ状態ってこと、?

 

――いや。

疑問符、つけるまでもないや。

 

わたし――きっと間違いなく、

利比古くんに、ますます惹かれていってるんだ。

 

 

やるべきことが、なーんにも手につかない。

気持ちがフワフワしてるのは、

彼に、利比古くんに、こころを奪われかかっているせい。

 

× × ×

 

 

「……」

『ほのかちゃん? 聴いてる??』

「あっ、ごめん。あすかちゃん」

『注意力散漫みたい。意外だね』

 

スマホの向こうのあすかちゃんからの、するどいご指摘。

 

「あはは、たしかにね」

『宿題でもしながら、通話してるの?』

「宿題なんかしてないよ」

 

宿題、サボリ気味、なんだけど、ここでの通話とは関係ない。

 

『ふぅん。

 ……で、あらためて、夏祭りの出欠を訊きたいんだけど』

「あ、うん」

『もうあしたなんだしね……で、けっきょく、来る? 来ない?』

「――来るよ。」

『それはうれしい!』

「ほんとにうれしそうだね。……ごめん、結論が遅くって」

『結論、って。ほのかちゃん』

「あははは、日本語、ヘタになってる」

『現代文の偏差値、わたしより10ぐらい高いのに』

「そのことはおいておくとして――お祭り、行くか悩んで、あすかちゃんたちに迷惑かけちゃったね」

『なかなか連絡くれないから、気がかりだった、ってのが本音』

「あーっ」

『ま…いいんだよ』

 

『ね、ね、ほのかちゃん』

「? どうしたの、楽しそうな口調になって」

『利比古くんがね』

「……利比古くんが?」

『浴衣姿で、お祭りに来るよ』

 

スマホを持つ手に、ちからが入る。

 

浴衣。

利比古くんの……浴衣姿が……見られる。

 

「――それは、いいね」

『いい、どころじゃあ、ないんじゃないの~!?』

「だ、だれのこと、かな!?」

『フフフ』

 

フフフじゃないよっ!

 

あすかちゃん、確実に、わたしをからかってるよ。

 

畳み掛けるように、

『この前さ、

 利比古くんがさ、

 ほのかちゃんがバースデープレゼントした本をさ、

 ずいぶん熱心に、読んでたんだよ~』

 

読んでたんだよ~、じゃないよっ、あすかちゃん!

 

『…ほっ、ほのかちゃん!?』

 

「…ごごごめんなさい、ムキになって、なに言ってんだろう…わたし」

 

『注意力散漫だったさっきまでとは、一変だね』

「そうだよね…」

 

一変した、引き金は……、

利比古くんの、名前が出たこと。

 

利比古くんのことが気になってしょうがないから、

あすかちゃんにまで……ムキになっちゃう。

 

わたしのバカ。

軽率。

軽率ほのか。

 

× × ×

 

 

わたしの想いに、うすうす気がついていると思われるおかーさんを、呼びに行く。

 

 

「どしたのほのか。あすの昼ごはんのリクエストでもあったり?」

「違う。ぜんぜん違う」

 

まっすぐ向き合って、

おかーさんの顔を、真剣に見て、

 

「夏祭りに行くことに決めた。

 だから、浴衣の着かたを、教えてくれない?」

 

「――浴衣??」

 

「夏祭りといえば、浴衣でしょ」

 

「それはそーだけど」

 

「ねぇおかーさん、おねがいっ」

 

「――わかった。教えてあげる。

 ……見せたいんだ。だれかに。」

 

「……まあ、そういうワケで」

 

「だれよ」

 

「……教えるのが、ムスメの義務だとか、思ってる?」

 

「うん」

 

「あのねー、おかーさーん」

 

「トーンダウンしないでよ。

 ……それで、だれ」

 

「……」

 

義務には……逆らえないのか。

 

打ち上げ花火が……とっても、似合いそうな子だよ

 

屈服して、告げた。

 

しかし、なおも、

「――性別。性別も言ってよ」

と、食い下がってくる。

 

「おかーさん……、ミーハー。」

「えぇ~~、ミーハー呼ばわりはないよ~、ほのか~」

「説得力……あると思ってるの?? もしかして」