【愛の◯◯】未だ熟さぬ顧問のわたしに……

 

先日、コンテストがあって、わたしが顧問を務める泉学園放送部も参加した。

残念ながら、朗読・アナウンスの個人戦でも、番組制作の団体戦でも、わが部は次のステージに進むことはできなかった。

『東京都は、やっぱり激戦区なんだってことだな』

コンテストが終わったあとに、部長である仰木(おおぎ)ひたきさんが、部の仲間に向かってそう言っていた。

わたしも仰木さんと同じ感想を持っていた。

都大会の競争が激しいのは、当たり前といったら当たり前。

だけど、特に仰木さんの朗読なんか、「いい線」を行っていたとわたしは思ったんだけど――そんな彼女も、弾かれてしまった。日本一の激戦区だってことの証だろう。

 

× × ×

 

さて、今日は、夏休みの放送部室で、コンテストの反省会&打ち上げを開催している。

顧問のわたしを交えて、主要メンバーでワイワイガヤガヤとやっていた。

ただ、小麦さん・福良さん・尾石さんの「2年生トリオ」は、各々夕方から用事が入っているらしく、午後2時を過ぎた頃には帰っていってしまっていた。

 

というわけで、

・仰木部長

・貴重な1年生の鈴木卯月(すずき うづき)さん

・顧問のわたし

の3名だけが、お部屋に残った形に。

 

「なんか、ガランとしちゃった感じがあるね」

わたしは残った2人の女子生徒に言う。

「2年生トリオは、なんの用事で帰ったのかな。仰木さんなら知ってたりするんじゃない?」

と訊くが、

「小泉先生、あまり詮索するものでも。ああ見えて、あの3人にもプライベートってやつがあるんですからぁ」

と、仰木さんに切り返されてしまう……。

「そ、それも、そーだよね。仰木さんは、オトナだね。新任教師のわたしなんかより、よっぽど人間ができてる……」

しょぼしょぼと俯くダメ顧問なわたし。

「卑下しないでくださいよ」

とオトナな仰木さん。

「顔、上げてください」

とも。

「……うん。」と、言われた通りにする、不甲斐ない顧問のわたし。

すると、仰木さんが、

「小泉先生には、感謝してるんですから」

えっ??

「反省会兼打ち上げのお菓子、自腹でたくさん買ってくれたじゃないですか」

あー……そのことか。

ここで、仰木さんの逆サイドの椅子に座っていた鈴木卯月さんが、

「チョコもクッキーもグミも美味しかったです。ありがとうございます」

と。

「そんなに美味しかった? 卯月さん」とわたしは。

「はい。とても」と卯月さんは。

 

× × ×

 

うーーーむ。

お菓子を提供するだけの「貢献」に留まるのは、よろしくないよねえ。

顧問なんだから。

部活動の内容に関わる面で、役に立ちたいよ。

実は、顧問として、ちょっと後悔してる。

というのは、コンテストに提出した番組を制作してるときに、もっとアドバイスできたんじゃないかなー、っていう。

もちろんわたしは社会科教師なんだから、部活の顧問だけをやっていればいいというわけではなくって。クラス担任はしていないけど、授業という仕事もある。授業の準備とかも忙しくて、しかも新任教師ゆえそういった忙しさに慣れていなくて、1学期は1週間ぐらい部活に顔を出せないときもあった。

これからは、教科を教えることと部活を指導することとを、もっと上手に両立していかなくっちゃ。上手に両立するための方法(メソッド)を、模索していかなくっちゃ……というふうなことを、仰木さん&卯月さんコンビの雑談を眺めながら、思っていた。

7割がた考え込みモードだったわたし。

しかし、そんな未熟な顧問のわたしを、いつの間にか雑談を中断していた仰木さん&卯月さんコンビが、じっくりじっとりと見つめてきていることに、気がついた。

「――どうしたの?? 2人とも」

とりあえず尋ねる。

尋ねるのだが。

ポーカーフェイスな仰木さんの顔に、含みアリアリな笑みが徐々に浮かんできているのを……察知してしまう。

……徐々に動揺のわたしに向かって、

「先生、先生。

 せっかく、このメンバーで居残ってることですし。

 とっておきの話が、したくありません??

 先生にもノッてきて欲しいな~~、って。

 きっと、卯月だって、先生がノッてきてくれるのを所望してますよ!!

 とっておきの話、というのはですね――」