【愛の◯◯】あたしが部長になっても、あたしはあたし、会津くんは会津くん

 

放課後。

スポーツ新聞部の活動教室。

『さぁ、今日も頑張るぞ~~』と、パソコンを起動させ、テレビ番組表を作成しようとしていたら、

「日高」

会津くんが、あたしの名前を呼び、近づいてきた。

それから彼は、

「今日から君が部長だろう? みんなに指示を出してくれないか」

と要請。

あ~~っ。

そうだったそうだった!

あたし、この部活の部長に任命されたんだった!!

「ごめんごめん会津くん。すっかり忘れてたよ、新体制になったっていうこと」

「わ、忘れるなっ、もう少しシッカリしてくれないと困る。君は部長になったんだぞ、部長に」

「ハイハイ」

会津くんを余所(よそ)に、白板(はくばん)に視線を向かわせながら、

「スケジュールだよね、スケジュール。……そうだな、バスケ部取材しよっか」

横から会津くんが、

「それは、どんなメンバーで」

「考え中」

「オイッ」

「あと、バスケ部行く前に」

「い、行く前に??」

「BGM流そう。やる気出るBGM」

唐突になにを言い出しやがるんだ……という気配が濃厚に感じ取れる彼の口から、

「ど……どんなBGMを」

という問いが出る。

あたしは答える。

『ロマンシング サ・ガっていうゲームの曲」

「な、な、なんだそのゲームはっ」

テンパる彼に、

会津くんが知らないのも無理ないよ。1990年代のロールプレイングゲームなんだもの」

「……スーパーファミコンか??」

「ビンゴぉ」

「日高……レトロゲーマーなのか!? 君は」

あたしは笑って答えない。

 

× × ×

 

『ロマンシング サ・ガ』のBGMを流したまま、会津くんを部屋に置き去りにして、あたし・ソラちゃん・なつきちゃんの女子部員トリオで第1体育館に向かう。

「ソラちゃん、そのキーホルダー、かわいいね」

「ほんと? ありがとー、ヒナちゃん」

「わたしも、ソラさんのキーホルダー、かわいいと思います」

「なつきちゃんにもホメられちゃった」

うさぎのキーホルダーだった。

うさぎ年だもんね。

あたしは、

会津くんも、うさぎみたいに、可愛げがあったらいいのにね

と、愉(たの)しく不満を吐き出す。

ソラちゃんも愉しそうに同調して、

「ほんとだよー。ファンシーさゼロなんだから、彼。ゼロどころか、マイナス」

なつきちゃんは苦笑いで、

「どこまで辛口なんですか」

あたしは、

「だってさー。加賀先輩が実質引退なんだよ? 一刻も早く、彼には加賀先輩が抜けた穴を埋めてほしいのに。なのに、あいも変わらず、無神経なこと言いまくるんだもん」

とdisっていく。

ソラちゃんも、

「口だけは達者、って感じだよね。なんにもしてくれなかったら、困っちゃうよ。お灸(きゅう)をすえてやりたいというか、なんというか」

とdis。

なつきちゃんは依然として苦笑いで、

「もうちょっと、頼ったって」

と言うけど、

「全幅(ぜんぷく)の信頼を置けるわけもないよ」

とダメ押しのコトバを言って、それから、ソラちゃんとニッコリ笑い合うわたしだった。

 

× × ×

 

その日の夕食後。

あたしの隣に座って食べていた兄が、向かい側に移動して、麦茶の入ったコップ片手に、

「ヒナ子。おまえ、スポーツ新聞部の部長になったんだよな?」

と言ってきた。

なったから、なんなの。

あと「ヒナ子」って呼ぶ悪癖(あくへき)を早く直して。

「お兄ちゃん、いったいなにが訊きたいの」

「ヒナ子の部活の同級生は……女子1名、男子1名」

「だからなに」

「男子が、1名」

盛大にニヤける兄。

ダイニングテーブルの周りに不穏な空気が充満していく。

そして兄は、

「どうだ? 会津くんは、カッコいいか??

 

× × ×

 

麦茶をぶっかけられて、兄は、髪を洗う羽目になった。

仕方がない。

当然の成り行き。

 

――さて。

あたしはあたしの部屋に引っ込んで、勉強机の前に座り、校内スポーツ新聞バックナンバーを読み返し始めている。

会津くんが読書感想文を書いている。

もちろん、校内『スポーツ』新聞なので、スポーツ関連本の感想文。

上原浩治の『不変』という本。

なぜ、上原浩治……? という疑問はおいといて、会津くんの感想文に誤字がいくつ存在するか、しらみつぶしに確かめていく。

だがしかし。

3回繰り返し読んでも、誤字が見つけられない。

くやしい。

くやしいったらありゃしない。

会津くんの誤字を見つけることも、スポーツ新聞部部長としての、大事な大事な務めなのに……。