「なつき先輩、なつき先輩」
「なあに? オンちゃん」
「なつき先輩って身長高いですよね。何センチなんですか?」
自分の身長を開示してくれるなつき先輩。
わあ、すごい。
そんなに高いんだ。
「うらやましいです~、170超えてるなんて」
「そう?」
そうですよ。
「わたしのほうは平凡過ぎる背丈で。155しか無くて」
「そんなに気にするところかなあ?」
気にしますよ。
「気にしますよ。あまりにも一般的女子で」
言うと、なつき先輩は苦笑いで、
「身長高くて良いこともあるけど、都合悪いこともあるよ」
どんな?
「どんな?」
訊くと、なぜだか彼女は、遠くを見るような眼になって、
「――ヒミツかな」
「そっ、そんな」
「オンちゃん。わたしってね」
「……ハイ」
「こんなに身長は高いけど、案外デリケートなの」
デリケート?!
「そ、それ、どういう意味で」
……先輩は、ただ微笑むばかり。
× × ×
「あっ、オンちゃんだ」
部長のヒナ先輩が声を掛けてきた。
「本名の温子(あつこ)の『温』という文字がニックネームの由来の、オンちゃんだ」
「もーっ、なんでこのタイミングでいちいち説明したりするんですかー、ヒナ先輩」
「初めて読む人もいるから」
「……はい?! 初めて読む人、って。読むって、なにを」
「教えてあげないピョン」
「ぴょ、ピョン?!?!」
「ところで」
「ひ、ヒナ先輩……??」
「オンちゃんって、フレンドリーなんだね」
「あ……。入部して間もないのに、馴れ馴れし過ぎましたか……?」
「そういうことは言ってないピョン」
「……」
「フレンドリーなのを、長所として活かしていって欲しいピョン」
「先輩。語尾……」
「うさぎ年だから、こんな語尾になるんだピョン」
……。
戸惑いまくったまま、わたしは、
「あのっ、たしかヒナ先輩、今日、テレビ欄の作成方法を教えてくれるって」
「また今度だピョン☆」
……。
× × ×
「ピョンピョンうるさいぞ、日高」
そう迫ってきたのは、会津先輩だった。
「本当にピョンピョン飛び跳ねる勢いだな」
ヒナ先輩は猛烈にむぅ~~~っ、となって、
「ユーモア欠乏症で良かったよね!! 会津くんは」
「ハァ!?」
「なに!? 逆ギレするんだったら、校庭でやってよ」
会津先輩の右拳(みぎこぶし)がワナワナと震えるのが見える……。
「教えてやれば良いじゃないかっ。貝沢(かいざわ)に、テレビ欄作成方法を……!」
おさえておさえて、2人とも。
つい先日もケンカしてましたよね?? お2人。
そんなにケンカが好きなんですか?!
「会津くん」
不穏な顔つきでヒナ先輩が、
「テレ東の深夜番組、何個言える!?」
え!?
「毎度のことながら、意味分からんことを」
「なんで『意味分からん』なの!? あたしは会津くんにテレ東の深夜番組の名前を言って欲しいだけ」
「意図が無かろうが、そもそも」
「答えられないんだね」
「それ以前に、意図だっ!!」
× × ×
「まあまあ、2人ともー。部活を先に進めていこーよ」
もう1人の3年生・ソラ先輩が、仲裁する。
「ヒナちゃんは、会津くんに無理強(むりじ)いし過ぎ。
会津くんは、ヒナちゃんに突っかかり過ぎ」
やんわりとお叱りのコトバ。
ヒナ先輩も会津先輩も、下を向いてしまう。
ソラ先輩は、微笑(わら)って、
「でも、わたしは、どちらかといえば、ヒナちゃんの肩を持つかな」
「なんだと!? 水谷……」
今度は会津先輩が、ソラ先輩にキレちゃいそう。
だけどソラ先輩は、会津先輩に向かって右手を伸ばして、『わかったわかった』というふうな意思表示をしてから、
「会津くんが書いた、『ニッポン競泳25年史 1998-2023』っていう記事があったけど」
と言って、それから、
「誤字」
とだけ言って、それからそれから、
「誤字が、あの記事内に、何個見つかったと思う?」
と。
若干狼狽(うろた)えて、会津先輩は、
「文字の誤りだとか、そういうことと……日高の肩を持つことに……どんな関連性が」
と言うけど、ソラ先輩は、
「自分で考えるんだピョン」