ソラちゃんが野球部の取材に出て行った。
昨日ちょっとだけ、サッカー部練習場の手前で空気が気まずくなっちゃったけど、取材からの帰り道で、徐々に気まずさを薄くしていくことができた。
家に帰ってから、通話して、お互いに改めて謝り合って、ソラちゃんとは元通りになれた。
たしかに、女子の人間関係は複雑だ。
だけど、高3にもなって、仲直りの方法を知らないわけもないんだし。
それになにより、ソラちゃんとはずっと一緒の部活で、親友だから、元通りになれないなんてありえないし。
たしかに、春休みにあすか先輩がソラちゃんにどんな話をしたのかは、気にならないほうが無理。
だけど、そんなのは脇に置いておかなくちゃ。
眼の前のことに集中しまくらなくっちゃ。
勉強もそうだし、部活動も、ね。
「ヒナ部長」
新入部員の貝沢温子(かいざわ あつこ)ちゃん――「オンちゃん」の声。
すかさずあたしは、
「『部長』って呼ばれるより、『さん』か『先輩』で呼ばれるほうがいいかも」
「あ……そうでしたか。以後気をつけます、ヒナ先輩」
「いーのいーの、そんなに気にしないでね~~」
『あいも変わらずチャランポランなんだな、君は』
こういう声が飛んできた。
会津くんだ。
「今のやり取りを見ていたら、貝沢が可哀想になってきた」
「いみわかんない。チャランポランなのは、会津くんのほーなんじゃないのっ!?」
「いいや、日高のほうが確実にいい加減だ。今、エビデンスを5つぐらい列挙したっていいんだぞ?」
「エビデンス!? 横文字コトバでカッコつけ!?!? ふざけてるよねゼッタイ」
「君の口に永遠にチャックは付かないみたいだな」
「それどーゆーイミ?!?! うるさ過ぎるってこと?!?! 黙りやがれって言いたいの?!?!」
「あー、そうだよなあ。たしかに、静かにさせたいよなあ!」
「会津くんが『静かにしろ』って言い続ける限り、あたし、静かにしない!!!」
「はあ!? 絶対にそっちのほうがふざけ過ぎてるんじゃないか、部長の癖して」
「あたし、部長権限で、椛島先生にチクっちゃうんだから!!! 『会津くんの人格に問題があり過ぎるんです』って」
「18歳が間近になっても顧問の先生に頼るのかよっ。しかも、人格が問題あり過ぎるとか、支離滅裂なことをでっち上げて……!!」
……不意に、オンちゃんの笑い声が、耳に届いてきた。
「お、オンちゃん?」
大笑いの最中(さなか)の顔を見る。
背丈も髪の色も髪の長さも顔立ちも、胸の大きさ以外は全部、あすか先輩と似通っているオンちゃん。
そんなフレッシュ部員の彼女が、大笑い中だ。
「す、す、すみません、ヒナ先輩にも会津先輩にも、すみませんすみません、で、で、でもでもっ、わわわわたしっ、おふたりの『かけあい』が、おもしろくておもしろすぎて、まるで、そう、そうそう、マンザイみたいで、もうわたし、つつつツボにはまっちゃって――」
オンちゃん……。
声すらも、あすか先輩に、似通ってる……??