きょうは、夏祭りの日!
――ただ、出発までには、時間あり。
× × ×
お昼ごはんのあと――、
「あら、アツマくん、なんだかダルそうね」
「うるせーよ」
「うるさくないわよ」
はいはい…と手をヒラヒラ振って、わたしを軽くいなす。
それがちょっぴり不満で、
「お祭りのときは――本気、出してよね?」
「本気ってなんだよ」
「みんなのお兄さんになってよ――今年も大人数のグループになるでしょ? みんなのお兄さんとして、リーダーシップを発揮して」
「リーダーシップとか、過剰に期待されても困るぞ」
「アツマくんにはリーダーシップが求められてるのよ」
「はあ!?」
「来たるべき就職活動に向けて、リーダーシップを磨くのよ。きょうのお祭りは、いい機会だわ」
「…無理やり就活に結びつけやがって」
「悪い?」
「……」
「どうなの」
「おれは……『リュクサンブール』でのバイトとか、目の前のことをがんばるだけだ」
「じゃあ、きょうのお祭りでも、がんばって」
「う」
「『う』じゃないわよ。お祭りこそ、目の前のことでしょ?」
わたしに詰められて、困り始めたような顔で、
「――愛、」
「どうしましたかアツマくん」
「コーヒーが飲みたい」
「??」
「食後の――コーヒーだ」
「はぐらかすわね。いろいろ」
「るせーよ。しゃっきりしたいんだよ、おれも」
そう言って、
「いっしょに飲もうぜ……愛」
しょーがないんだからあ。
しょーがなさの、エスカレートね、もはや…。
× × ×
飲み干したカップを置いて、
「ところでね、アツマくん」
「ん?」
「お祭り本番の描写も、気にかかるところだけど」
「言ってる意味がわからんが」
「……本番の描写のまえに、ここで『お知らせタイム』」
「お知らせタイム!?」
「そう」
どこからともなく、『お手紙』を取り出して、
「ブログの管理人さんから、連絡事項が書かれたお手紙が来ているわ」
仏頂面でアツマくんは、
「管理人からかよ……、どんな連絡事項だよ」
「読むね」
「……」
「『明日明後日と、夏祭りの模様をお送りする予定ですけど、
もしかしたら、スケジュールが、不規則になるかもしれません』」
「不規則って、なに」
「『不規則というのは――、
いつものように、早朝に更新するのではなく、更新時間帯がイレギュラーになったり、そもそも更新できなくなる日が出てくるかもしれません』」
「あの管理人、毎日更新していたろ。どんな事情で――」
「『わたくしの都合で、スケジュールが狂うかもしれず、申し訳ありません。
来週いっぱいは、不規則なスケジュールが、続くかもしれないです』」
「――予防線、張りまくりだな」
「あーのねー、予防線張っておくほうが、親切で誠実なんだって、あなたわかんないの!?」
「んん…」
「なんの告知もなしに、更新スケジュールが不規則になるほうが、読者の皆さんは戸惑っちゃうでしょ」
「…たしかになあ」
「わたしは管理人さん支持よ」
「用意周到というか、なんというか…」
「石橋を叩いて渡るぐらいが、ちょうどいいのよ」
「…」
「言い返せません、ってご様子ねぇ」
「ウルセッ」
「――そのウルセッ、は、負け惜しみ?」
× × ×
「それはそうとして――」
「ま、また話題転換か」
「そうよ」
「そうよ」と言って、わたしは椅子から立ち上がる。
「な、なに」
椅子にだらしなく座るアツマくんを見下ろし、
「アツマくんには、今夜、存分にリーダーシップを発揮してもらうとして」
ニコニコと、笑いかけるように、
「わたし個人の、願いは……」
「おまえの……願い??」
「そう。願いがあるのよ」
「な、なら、じらさないで教えてくれよ」
「うん」
うなずいて。
わたしは。
「――あなたといっしょに、花火を楽しみたい。
いっしょに花火が上がる夜空見上げて、幸せな、気分でいたい。」
「……照れるじゃねーか。」
「ほんとうね。いまのあなた、テレテレ」
「……からかうなよ」
「――ふたりいっしょで、楽しく花火を堪能したいから」
「――から?」
「浴衣は、ちゃんと着こなしてよね――。アツマくん」
「んんん……」
「そういう、ヘンテコな相づちは、だーめ」
「……くぅっ」
「お願いよ。ちゃんとやってよね」
観念したのか、
「……わーったよ。できるだけ、ちゃんとやるよ。」
「それでこそ、アツマくんだから」
「……」
「ますます好きに、なっちゃうな☆」
「――さりげなく言いやがって」