【愛の◯◯】渋谷系なわたしとミヤジと、それからそれから……

 

書店に入って、店内を移動していた。

そしたら、書棚の前に、わたしが良く見知った男子が。

 

宮島くんである。

つまり、ミヤジである。

 

このシリーズですっかりお馴染みとなったミヤジくん。

彼のもとに向かってわたしはズンズン突き進んでいく。

もちろん、向こうもわたしに気づく。

 

「またミヤジに会っちゃった♫」

「…元気だな」

「元気だよ?」

「…よく分かった。

 あすかは、この書店に来ること多いんか?」

「大学に近いし」

「僕の大学にも、近い」

「出会うことが多くなるのも、必然的なのかもね…」

 

わざと意味深なニュアンスを込めて言うわたし。

ミヤジはちょっぴりうろたえる。

 

「…ミヤジと書店って、あんま似合わない」

「似合わないってなんだ。ここには僕もよく立ち寄るんだ」

「…野鳥図鑑目当て?」

「野鳥に関連した本以外にも…」

「え!? 他になんか興味ある分野、あるの!?」

 

なぜか咳払いをしてから、ミヤジは、

「あすか。

 おまえ――音楽雑誌、ぜったい詳しいよな」

 

× × ×

 

音楽雑誌『開放弦』を小脇に抱えるミヤジ。

 

――それにしても、ミヤジが音楽に関心を示すなんてねえ。

 

「あんた、野鳥観察しか趣味がないんじゃなかったの??」

隣を歩くわたしが訊くと、

「ごく最近なんだが……Spotifyプレミアムに入った」

とミヤジ。

え。

マジ。

「いきなりプレミアム!? 動機は、なに!?」

左のほっぺたをポリポリ掻いて、

「おまえらのバンドの、影響……」

とミヤジは言う。

 

まーじーかーっ。

 

「おまえらのバンドの演奏が、妙に耳に残ってて。おまえらがカバーした曲の原曲を、聴いてみたくなって……それで、聴き続けてたら、いつの間にかロックにのめり込むようになった」

「のめり込む!? そんなにロック、聴きまくってるわけ」

「……や、のめり込む、は言い過ぎだったな。でも、いろいろなバンドを聴くようになって――You Tubeでも、曲のオフィシャル配信とかしてるし」

 

ほほーっ!

 

「――ミヤジ。あんた、これから、なんか予定ある??」

「特にないが」

「じゃあさ、渋谷に行こうよ

「渋谷!?!? な、なぜに」

「渋谷にタワーレコードがあるでしょ?」

「知ってるけど…新宿にもあるよな」

渋谷のタワレコがいいの

「…どうしてさ」

「べつに新宿のタワレコが駄目ってわけじゃないよ、誤解しないでね」

「……どこを向いてしゃべってるんだ、おまえ」

 

× × ×

 

で、わたしとミヤジは渋谷に赴いたわけだ。

 

いや~~、愉しい愉しい。

涼しい店内で、CDを物色。

 

わたしはミヤジに、ロックミュージックについて講釈しまくり。

愉しい、愉しい。

 

輸入盤を2枚買わせた。

もちろんミヤジの自己負担。

 

 

「やーっ、愉しいったらありゃしないねえ、ミヤジくん」

「奇妙な口調だな……」

「マンションに帰ったら、即聴くのよ。お姉さんとの、お約束☆

「は、はしゃぎすぎやがって……」

「はしゃぐよ」

「なぜ」

「音楽に関しては、完全にわたしのほうがお姉さんでしょ?」

「それが?」

「もうっ。」

「なぜ、むくれ顔に……」

お姉さんの言うこと聴きなさい

「……あのなあ」

 

× × ×

 

渋谷駅前。

 

――ミヤジが、スクランブル交差点のほうを眺めて、不意に、

「あすか。あれは……」

「あれ?? あれって、どれ??」

「……見えないか?

 徳山さんらしき女子(ひと)が、こっち方面に、横断歩道を渡ってきてるんだが……」

「エッ!? 徳山さんが!?」

「たぶん、彼女だと思う……」

「わたしの大親友の徳山さんが!?」

「……」

「ぜったい来年は志望校に受かるはずの、予備校生の徳山さんが!?」

「……」

「浪人するから、生徒会副会長の濱野くんとの交際を『1年おあずけ』にした、強い信念の持ち主の、徳山さんが!?」

「……手を振られてるぞ、あすか。あっちから」