『お兄さんはスーパースターだったんだよ』
『もっと尊敬したほうがいいよ』
ーーなんでみんな、兄への評価が、そんなに高いんだろう。
戸部邸
の
リビング
ソファーに足を投げ出して、寝っ転がっている兄。
冴えない大学生にしか見えない。
「……そんなにだらしなくていいの、お兄ちゃん?
カフェでバイトすることになったんでしょ?」
「…ま、あすかの言う通り、かな」
「じゃ、じゃあ、もっとちゃんとしてよ!!」
「そんなカタいこと言わずにさあ。
こっち来て、おれといっしょにテレビでも見ようよ」
「(>_<;)お兄ちゃん、キライ!!」
× × ×
おねーさんの部屋
「兄にキレてしまいました」
「毎度のことじゃないw」
「あの、疑問なんですけど、
なんでみんな、兄のこと、あんなに好きなんでしょうか…?」
「あすかちゃんは、アツマくん、キライなの?」
わたしは首を振った。
「素直に……なれない、です」
「きょうだい、だからなのかな」
「そうかも…」
「話していいか、わかんないんだけど、」
「?」
「アツマくんね……わたしに、こう言ったことがあるんだ。
『おれは、あすかを、不幸にさせたくない』
って。
本気で? ってわたしが訊いたら、『本気で、不幸にさせたくない』って。
それから、わたしが利比古を可愛がってるように、アツマくんも、あすかちゃんのことが、『かわいい』んだってw」
「……どした、あすかちゃん? 放心状態みたいになって」
「ふ、『不幸にさせたくない』なんて、カッコつけて、具体的じゃなくって、
でも、でもーーお兄ちゃん、わたしが考えてたより、ずっとわたしのこと、気にしてくれてた、気にかけてくれてた」
「…妹のことが大切じゃない兄なんて、いないんじゃない?」
ふたたび、リビング
「ようあすか、花火でもしないか?」
「する」
「じゃあ愛も呼ぼうぜ」
「ねえ…
たまには、ふたりでやらない?」
「え」
「おねーさん、怒らないから、絶対」
× × ×
縁側で、線香花火
「ーーなんかあったのか」
「さっき、『キライ』って言っちゃったこと、気にしてない?」
「あー、いつものことだろ」
「ほんとはキライじゃないから」
「…わかってるって」
「お兄ちゃん」
「なに」
「…わたし、おにーちゃんのこと、おーえんしてるからね」
「応援って、何をだよw」
「わかんないっ」
なんだか、胸がじーんと熱くなって、
お兄ちゃんの肩に、寄りかかりそうになって、
甘えたいって、こういうことなんだろうか、
こういう、こういうーー、
素直になりたくて、
お兄ちゃんの顔を、じっと見つめた。
「……なんだなんだ? のぼせやがって」
「のぼせてないもんっ!
あのね、お兄ちゃんの顔を見る練習。
わたし、イマイチお兄ちゃんの顔を見て話せてなかったような気がするから」
「…そんなことねーよ」
「あるよっ!!」
「…花火、終わっちゃったな」
「いいじゃん、もうちょっと、ここでしゃべろうよ。
あのね、きょう、ベイスターズが中日相手に12点取ってて、松坂をメッタ打ちにしてて、それでおねーさん、爆笑しながら中継観てて…」