こんにちは皆さん。
川又ほのか、と申します。
文芸部の羽田先輩のようすが、きのうなんだかおかしかったので、
気がかりだったのですがーー
わたし(1年)の教室
『川又さん、2年の羽田先輩が呼んでるよ』
「( ゚д゚)えっ」
ほんとだ。
控えめな感じで、羽田先輩が教室の入り口に。
「どうしたんですか、わざわざわたしの教室まで」
「あの…お願いがあるの…」
「な、なんですか? お願いって」
「邸(いえ)までいっしょに帰って」
「(; ゚д゚)」
先輩はこんなふうに事情を説明した。
「メルカドでコーラ飲んじゃったの。
ほんとは、わたし炭酸飲料飲んじゃいけないの。
なぜかっていうと、炭酸飲んだら酔っぱらったみたいになっちゃうから。
でも、気持ちがささくれだってたから、ついコーラ頼んじゃったの。
それで、一気飲みしたから、伊吹先生の前でグデングデンに酔っぱらって…
わたしは『戸部邸に帰りたくない、伊吹先生のところに泊まらせてください』って言ってきかなかったみたいなのね。
でも『着替えの服とか下着とかどーすんの?』って先生に諭(さと)されて、先生に介抱(かいほう)されたままタクシーで戸部邸に帰らされて。
それで、わたし先生の目の前で、アツマくんに説教されて……。
『ひとに迷惑かけやがって!!』ってーー怒られて。
わたしは素直に謝ったけど、まだ、アツマくんとギクシャクしてて、まともに会話もできてないの」
「それで、邸(いえ)に帰るのが、怖いんですね」
「そういうこと。
でも、川又さんといっしょに帰ってきちゃったら、また『迷惑かけやがって!!』って怒られちゃうかも、ね」
「だいじょうぶですよ。
わたしは迷惑じゃないですから。
それに先輩のお邸(やしき)、どんななのか、一度見てみたかったんですw」
「(肩をすくめて)わたしのお邸じゃないけどね。
ただの居候(いそうろう)だから」
× × ×
『戸部邸』
「ーーすごいお邸(やしき)ですね…」
「大きいでしょ」
「豪邸、っていうんですかね」
「いうのかなあ」
・玄関
「…アツマくんもう帰ってるのかなあ…」
「大学に通っておられるんですよね」
「そうだよ、この時間帯に講義入れてなかったら、もしかしたら早く帰ってるのかも…」
「あの」
「?」
「そもそも、アツマさんから、『今日は何時ぐらいに帰る』とか、知らされてなかったんですか」
「あ…
ケンカしてるから、アツマくんの予定、きいてない…」
「じゃあとにかく邸(いえ)に入りましょうよ」
「ちょちょっとまって、心の準備がーー」
「ダメですよー先輩。こんなときに『心の準備』なんて。
自分の邸(いえ)なんでしょう?」
「わたしは…ただの居候だよ…川又さん……」
「でも、この邸(いえ)の一員だっていう意識、持ってるはずです、先輩は」
「それは……そうだけどさっ」
♫ガチャ♫
「なにやってんだよっ」
「(おびえるように)あ、あ、アツマくん」
「揉(も)めごとなら、外じゃなくて、ウチでやってくれ」
× × ×
・リビング(?)
ひ、広い。
この広間、広すぎ。
広すぎるし、天井がすごく高い。
「はじめまして、羽田先輩の1年後輩の川又です」
「愛のバカがわがままですまんかったな。
ま、川又さん、ゆっくりくつろいでいってくれよ」
背が高くて、
すごく、たくましそうな人。
スポーツマンみたいな。
ーーでも、
「せ、先輩は、バカじゃないし、わがままでもないと思います。
わたし、先輩を、そのっ、そ、尊敬しているんです」
「そうかーーそれはよかった」
「ちょっと、アツマくん、川又さんにつっかからないでよっ」
「そんなつもりねーよ」
「つっかかってるじゃん! わたしを悪く言うのはいいけど、川又さんをいじめないでよっ!」
「いじめてなんかないだろがっ💢」
「ーー川又さんは、わたしを尊敬してるって、言ってくれたけど、
わたしがだれを尊敬してると思ってるのよっ」
「おまえの尊敬してる人~?w」
「あ・な・た・よ!!」
「愛、おまえーー」
「(泣きそうになって)尊敬してるんだから、好きなんだから、いっしょにいたいんだから、現在(いま)のままじゃイヤ。
仲直りしたいよ。
川又さん、どうしたらいいのかな」
「わ、わたしに振られても、困るんですが」
「そうだよね。
アツマくんーー、
わがままで、バカでごめんね。
こんな性格ブスで。
たかがCDケースが割れたぐらいで、こんな大ごとに発展しちゃって」
「ーーもうすぐ届くころかな」
「な、なに言い出すの」
♫ピンポーン♫
「ほら、来た」
「まさかーー、
宅配便!?」
× × ×
「おまえのために買った。
開けてみろ、
おまえがおとうさんにもらったのと同じCDがーー」
「……開けなくてもわかるよ。
(泣き笑いで)どうしてそんなに行動力があるのかな、アツマくんは……」
「旅行の予算が少し減るぞ。
CD注文した代金のぶん。
わかったな」
「うん…わかってる……ごめんね、わざわざ」
「こういうときは、どう言うんだ?
謝るだけじゃ、ダメだろうが。
な?」
次の瞬間ーー、
先輩が、
アツマさんに、
正面から抱きついた。
「(うろたえ気味に)ばっきゃろ、言葉で態度を示せよ」
「ーー肉体言語。」
× × ×
「いつまで抱きついてんだよっ」
「だめ。離さない」
「川又さんが、唖然としてるのがわからんのかっ」
「わかってる。だから、離さない」
「意味わかんねーよ」
「…じゃあ、こうする。
アツマくんに、わたしの感謝の気持ちが伝わり切ったら、離すから」
先輩は、
アツマさんの行動力に驚いていたけど、
先輩の行動力のほうが、
驚きーー。
先輩の愛情表現って、こんななんだ。
スキンシップ。
ーーわたしには、まねできない。
だからわたしは、羽田先輩を、ますます尊敬してしまう。