【愛の◯◯】ソラちゃんの問題、夏祭りの問題

 

冷蔵庫からミルクコーヒーのペットボトルを取り出し、あたし専用グラスにどばぁ、と注(そそ)ぐ。

それを見ていた兄が、

「わざわざグラスで飲むんか、ヒナ子は。『がぶ飲み』ってペットボトルに書いてあるのに」

あたしは即座に反発して、

「どうでもいいようなことをほじくらないで。それと、『ヒナ子』呼びはいい加減やめて。ちゃんと『ヒナ』って呼んで」

「ええ~~」

「ミルクコーヒーを頭上からぶっかけられてもいいわけ!?」

「おいおい下品だぞ、ヒナ子」

「……いいんだね

 

× × ×

 

ストレス。

なんでこんな兄を持ってしまったのか。

ストレス。

 

夕ご飯まで兄と顔を合わせたくなかった。

だから、自室の勉強机にずーっと向かうことにした。

ただし、勉強机に向かうといっても、夏休みの宿題や受験勉強に取り掛かるというわけでもなく。

あたしがやりたいこと、そしてやるべきことは……『考えること』だ。

なにを?

諸々(もろもろ)を。

考える対象は、いっぱいあって。しかも、次から次へと脳に浮かんできていて。

 

× × ×

 

ぞわぞわと脳内に湧き出てくる雑多なものごとから、今は2つをピックアップしてみる。

その1。ソラちゃんのこと。

その2。今月下旬の「とあるイベント」のこと。

 

× × ×

 

振り返ってみれば、ここ1年間ぐらい、ソラちゃんとギクシャクしちゃったことが結構あったような気がする。

疑いようもなく親友なのにね。

だれのせいで? とか、なんのせいで? とか、あんまり思いたくない。だれかになにかに原因を擦(なす)り付けたくはない。

だけど……。

 

ソラちゃんとギクシャクしちゃうとき、高い確率で、会津くんが介在していたような気がして。

 

彼が介在して……っていうのは、つまり、ソラちゃんとギクシャクする「現場」に彼が居合わせていたことが、結構どころではない確率であったんじゃないか……って。

 

なんでなのかな。

 

彼が、会津くんが、同学年の部活仲間だから――という理由じゃ済まされないようなものが、存在しているような気がする。

いや、気がしてならない……。

 

ソラちゃんは、『夏休みが終わると同時に部を引退する』という意向を曲げていない。

あたしは、『会津くんが、意向を曲げないソラちゃんに向かって、どう対処していくんだろう……』ということが、気になる。

いや、気になるどころじゃない、気になって仕方がない……。

 

× × ×

 

8月下旬の「とあるイベント」とは、夏祭りのことだ。

 

戸部あすか先輩の実家の近くで行われる夏祭りに、あたし・ソラちゃん・会津くんの同学年トリオは、2年連続で行っていた。

あたしは今年も行くつもりだ。

会津くんも行くことに前向きだろう。

問題は……やっぱし、ソラちゃん。

行きにくいかな……? 彼女。

先述(?)の通り、部活引退時期というデリケートな問題が彼女には絡みついている。

絡みつく問題のせいで、あたしたち同学年トリオの空気が晴れ晴れとしていないっていうことは、否定できない。

そんな空気の中でソラちゃんが不参加となれば、過去2年みたいに、3人(トリオ)でお祭りを回って、あたしとソラちゃんがタッグを組んで、会津くんをあっちこっちに振り回したりとか……そういうことが、不可能になっちゃう。

ソラちゃんが居ないと、お祭りに、あたしと会津くんの、2人だけ。

 

そんなの、重いよ。

空気が、重々しいよ。

 

だけど、ソラちゃんの思いは、ちゃんと汲んであげなきゃいけなくって。あたし、彼女が「参加しない」って伝えてきても、受け止めて、受け容れる。

 

……。

こんなとき、あすか先輩が、居てくれれば……。

 

あすか先輩……か。

だれよりも頼れる部活OGの、あすか先輩。

なんだけど。

 

あすか先輩「すら」も。

なんだか、彼女「までも」が……重苦しいオーラを発しているような気がしてしまって。

というのは……先日、1対1でビデオ通話したとき……彼女の表情が、なんだか冴えなかったから。