泉学園も夏休みになった。
だがしかし、今日はわたしが顧問をしている放送部の活動日。
というわけで、夏休み早々「休日出勤」である。
× × ×
活動日といっても、コンテストに向けての番組制作は既に完了していて、送付も完了しているので、事実上の「お疲れ様会」だ。
「お疲れ様会」なのなら、放送部だよ全員集合! と行きたいところではあるけど、
・部長の仰木(おおぎ)さんは夏期講習
・貴重な1年生の卯月(うづき)さんは御家族とハイキング
というわけで、
・中嶋小麦(なかじま こむぎ)さん
・福良万都(ふくら まつ)さん
・尾石素子(おいし もとこ)さん
の2年生トリオだけが、部室で「お疲れ様会」を繰り広げているという状況なのです。
「――揃わないな、ドリフターズ」
あっ。
やば。
ココロの呟きが、口から漏れ出しちゃった。
「ドリフターズ!? ドリフターズってなんですかぁ!? こいずみせんせー」
すかさず小麦さんが食いついてくる……。
「もしかして、マンガの名前??」
とも、小麦さんは。
あーっ。
そっかー。
平野耕太の漫画作品が先に出てくる……というよりも、そもそもこの娘(こ)たちは『ザ・ドリフターズ』というグループの存在を知らないのかもしれない。
まあわたしだって新任教師で、2000年度産まれで、この娘たちと世代はさほど変わらず、ドリフのオリジナルメンバーをすらすらと言えるってのも、少しおかしな設定なんだよね。
過去の芸能文化にオタク過ぎるのかなー、やっぱ。
「ごめんごめん小麦さん。なんでもないよ。反省会を続けて」
「むむ。あやしい」
あやしい!?
なに言うの、小麦さん。
じーっと小麦さんがわたしを見てる。
冷や汗。
「コラッ、小麦!」
一喝したのは、尾石素子さんである。
半ば小麦さんの「叱り役」な尾石さんは、
「先生に向かって馴れ馴れし過ぎる態度取るのは、やめなさいよっ!」
と「喝」を続けるが、
「いくら小泉先生が、昭和の文化にコワいほど詳しいからって」
と……付け加えてしまう。
『コワいほど詳しい』か。
そーだよねえ。
コワいほど詳しいのも、考えものだよねえ。
だけど、わたし、尾石さんの「付け加え」が痛烈で、ショックなのも否定できず、肩、落としちゃった。
しょぼくれていると、わたしの左隣の椅子に座る福良万都さんが、
「素子ー、余計なひとことが、あったわよー」
と、尾石さんに向かって。
「あなた、小泉先生が昭和の文化に『コワいほど』詳しいって言っちゃったでしょ? そういう表現はどうかと思うわー」
あくまで穏やかにやんわりとした口調。だが、たしなめている。
「ショック受けてるわ、小泉先生。わたし先生の間近に座ってるから、いかに大ショックなのか、感じ取れるの」
福良さんが、尾石さんを見る。
『先生が崩れ落ちる前に謝ったほうがいいわよ?』というメッセージが籠もっている、眼つき……。
尾石さんは、一気に申し訳無さそうな顔つきになり、
「すみません……つい、勢い余って。小麦とおんなじですね。あたしも、先生に対して、失礼だった」
いい娘なんだな……尾石さん。
尾石さんの「いい娘」が、肌に染みてくる。
「――尾石さん」
「え??」
「尾石さんなら、ザ・ドリフターズがビートルズ日本公演の前座を務めたこと、知ってそうだよね」
「こ、こ、小泉先生ッ!?!?」