愛の後輩の川又ほのかさんが、邸(いえ)に来てくれた。
出迎えるおれ。
「よく来てくれた。助かるよ、川又さん。愛の様子を見てやってくれ」
歓迎の気持ちを込めて言うが、
「……はい」
と、ダウナーな声で、川又さんはそう言うだけ。
あれ??
おれの横を通り過ぎ、2階への階段まっしぐらな川又さん。
おれは、
「――川又さん、大学生活はどうだ? 慣れてきたかな??」
と声をかけるが、
「……べつに? どうってことありません」
と、トゲトゲしさの混ざったような口調で、言われてしまう…。
彼女の背中に向かって、
「さ…サークルとか、してるの??」
と訊いてみるが、
「答える義務……ありますか?」
と、バッサリ。
ふ、不機嫌??
どうした、川又さん。
× × ×
リビングで独りぼっち状態。
今ごろ、愛と川又さんは、愛の部屋で仲睦まじくしているんだろうが…。
川又さんの態度が、気にかかる。
攻撃的だ。
ツンツンしていた。
なんでだろう。
おれに対する……不満?
あの娘(こ)は、以前から、おれに対してツンツンな態度になること、少なくなかった気もするが……。
う~~む。
× × ×
ダイニングルームに移動して、テーブルを磨いていた。
そしたら――川又さんが、ダイニングルームに姿を現してきたのである。
「――ここに居たんですか。アツマさん」
「あっ、おれを探してたんか? 頼みごとでもあったりするんか」
「いいえ」
「そうじゃないんなら、飲み物が欲しいとか?」
「いいえ違います」
え……。
頼みごとでも、飲み物ご所望(しょもう)でもないんなら……なに!?
「ちょっとよろしいですか。アツマさん」
「お、おう。……座る?」
「はい。」
磨き上げたテーブルの前に川又さんが座る。
おれも、彼女の真正面に着座。
……もしや。
これは……お説教モードな、気配では。
川又さんは、軽く息を吸って、それから、
「わたしからの、クレームなんですけど」
と言って、それからそれから、
「もっとちゃんとしてくださいよ。アツマさん」
と、おれを、一刀両断……。
「どうして、もっとちゃんとしてくれないんですか!?」
上(うわ)ずり気味の声。
「羽田センパイが不調になってしまった責任を、感じていますか!?」
気圧(けお)されながらも、
「感じてるさ……そりゃ」
とおれは返す。
が、
「アツマさんがちゃんとしないから、センパイの元気もなかなか戻ってこないんだと思うんですけど、わたし」
と、痛烈なことばを浴びせられる、おれ。
…批判をぶつけられながらも、
「ちゃんとしてくださいよ、ってきみは言うけど……『ちゃんとする』の中身は、具体的には……」
と問うが、
「問答無用ってことば、わかりますよね!? アツマさん」
と、川又さんはヒステリックめいた声を上げて、そして……ガバッ、と椅子から立ち上がる。
椅子から立ち上がった彼女が、ダイニングルームを出ようとする。
「お、おい、どこ行くの、川又さん」
無言の……背中。
× × ×
ピコピコハンマーを持って川又さんがダイニングルームに帰ってきた。
「か……川又さん、それ、なに」
「ピコピコハンマーもアツマさんは知らないんですか!?!?」
「い、いや……おれが訊きたかったのは、いったいそのピコピコハンマーでなにをしようとしているのかっていう……」
「問答無用って言ったでしょ。繰り返させないでくださいっ」
「川又さん……。」
迫りくる彼女。
やべえ。
こりゃ、実力行使に出られる流れだ……!
「ことばで分からせるより、『痛み』で分からせるほうが、手っ取り早いし。」
「ぶ、物騒なこと言ってるぞ、きみ。分かってる!?」
「そうですねえ!! 物騒ですよねえ!!」
「お、おいおいっ」
勢いよく――ピコピコハンマーを振りかぶる彼女。
小柄なからだに似合わない――猛烈な勢いで、彼女は。
× × ×
「――感じましたか?? 痛み。」
あえぎ加減に、川又さんは訊いてくるけれども、
「――ピコピコハンマーだしなぁ」
と、おれは正直に答える。
「な……殴り足りなかったっていうの」
「ピコピコハンマーだよ、所詮? 川又さん」
彼女は猛烈に顔をしかめ、
「アツマさんのそーゆうところ、マジで好きじゃない」
と、罵倒……。
川又さん……。
ことばが、汚くなってきてるよ……?
気づいてる??