むにゃり、と起きた。
川又さんはもう起き上がっている。
一緒にベッドで寝てくれていたのだ。
寝起きのフワフワな気分でわたしは、
「……おそよう、川又さん」
「おそようございます、羽田センパイ」
「あはは……。」
「ぐっすり眠れました?」
「……うん。眠れた」
「センパイ。夢、見てたでしょ」
「え、どーしてわかるの」
「だって」
不穏な笑みを浮かべながら、
「聞こえてましたよー。『アツマくん』って寝言が、何回も」
そんな。
一気に恥ずかしくなって、掛け布団を抱きしめる。
「いったい夢の中で、アツマさんと、なにを――」
「そ、それ以上はやめてっ、川又さん」
くすり、と笑って、わたしの後輩は、
「じゃ、やめておきますか♫」
動揺と混乱を懸命に抑えつつ、掛け布団を腕から離して、
「……悪かったわ。寝相が悪くって」
「謝る必要なんて」
「無い?」
「無いです」
そう……。
嬉しいわ。
胸をなで下ろして、まっすぐに可愛い後輩を見る。
それから、
「ほのかちゃん」
敢えて、下の名前を呼び、
「わたし、ほのかちゃんが、ホントに可愛いわ」
と言い、それからそれから、
「尊敬するぐらい、あなたっていう後輩が、可愛いの……」
と言いながら……幾分小柄な彼女のカラダに、抱きついていく。
やわらかな感触。
「もー。どーしたんですか、センパイってば」
「朝の乱調……ってことに、しておいて」
やわらかな感触に甘えてしまう。
甘えんぼになりつつも、
「スケベなオンナで、ごめんね」
と弁解。
「別にスケベだっていいですけど」
たぶん苦笑いしながら言っている後輩。
わたしは、
「引っつきたい気持ちが、抑えられないの」
「どーしてですかー?」
「わかんない。たぶん寝起きだから」
「『寝起きだから』って理屈、便利でいいですね」
「――呆れちゃってる?」
「いいえ」
わたしの背中に右手を置いて、
「それでこそ、センパイだから」
と言って、スリスリとしてくれる。
こそばゆい感覚。
だけど、後輩の優しさが、存分に伝わってきたから、
「ありがとね……ほのかちゃん」
と、言ってあげるのだ。
× × ×
わたしの右側のソファに川又さん。
そして左側のソファにはアツマくん。
川又さんが腕組みして、
「アツマさん。センパイを消耗させたらダメじゃないですか」
まあまあ。
わたしがアツマくんを振り回したっていう側面もあるんだから。
「川又さん、水に流していいのよ、秋葉原デートのことは」
しかし、腕組みしたまま、
「水に流して良(い)いことと、悪いことがあると思うんですよ」
タハハ……。
「アツマさんの責任を問いただしたいというのも、今回わたしがお泊りした理由のひとつなんです」
きびしい。
「アツマさんには、センパイを労(いたわ)る義務がある。センパイとふたり暮らしする予定なのなら、助け合っていかなきゃいけないんだから、なおさら」
アツマくんは川又さんに気後れすることなく、
「――きみの言う通りだな」
「ほ、ほんとうに反省してますか!? 疑いますよ、わたし」
「あのさ」
彼は、柔らかに、
「疑ってばかり、怒ってばかりだと、今度はきみのほうが消耗すると思うんだ」
「……論点をすり替えないでください」
「ほら。『論点』ってコトバを使ったりして」
「なっ」
川又さんの血圧が上昇する気配。
「――愛をくたびれさせちまったことは、悪かったと思う。以後、善処する」
いまだピリピリの彼女に向かい、
「ただ――、心配なのは、現在(いま)のきみの状態だ」
「んなっっ」
ついにソファから立ち上がる川又さん。
彼女の勢いをつけた立ち上がりかたとは対照的に、ゆったりゆっくりとアツマくんは腰を上げて、
「飲んでくれないか? おれの淹(い)れるコーヒーを」
「こ、こ、コーヒーで懐柔(かいじゅう)させようとしても、ムダで……」
「ムダなもんか」
アツマくんは軽快に、ダイニング・キッチンのほうに方向転換。
それから、
「今度こそ、きみを納得させる味のコーヒーを、淹れてあげるよ」
× × ×
「川又さんはアツマくんアンチね」
「だって……センパイ……」
「あなたは重要なことに気づいてないわ」
「えっ……?!」
「関心があるからこそ、アンチなんでしょう? あなたは、アツマくんに引きつけられているとも言えるのよ」
「なに言うんですか、センパイ……。」
「わかるわよー、認められないっていう気持ち☆」