【愛の◯◯】土曜のお祭りの夜はまだまだこれから

 

諸事情により、アツマ・愛ちゃん・あすかちゃんが夏祭りを欠席。

これにより、ぼくが夏祭りの引率を担当することになった。

 

お祭りはこれから始まる。

いつものごとく、大所帯。

 

ぼくの眼の前には、あすかちゃんの後輩の子が3人。彼女が高校時代所属していたスポーツ新聞部の部員だという。

 

「流(ながる)さん、流さん」

小柄な女の子がぼくに話しかけてきた。

「ええっと、きみは――日高ヒナさん、だよね」

「ハイそうです」

なぜか日高ヒナさんは――ぼくをジイイッ、と見てきたかと思うと、

「…ちゃん付けでいいんですよ?」

え??

「え??」

「さん付けだと、堅苦しいんで。あたしのことは、『ヒナちゃん』でいいです」

……そうか。

「……わかったよ。

 んっと……ヒナちゃん。ぼくに訊きたいことでも?」

「ハイ!」

ヒナちゃんは元気に、

「流さんは、あすか先輩と、長年いっしょに住んでおられるんですよね?」

と言ってくる。

「うん。あすかちゃんとも、相当長いね」

「…だったら!」

「だったら…?」

「あすか先輩の◯◯なこととか、ご存知なんでは…」

 

ぐ……。

 

「そ、そんなに知らないかな、あすかちゃんの◯◯的なものは。本人のプライベートな領域には、あんまり……」

ホントーですかぁ!?

 

ぐぐ……!

 

……ここで、もうひとりのあすかちゃんの後輩女子たる水谷ソラさんが、割って入ってきて、

「わたしも知りたいです~、あすか先輩の◯◯な◯◯」

と、はしゃぐように言ってくるのである。

「……過度な期待は裏切られるよ、ソラさん」

「ソラ『ちゃん』でいいですよぉ、流さぁん」

ううっ。

「わかった、ソラちゃん……。

 でもほんとうに、あすかちゃんの◯◯な情報なんて、あんまり持ち合わせていないんだ。……それに、あすかちゃん本人の名誉……とかの問題も、ね」

しかし……ソラちゃんは、なおも食い下がり、

もしや、流さん、あすか先輩の弱みをなにか、握ってたり!?

と興奮気味に言うのである。

 

「――馬鹿か、ふたりとも」

ヒナちゃん・ソラちゃんコンビの背後からたしなめたのは、あすかちゃんの後輩男子たる会津くんであった。

「日高も水谷も、祭りが始まる前から、そんなにはしゃいで……。迫られまくって、流さんも迷惑がってると思うぞ。わからないのか??」

 

たしなめモードの会津くんを、ヒナちゃん・ソラちゃんコンビは同時に睨みつけていく……。

 

弱ったなあ。

 

会津くん。迷惑だとは思ってないよ、ぼくは」

とりあえず言ってみるも、

「申し訳ありません。ボクの監督不行き届きで」

と謝罪されてしまう。

「高校生の殻をかぶった中学生ですから。この女子ふたりは」

あ…会津くんっ、そんなこと言っちゃっていいのかな。

ヒナちゃんとソラちゃんの殺気が……まともにきみのほうに来てるよ!?