「こんにちは、羽田センパイ」
「ハイこんにちは、川又さん」
かわいいかわいい後輩の川又さんが、お邸(やしき)に来てくれている。
「センパイ、気温が下がってきましたけど、大丈夫ですか?」
気づかってくれる川又さん。
「大丈夫よ」
「よかった。
……上り調子、ですよね?? センパイ」
「そう思う? 川又さん」
「はい。」
「どうして?」
「どうしてかというと……、
センパイが、いつにもまして美女だからです」
「び、美女って、なにかなーっ」
「美女は、美女ですよ」
動揺するわたしは、
「か、川又さん、わたし飲みもの持ってくるけど…リクエストとか、ある?」
と取り繕って、ダイニング・キッチンの方角を向くが、
「――そんなまともに動揺しなくたって。」
と、かわいいはずの後輩は…容赦ない。
× × ×
「アツマさんは、居(お)られないんですね」
「うん。就職先の喫茶店で、研修」
「――よかった。」
「? よかった、って」
かわいいはずの後輩は首を横に振って、
「すみません。ちょっと口が滑っちゃいました」
と。
もしや…アツマくんへの…苦手意識の現れだったのか。
まあ、それはそうとして、
「アツマくんは不在なんだけど、」
「? …なんだけど、?」
「実はね、もう少ししたら、お客さんが来るの」
「エッ、どなたですか」
「――板東なぎさちゃん。
たしかあなた、なぎさちゃんと面識があったのよね?」
「……はい、ありました。
去年、桐原高校に行って、板東さんの『KHK』の取材を受けて――」
「じゃ、それ以来になるのかな。
なぎさちゃんも、あなたと同じ目的。わたしのことを気づかって、お見舞いに来てくれるのよ」
× × ×
30分後、板東なぎさちゃんが、お邸にやって来た。
「おねえさま!! お加減は!?」
アハハー。
リビングに入ってきていきなり、「おねえさま!!」かー。
驚いたような眼で、川又さんがなぎさちゃんを見ている。
「わたし、どこに座りましょうか」
「川又さんの隣のソファに座りなさいよ、なぎさちゃん」
わたしに従い、ソファと川又さんに近づいていくなぎさちゃん。
彼女は、川又さんに、
「お久(ひさ)ですねー、川又さん」
「…どうも。板東さん」
「いっしゅん、気がつきませんでした、川又さんの存在に」
……なぜ、ケンカ腰??
勢いよく着席するなぎさちゃん。
わたしの顔をじーっくりと見てくるなぎさちゃん。
ほんとうに逢いたかった……という表情のなぎさちゃん。
いっぽう、川又さんは微妙過ぎる表情だ。
――もうっ。
「――もうっ、よそよそしいわよ、あなたたち。同学年なんだから、もっと打ち解けるべきじゃない??」
……軽く、お説教みたいになっちゃったかしら。
わたしの「打ち解けるべき」発言の影響か、ふたりは顔を見合わせる。
× × ×
わたしが飲みものを持ってきてあげたあとも、ふたりのコミュニケーションは芳(かんば)しくなく、わたしに対してばかり喋っていて、互いに打ち解け合う段階になっていない。
「…それで、おねえさま、アツマさんが帰宅するのは、いつ頃に――」
と訊くなぎさちゃんを、敢えて、遮(さえぎ)って、
「――いまは、アツマくんのことは、どうだっていいのよ」
「――えっ?」
「なぎさちゃん。」
「お…おねえさま、??」
「あなたと川又さんの、ふたりで――、
なぎさ・ほのかコンビを、結成しなさい」
眼をパチクリさせるなぎさちゃん。
無理もない。
ないけれど。
「川又さんの下の名前、ほのかだから。だから、なぎさ・ほのかコンビ」
「……あのぉ、愛さん」
「なにかしらー? なぎさちゃん」
「なぎさ・ほのかコンビって――完全に、プリキュアじゃないですか」
「え、それどーゆーこと」
「ご存知ないんですか……!? 愛さん。
最初のプリキュアが、なぎさとほのかだったんですよ」
「わたしはプリキュア観ずに育ったからなー。しかも、最初のプリキュアって、そうとう大昔でしょう??」
「……ですけど。そうですけど」
『なぎさ』ちゃんは、『ほのか』ちゃん――川又さんのほうに、顔を傾ける。
『ほのか』ちゃん――川又さんの口は、半開きになっていた。