【愛の◯◯】渦中の顧問がわたしたちを◯◯

 

オンちゃんが所用で部活を欠席。

さみしい。今日活動している女子部員はわたし1人。

部活はまだ始まったばかり。活動教室で校内スポーツ新聞の編集作業をしているのは部長のわたし含め3人。わたしを除いた2人はノジマくん&タダカワくんの1年生男子コンビだ。

黙々と編集作業をしている男子コンビに近寄っていく。

「2人とも頑張ってるね」

とりあえず声掛け。

それから、

「わたしモチベーションがイマイチ上がんないの。オンちゃんがお休みだし」

と言う。

「部長さんは3年生ですから、受験勉強とかも忙しいでしょうし、そういう忙しさでモチベーションが削がれちゃったりもするんですよね」

そう言ったのはノジマくんの方だった。

受験勉強よりも『オンちゃんロス』の方がモチベーション下がってる主要因なんだけどな。

いかにオンちゃんの存在が大事なのかというコトをこの場で男子コンビに説明しようかとも思った。

でも、タダカワくんが椅子から立ち上がって、

「本宮(もとみや)部長。本日のスケジュールをあらためて教えてくれませんか? おれがスケジュールを白板(はくばん)に書くんで」

タダカワくんはもう白板に突き進んでいた。

背が高い。175センチは軽く超えているだろう。わたしも女子としては高身長で170センチ以上ある。でも、タダカワくんの高さには負けている。

わたしは本日のスケジュールを伝えた。タダカワくんが白板にマーカーでそれを書き入れた。

彼が、元いた席に戻って来る。

立ったままのわたしは、彼が着席するのを見計らい、

「ねえ、作業の手はいったん止めて、わたしの話を聴いてよ」

「部長さんの話?」

怪訝そうに言ったのはノジマくんの方だ。

「ウチの顧問の椛島先生にまつわる話なんだけどさ」

そう言うと、

「あっ。もしや、『二宮先生とのウワサ』ですか?」

とタダカワくんの方が食い付いてきた。

「拡散してるんだなー」

そう言ってわたしは少し苦笑い。

「わたしのクラスメイトの女子が言ってたよ。『もうデキてるんだと思う、あの2人は』って」

「職場恋愛というヤツですか」

なぜか真剣な顔つきになってノジマくんが言った。

「新1年生クンには刺激が強過ぎる話題じゃない?」とわたし。

「そんなコトは無いですよ。同僚の先生同士が『そうなる』のって付き物じゃないですか?」とノジマくん。

「おれたちは気を付けなきゃいけないですよね。椛島先生は顧問ですから顔を合わせる機会も多いですし。そういった話題を無闇に振ってはいけない」とタダカワくん。

「ま、椛島先生不在の時しかこんな話題は出せないよね。タダカワくんの言う通りだ。今日は先生、『5時に活動教室行く』って言ってた。5時になって先生が来たら、このコトは胸の奥にしまっておいて出さないようにしよーね」

わたしはホントは、ゴシップとかスキャンダルとか好きなんだけどな。

若い女性国語教師の椛島先生が、なかなか結婚できない30代半ばに差しかかった男性英語教師の二宮先生と……。

 

× × ×

 

5時になる数分前に扉がガラッと開いた。

椛島先生の入室である。

わたしたちは『あのコト』を胸の奥にしまい込み、先生を出迎える。

先生は椅子を、ノジマくん・タダカワくんコンビの席の間近まで運び、その椅子に座り、

「『5時までに仕事終わらせなきゃ!』って猛スピードで作業してたから、少しくたびれちゃった」

「ご苦労様です、先生」

今日はずっと立ち続けているわたし。左斜め前の椅子に腰掛けている先生に顔を向けていたわる。

先生が眼を細くしてジトッとわたしを見てくる。

それから、男子コンビの方に視線の向きを変え、やはりジットリと2人を眺めていく。

何か言いたそうな素振り。

何を伝えたいんだろう?

「ねーねー。3人とも」

楽しげな顔と声で先生は、

「おなか、すいてない?」

「エッ。それはどういう意味ですか、先生」

意外なコトバに驚いてわたしは訊く。

「学校の近所にあるでしょ? 資本主義の象徴みたいな赤と黄色の某・ファーストフードチェーンのお店が」

まさか、先生は。

「連れてってあげる。最近は顧問としてサービス足りてなかったし」

そんな。

「えーっと……。椛島先生、それは、『アリ』なんでしょうか」

「わたしの奢(おご)りで生徒を資本主義の権化(ごんげ)のハンバーガーショップに連れてくのが?」

「は……はい」

戸惑いを隠せていないわたし。

その一方で、後輩男子2人は乗り気らしく、

「奢ってくださるんですか!? うわーっ。助かります助かります」

ノジマくんが笑顔で言い、

「先生は、高校生の胃袋のコトを良くご存知なんですね。男子だったら誰でもこの時間帯には腹が減るんですよ」

とタダカワくんもやはり笑顔で言う。

「決まりね☆」

わたしたちの顧問は軽やかにスマイル。

でも、わたしは部長としての責任感でもって、

「あのっ、これからボクシング部を取材する予定だったんですけど」

「大丈夫よ大丈夫よ。ボクシング部にはわたしの方から後でお断りしといてあげる」

「お、お断りしちゃったら困っちゃうんですけど!! 取材をしなきゃ、紙面が埋まらなくなっちゃいます!!」

「たしかにね。だけど、あなたたちだったら何とかできるんじゃない?」

「何とかできるって、どうやって……」

うろたえるわたしに、

「ボクシング部の記事の埋め合わせはぼくとタダカワでやりますよ。代わりの原稿を2人分載っければ余裕でしょ」

「そうですよ部長、ノジマの言う通りですよ。ここは椛島先生に素直に従って、マックなドナルドに向かうべきですよ」

キミたち……もしかして……フマジメ??

「本宮さん本宮さん」

「なんですか先生。わたし、『本当にマクドなナルドに行っちゃっても良いのか?』って迷ってるんですけど……」

「スマイルって、今もまだ0円なのかなぁ?」

「手垢の付いたネタで誤魔化さないでください!!」

「怒られちゃったか〜」