【愛の◯◯】土曜の夜のボクの◯◯と戸部先輩の◯◯

 

文章を書くのをいったん止(や)めて、ビデオ通話ソフトを開く。

 

× × ×

 

PC画面に戸部あすか先輩が映っている。

 

「ヤッホー会津くん」

「元気そうですね、戸部先輩」

「うん……元気。」

 

意味深なくらいの笑みで言うから驚いた。

戸部先輩はいかにも愉(たの)しそうだ。

夏祭りへの参加をキャンセルしたことと……なにか関連が?

 

い、いや、ダメだ。

詮索しちゃいけない。

立場をわきまえろ、ボク。

彼女には彼女の事情があるんだっ。

 

「――会津くんどうしたの?? うろたえてるみたいになって。わたし、なにか言ってほしいんだけどな」

 

すみません…。

 

「すみません先輩。なんでも言います、ボク」

「おっ頼もしい。

 じゃあ……。

 キミには、夏祭りのレポーターになってほしいかな♫」

 

「…レポーター、ですか」

 

「そうだよん。

 ヒナちゃんやソラちゃんと一緒だったんでしょ?」

「はい…一緒でした。

 なにゆえか……日高も水谷も、ボクにつきまとってくるように、行動していて……」

まんざらでもなかったんでしょ

そっそっそれはどういう

 

満面の笑顔で先輩は、

「ヒナちゃんとソラちゃんの様子、伝えてよ♫」

とお願いしてくる。

なんだか…ボク、迫られてるみたいだ。

 

だけどもボクは、先輩の願いに従って、

「では、まず……日高の様子から」

「うんうん☆」

「あいつは……今回、大食いでした」

「大食い?」

「やたらめったら、屋台の売りものを食べ漁って」

「たとえば?」

「ええと……。かき氷だったり、焼きそばだったり、イカ焼きだったり」

「ふむ。

 ヒナちゃんは、どんなフレーバーのかき氷を頼んでた?」

「……メロンだったと思います」

わ~~!! 意外

「……意外なんですか?」

会津くんは男の子だから、ちょっとこの感覚、分かんないかなぁ」

「感覚…とは」

「わたしも女子だからこそ、ヒナちゃんのかき氷の好みが『意外だ』って思えるんだ」

「……」

「反応、困った?」

首を縦に振るしかない。

ごめ~~ん

 

「…あの、先輩、これは日高の悪口になるんですけど、」

「なあに」

「日高のヤツ、途中から、『財布の中身がスッカラカンになった』とか言い出して」

「それは、もしかして」

「…はい。焼きそばとイカ焼きの代金を払わされました」

「災難だったねえ」

「ボク怒ったんですけど、あいつは無理矢理に…」

「でも、偉いよ会津くん」

「痛すぎる出費でしたが…」

「優しいんだね。最終的には、奢(おご)ってあげたんだから」

「もっと厳しく行きたいんですけどね……ボクとしては」

「あはは」

先輩は軽く笑って、

「ヒナちゃんに厳しくするのはいいけど、ほどほどにね。具体的には――泣かせない程度に」

「――泣かせたりしたら、水谷のほうが黙っちゃいないと思うんで」

「だね。ヒナちゃん泣かせたりしたら、今度はキミがソラちゃんに泣かされる羽目になるかも、だし」

「水谷も水谷で、凶暴ですからね……」

「――ソラちゃんは夏祭りでどーだったの??」

「と、唐突ですね先輩」

「や、ソラちゃんの話になる流れだったしさ」

「水谷のお祭りでの様子…ですか?」

「教えてよん」

「……。

 戸部先輩は、『シュークリム2世』というキャラクターをご存知でしょうか」

「あっ知ってる知ってる!! シュークリームの形した王子様でしょ!? 最近人気急上昇中のゆるキャラだ」

 

……さすが。

 

「屋台に……その『シュークリム2世』のキャラグッズが売っていて。

 水谷は、それを目ざとく発見して。で……『会津くん、あれ買ってくれない?』とか、いきなり言い出しやがって」

「ソラちゃんも金欠だったの?」

「……あいつ、浴衣のくせに、帽子をかぶってきてたんです。野球帽みたいな。

 あいつの言いぶんでは、『このキャップに大枚はたいちゃったから、手持ちがあんまりないの』……と」

「大枚はたいてまで身につけたいキャップだったんだねえ」

「それでボクの自腹でゆるキャラグッズを買ってくれって言ってきたんです。過去最大級のワガママでしたよ。目に余る」

「だけど――けっきょく、出してあげたんでしょ?」

「いったんは、渋ったんですけど……」

「やっぱり優しいね」

「……。

『絶対返せよ』とは、念押ししました」

 

戸部先輩は明るく笑う。

 

「それは、お返しを楽しみにしなくちゃだね」

「ロクなお返しは望み薄かと」

「そうでもないかもよ??」

ゆるキャラグッズに釣り合うお返しが……想像できなくて」

「そのグッズ、いくらだったの??」

 

ボクは金額を伝えた。

 

「――会津くん。もしかしたら、買ってあげたグッズのお値段以上のリターンが、キミに来るかもよ」

 

「……?」

 

「ソラちゃんって、律儀だと思うし」

 

「……女子ならではの直感、ですか」

 

「女子同士のね」

 

× × ×

 

やっぱり、ボクたちがお祭りに行っているとき先輩がどこでなにをしていたのか、気にならずにはいられなかった。

 

なので、

「戸部先輩は……土曜の夜は……どうだったんですか?」

と訊いてみた。

 

訊いたとたん、

なぜか先輩が画面上から消えた。

 

こ、これは……地雷踏み、というやつか!?!?

 

 

とにかく、待つ。

 

 

……約3分後。

 

ぬいぐるみを抱いて、画面に彼女が戻ってきた……!

 

「サンリオのキャラクター……ですっけ、それ」

「だよ。ポチャッコ」

「初耳です」

「うそーっ」

「……」

 

ポチャッコなるキャラクターのぬいぐるみの耳をつまみながら、

会津くん、さっき、なに言おうとしてたっけ」

と、さりげなく彼女は訊く。

 

しかしボクは、返答に窮してしまう……。

 

 

「あれっ」

「……」

会津くん、戸惑ってる??」

「……」