豪邸だった。
広くて、大きい。
こんなにすごいんだ……あすか先輩のおうち。
「ようこそー」
出迎えてくれる、あすか先輩。
なんだかきょうのあすか先輩は、お金持ちのお嬢さまみたく見えてしまう。
だって、こんなにすごい邸(いえ)に住んでるんだもんね。
「ま、とりあえずリビングでのんびりしててよ」
あたしたち1年生トリオはリビングに通される。
天井が、めちゃくちゃ高い。
ソファに座ったら、すっごくフカフカだった。
テレビの画面もすっごく大きい。
「お菓子食べるー? なんでも好きなのを言っていいよ」
え。
「あすか先輩……『なんでも好きなのを言っていいよ』って、どういうことですか?」
反射的に訊くあたしに、
「お菓子ならなんでもあるから」
「な、なんでもあるって」
「ほんとになんでもあるの。……そうだ、輸入品のチョコレート、出そうか? せっかく、『合宿』っていう、またとない機会なんだし」
輸入品のチョコレートって。
ぜったい、高級チョコだ。
「あの……先輩」
「どしたの、ヒナちゃん?」
「この邸(いえ)は……いったい……」
「あ~」
先輩はかわいく微笑みつつ、
「びっくりしちゃったんだー。邸(いえ)のこと、あんまし話してなかったもんね」
「ハイ……びっくりしてます」
「くつろげるようになるには、ちょっと時間、かかっちゃうかな」
先輩の言うとおりで、ソラちゃんにしたって会津くんにしたって、ソファに座りながらも緊張の様子が見受けられる。
「時間が経てば、慣れてくるから」
慣れてくる……かな。
× × ×
信じられないぐらい美人の女子大生が、ニコニコして立っている。
羽田愛さん。
あすか先輩の、同居人。
先輩にとっては、「おねーさん」らしい。
「ヒナちゃんにソラちゃんに会津くんね! ようこそ、お邸(やしき)に。夕ごはん、ごちそう作ってあげるから、楽しみにしててね」
そういえば……『尊敬してるひとナンバーワン』だとも、先輩は言っていたっけ。
なんでもできる、少し年上の、女のひと……。
「会津です。きょうとあしたは、よろしくおねがいします」
――率先してあいさつする、会津くん。
その積極さはなんなの。
「うん、よろしく。会津くん、元気があっていいわねえ」
「ありがとうございます」
「わたしのことは、下の名前で呼んで。『羽田さん』って呼んじゃイヤよ」
彼は気後れせず、
「わかりました。愛さん」
「うんうん、たいへんよろしい」
うれしそうにうなずく、愛さん。
会津くんの積極さも予想外だけど、愛さんがこんなに美人なのは、もっと想定外だった。
『映画やドラマに出てる若手女優より、ぜんぜん美人だと思うよ』と、あすか先輩は言っていた。そのことばどおり……いや、そのことば以上に。
――あ。
あたしの顔、見てる。
愛さんにジッと見られてしまうと、恥ずかしい…。
「日高ヒナちゃん、よね?」
「そ、そうであります。ヒナであります」
「なんでケロロ軍曹的な口調なの」
笑いながらツッコまれてしまった。
ウルトラスーパー美人なんだけど、愛嬌も、あるみたい……。
「よろしくです。ふつつか者ですけど」
…あたしはなにを言ってるんだろう。
「ヒナちゃんって――」
……?
「――かわいいね。すっごく」
……!?
完全うろたえ状態で、もうひとり、リビングにやって来ているのに気づかなかった。
アツマさんだ。
あすか先輩の、お兄さんだ。
あたしたちの高校のOB。たくさんの武勇伝を残したひと。
背が…高い。あたしより、25センチくらい?
いかにも武勇伝を残しそうな、たたずまい。
「こら。出会いがしらに、からかってんじゃない。からかわれるほうも、どうリアクションしていいかわかんねーだろが」
アツマさんは――いきなり愛さんに、お説教。
ちょっぴり不満そうになって、
「……いきなり怒らなくてもいいじゃないの」
と愚痴をこぼすように言う愛さん。
あたしは思った。
直感で思った。
愛さんとアツマさん、このふたり……。
「あのー」
ソラちゃんが挙手して言った。
挙手する必要、あったの。
……あったんだよね。うん。
「スポーツ新聞部が誕生したきっかけって、アツマさんの運動部での大活躍だって、わたしは聞いたんですけど」
「……きみは?」
「わたしは、水谷ソラです」
「……そうだなぁ。そんな話も、あるっちゃあるって、耳にしたことも、無きにしもあらずって感じだ、うむ」
アツマさん……不可解なぐらい、はぐらかしてる。
「でも、おれは、そういうこと、あんまり気にせずに、がんばっていたよ。がんばれることを、がんばっていたんだ。ひたすらにね。そう、ただひたすらに――」
――いつの間にかニヤニヤとした顔になっていた愛さんが、
「な~にテンパってんのよっ♫」
と言い、アツマさんの肩をポンポンと2回叩く。
「あなたの後輩の質問なのよ。もっとちゃんと答えてあげなさいよ」
「……」
「出た、アツマくん必殺のダンマリ攻撃」
「……」
「沈黙~~♫」
アツマ『くん』って呼ぶんだ。
愛さん、アツマさんに、まったく気兼ねがなくって。
ふたりの距離……すっごく、すっごく近いんだ。
思わず、あたしは、訊いてみたくなる。
訊いてみたくなる気持ちを、抑え込むこともなく――口を開く。
「どのくらい、長い『おつきあい』なんですか――おふたりは」