羽田センパイ、くたびれてるみたいだ。
どうしてなんだろ。
距離を詰めて、
「センパイ。もしかして今日、調子悪かったりしますか?」
と訊く。
「不調なわけじゃないの。でも、ちょっと疲れちゃってるかな……」
「お疲れの原因は?」
「あのね。
わたし、日・月・火と、3日連続でデートをして……」
「あ~」
「日曜日は、利比古と、合格祝いの横浜デート。
月曜日は、利比古と、近場のカフェでデートして。
そして火曜日は、アツマくんと、秋葉原に……」
「ずいぶん動き回ったんですね」
「動きすぎたらいけなかったのかもしれないわね」
「横浜とか秋葉原とか、遠出じゃないですか」
「そうね。遠出だったのも、たぶん影響を及ぼしてる」
溜め息をつく羽田センパイ。
ダルそうだ。
ダルそうだし、細身のカラダがひと回り小さく見える。
「病み上がりなのに、はしゃぎすぎたのね……」
弱いコトバをこぼすセンパイ。
かわいそうになって、わたしは、
「センパイ、センパイ」
「えっ、なあに?? 川又さん」
ほとんど密着するがごとく、肩を寄せて、
「肩を貸しますから、お昼寝しませんか」
「――えっ」
「お昼寝にはちょうどいい時間帯ですし」
戸惑いながら、
「お……お昼寝するにしても、あなたの肩に寄りかかる必要なんて」
「ありますよ」
「か、か、川又さん!?」
「あったかく眠れるじゃないですか、だれかに寄りかかるほうが」
「あったかく……?」
「今日、なんだか冷えるし」
「……」
× × ×
最初は抵抗があったみたい。
でも、結局は、わたしに身を委ねてくれた。
引っついて眼を閉じたセンパイは、数分したらもうウトウトし始めて、またたく間に夢の世界へ。
くたびれが溜まってたってことなんだな。
「こういう時は、恥ずかしがらずに頼ってほしいですよ、センパイ。」
熟睡中のセンパイに、わたしは語りかけてみる。
× × ×
あすかちゃんがリビングにやって来た。
センパイがお昼寝中なことに気づき、
「素敵な寝顔だね、ほのかちゃん」
と言ってくる。
「うん。わたしも本当にそう思うよ」
「――おねーさん、今日は、ほのかちゃんに甘える日か」
「もっと遠慮なく甘えてくれてもいいんだけどな」
「強い自分を見せたかったりするのかな?」
「まあ、わたしのセンパイとして……そういう気持ちもあるんでしょ。
でも、強いのと強がってるのとは、違うから」
「強がってるのを、認められなかったりもしちゃうんだよね」
「自分の弱さを見せちゃうのも、怖いんだと思う」
「だから、わたしたちに素直に頼ることができない」
「普段なんでもできるから、イザというときに、助けを求めにくくなっちゃうんだ」
あすかちゃんは微笑んで、
「かわいいよね。おねーさんの、そういうとこ」
「そうだね。わたし、弱々(よわよわ)になっちゃったセンパイも――好き」
「萌える?」
「萌える、萌える」
そう答えつつ、萌えキャラなセンパイの感触を――味わい続ける。
グッスリと眠るセンパイとのスキンシップは、当分続きそうだ。
× × ×
寝ぼけ眼(まなこ)をこすりながら、
「今、何時? 眠りすぎちゃったかしら、わたし」
「もうすぐ17時です」
「う、うそっ」
「わたしが嘘を言うわけないじゃないですか」
そう。
センパイに嘘なんか言わない。
口には出さないけど――センパイを裏切るようなこと、したくないから。
わたしはいつも、ココロの中で、センパイと約束を結んでいる。
「ごめんね川又さん……迷惑、あなたにかけちゃったね」
「迷惑なんか、かけてませんよ」
「……」
「ホントにもう。弱々(よわよわ)なんだから」
「え、え、」
「センパイ」
「川又さん……??」
「今日、わたし邸(ここ)にお泊りします」
「!?!?!?」
「できれば、センパイのお部屋で寝たいですね」