金曜日。
放課後。
放送部のお部屋。
テーブルで英語の宿題をやっている若松花(わかまつ ハナ)に、
「ねぇ、ハナ」
と呼びかける。
「なにー? かがみ」
目線を宿題に注(そそ)いだまま訊くハナ。
「今日の『ランチタイムメガミックス』の担当、ハナにやってもらったんだけど」
ようやく顔を上げて、
「クレーム?」
とハナが問うてくる。
「クレームというかさぁ」
わたしは、
「フリートークであんた、言ってたじゃん。『彼氏募集してまーす』って。あれ、どこまで本気なの?」
左手で頬杖をつくハナは、
「教えない。教えないぴょーん☆」
とふざける。
「いや、『ぴょーん☆』をくっつける必要は無いでしょ」
「うさぎ年だから、くっつけたんだよ」
わたしの口から漏れる溜め息……。
「あのさー。あんまり番組内でふざけすぎるようなら、『部活中に宿題をしてはいけませんカード』出すよ?」
「副部長として?」
「そう。副部長として」
「副部長のかがみが、部長であるわたしに禁止命令か~。すごいな」
すごくないっ。
「あと、『カード』って、どんなカードなの」
「……作る。作ってきて、週明けに持ってくる」
「週明けかー」
両手で頬杖をつきながら言うハナ。
笑顔で、
「来週は、いよいよ卒業式だよね」
とハナ。
逸らされた。
話、逸らされたっ。
「部の先輩たちに、寄せ書きしなきゃ」
たしかに。
先輩への寄せ書き、まだ出来てない。
でも、だとしたら、
「授業の宿題なんかしてるヒマ無いよっ、ハナ。寄せ書き作りはハナが率先してやらなくちゃ。あんた、部長でしょ?!」
「それもそうだね」
他人事(ひとごと)?!?!
怒るよ、わたし。
『マジメじゃない』って言われることもあるけど、わたしは少なくとも、ハナよりはマジメなんだから。
勢いをつけて椅子から立ち上がる。
寄せ書き用の色紙を取ってくる。
そして、ハナの背後から、ハナの宿題の上に、色紙を乗せる。
「わあ、宿題妨害」
「バカッ。ハナのバカ」
「え、罵倒!?」
黙らせたくて、
「書きなさい、寄せ書き。最初は猪熊先輩。その次が小路先輩」
「小路先輩の次は?」
「こ……これから考えるっ」
「かがみぃ~~」
「に、ニヤけないでよ」
× × ×
「猪熊先輩ってさ、」
あまりキレイとは言えない文字で色紙にメッセージを書き込みながら、
「やっぱ――、羽田先輩のこと、好きなのかな」
コラッ。
「どう思う、かがみ??」
「この期に及んで、最悪の無駄口を……!」
「わたしは好きだと思うな。たしかに猪熊先輩、具体的なアプローチは彼に対してしてないけど、『雰囲気』でわかっちゃうし。例えば、話しかたとか。『です・ます調』を崩さなくても、明らかに彼女、わたしたち後輩女子に対しての話しかたとは、全然違った話しかたになるんだもん――彼の前では」
……ハナを、この部屋に、軟禁したくなってきた。