どうも。
利比古です。
さっそくですが――きのうの、誕生日の模様をお送りします。
× × ×
――朝。
「利比古、誕生日おめでとう!!」
顔を見るなり、姉がハグしてきた。
「……いくつになっても」
やわらかい姉のからだに包まれるなかで、つい、そうつぶやいてしまった。
それが聞こえたらしく、
「そんなこと言いなさんな、めでたいんだから」
と、ぼくの背中をとん、と叩く姉。
「顔、洗ってきなさいよ」
「もう洗ってるよ」
「さすが!!」
「声が大きいよ」
ぼくの忠告を軽々とかわし、
「じゃあ、誕生日プレゼントを渡してもいいわね」
「プレゼント――」
「――あげないと思った?」
「い、いや、べつにそんなことは」
イタズラっ娘(こ)の姉は、
「『あげてくれない』なんて思ってたら――もういちど、ハグしちゃうんだから」
「……どんな理屈」
ともあれ、プレゼントを、姉は運んできてくれた。
ラジカセと、ヘッドホンだ。
「実はアツマくんと、お店で選んだのよ」
そうなのか。
それは……アツマさんにも、あとでちゃんと感謝しなきゃ。
「彼は少しも役に立たなかったけれど」
えっそんな。
「ヘッドホンの代金を、出してくれたことぐらい?」
えっ、それは……、
役に立つ、どころか……!
「……お姉ちゃん」
「どうしたの利比古」
「アツマさんのこと……好きなのならさ。もっと、尊重してあげなよ」
ヘッドホンの代金を払わせたことについて言ってるのだ、と気づいて、
微妙な顔つきになり、うつむく姉。
しょーがないなー。
「反省してね。ちゃーんと」
言い重ねるぼく。
縮こまるように沈黙する姉。
思い切って、
ぼくは、そんな姉に近寄って、
両肩に手をガシッ、と乗せる。
「と、利比古――!?」
うろたえる姉に、
「だけど――、こんなに至れり尽くせりなプレゼントをしてくれて、ありがとう」
と先制攻撃。
「ど、どういたしましてっ…!」
「お姉ちゃん、」
「――ハイ、」
「しばらく離さない、って言ったら――どうする?」
「ええっ!?!?」
そこに――残念ながら(?)、あすかさんが、通りがかってきた。
「利比古くんが…おねーさんに、迫ってる」
タハハ。
とりあえずぼくは、静かに姉の両肩から手を離す。
「禁断の、愛~?」
おちょくるあすかさん。
「そんなのじゃないですよ」
キッパリのぼく。
「利比古が……激しかった」
穏やかじゃないことを言い出す姉。
困るなあ。
「きょうだい同士のふれあい、という名のスキンシップもいいんですけど、」
あすかさんは言う、
「――ほのかちゃんからもう、『例のもの』がポストに届いてると思うんですけど」
「『例のもの』……川又さんから??」
なんのことやら。
「にぶいな~、利比古くんはホント」
わかってますよあすかさん。
「そうそう、そうだった」
気を取り直し気味の姉。
ぼくが、
「――なにが『そうそう、そうだった』なの? お姉ちゃん」
と訊くと、
「川又さんが、あんたにね、プレゼントを贈ってきてくれたのよ」
「え――川又さんが、ぼくに!? わざわざ!?」
そこまで……してくれるんだ。
さいきん……川又さんのサービス精神が、すごくないか!?
すごい、ってレベルじゃない気も……!
× × ×
姉がポストから、川又さんからのプレゼントを運んできてくれた。
「あけてごらんよ」
姉の言うとおり、中身を出してみる。
そしたら、本が入っていた。
本だけではなかった。
川又さん直筆の、メッセージカードがある。
『ハッピーバースデー
本を……贈ってみました
中高生向けの、詩歌(しいか)のアンソロジーです
趣味が旧(ふる)いのかもしれないけれど、
わたし、詩や短歌が好きで――
で、真っ先に思い浮かんだのが、こういった本で
どれだけ時間がかかってもいいので、読んでくれたら嬉しいです
是非――お読みください』
…と、書かれてあった。
川又さん…字が、すっごくキレイだ。
達筆なんだ。
「せっかくの、ほのかちゃん直々(じきじき)の、本のプレゼントなんだから。
『読まない』って選択肢はないよ、利比古くん。
そうだなぁ……、
8月が終わる前に、読み切っちゃいなよ」
「そんなに速くですか――? あすかさん」
「なに言うの」
「なっ、なに言うの、とは」
「読めるでしょっ」
「……」
「なんでそこで考えこんだりしちゃうの、読みなさいよ」
「……厳しいアドバイスは、甘んじて受け入れますけど」
「受け入れてよね、ほんと」
「ぼくは…ですね、」
「??」
「あすかさんに、あすかさんに……言ってほしいことがあって」
約5秒間、キョトンとした彼女だったが、
ひらめいたように、
「ああ。――おめでとう、って、言わないとね。
ちゃんと利比古くんバースデーを、祝わないと」
「祝って、くれますか?」
「もちろん。
おめでとう――ハッピバ。」
「――もしかして、略しました? 『ハッピーバースデー』を」
「うん! だから、ハッピバ」
「あすかさんの言語が、乱れるのは――少しイヤです」
「ええ~っ」
「だって…」
「利比古くーん。
わたしだって、バースデープレゼント、用意してるんだよ?」
「えっ!? 意外な」
× × ×
――ぼくの、『意外な』が、完全に余計なひとことで、
ふてくされながら、あすかさんは、ぼくへのプレゼントを、持ってきた。
「あすかさんも、本ですか?」
「本というか、MOOK(ムック)」
「…顔を逸らしながら答えないでください」
「む~~っ」
「『む~~っ』を声に出さなくたって!
ほんとうにもう…。
まあ…いいや。
――、
「そう。
2010年発行だから、情報、古いけど。
だけど――利比古くんの参考には、なるんじゃないの?」
「ぼくの、なんの、参考に?」
「あなたのKHK活動の参考、に決まってんでしょ」
「…これからのドラマづくりとか、そういうことに役立つように、と」
「だよ。…テレビドラマ、作ってたんでしょ? 夏休みに入る前まで」
「作ってました」
「じゃあ、このMOOKを読み込んで、もっとドラマを量産するといいよ」
「そう簡単には、量産できない気がするんですけど…」
そう言いつつ、苦笑い。
苦笑いだけじゃ、足りないので、
「――ありがとうございます、こっちも、ちゃんと読みますから、ぼく」
と言い添える。
「うんっ。読んでよ。で、2学期からもKHK、がんばってね」
「ハイ!」
「いずれは――大河ドラマが、作れるように」
「それは――高校生には、どうでしょうか」
「弱気な利比古くんはキライ」
「――言われてしまいましたか」
「めっ」
「――厳しいあすかさんは、わりと好きです」
「えっ」