どうも皆さまこんにちは、蜜柑でございます。
さて、挨拶もそこそこに、いまの状況を説明したいのですけど、
実のところ、なんの変哲もない、土曜日の朝を過ごしているわけなのです。
わざわざ勿体ぶる必要、皆無でしたねー。
勿体ぶっても、100文字しか稼げないじゃありませんか。
ねえ?
……。
× × ×
『意味不明瞭な前フリは、よしなさい』というクレームは、甘んじて受け容れるとして、
土曜の朝から、自分の部屋で、お電話しているところなんです、わたし。
電話の相手は、親友のメグ。
けっこうな長電話になりそうな気配なんですけど、
いったい、メグとなにを話しているかというと……。
『……唯世(ただせ)くん派だったんだ、蜜柑は。正統派だね』
「メグは、唯世くん派じゃなかったの?」
『うん、違った。わたし正統派じゃないから』
「――まさか、メグ、あなた、」
『だれ派だと思った~?』
「イクト派――とか!?」
『大当たりぃ』
「イクト派って、メグ、そんなに年上好きだったの!?」
『ふふふんっ☆』
「『ふふふんっ☆』じゃないよ。唯世くんなんか眼中になかったってわけ」
『だってイクト、スタイルよくってカッコよかったじゃん』
「そういう問題じゃないでしょ」
『なら、どういう問題?』
「あむちゃんよりイクトが何歳年上だって思ってんの」
『――そこ気にするんだ』
「あむちゃんには絶対、唯世くんのほうが相応(ふさわ)しいよっ」
『蜜柑も案外、デリケートなんだねえ』
「デリケートって……?」
『もしかしてイクトのこと、ロリコン、っていう認識だった?』
「……ロリコンとまではいかないけど、ヒロインとの、ね、年齢差が……!!」
『いいじゃん、べつに。あっちが高校生で、こっちが小学校高学年でも』
「……そもそも、イクトは悪役だし」
『――言うほど、悪役かなぁ? イクト』
――、
え~、わたしとメグが、どんなことで議論してるかといいますと、
『しゅごキャラ!』というアニメが、わたしたちの小学生時代に、放送されておりまして。
テレ東の、土曜朝枠だったはずです。
原作はPEACH-PIT先生で、『なかよし』に連載――。
単行本は全12巻、偶然にも? CLAMP先生の『カードキャプターさくら』も全12巻で、巻数がまったくおんなじ――。
そうですねえ、
アニメは――2期の『しゅごキャラ!! どきっ』までは、観ていましたっけ。
『いま振り返れば、出演声優が相当豪華だったよね……』みたいなことを、だれかが言っていた、のを、小耳に挟んだ、気が、いたしますが……。
で!
本題は!
――さっきのメグとの会話に出てきた、『唯世(ただせ)くん』『イクト』『あむちゃん』というのは、ぜんぶ『しゅごキャラ!』の登場キャラクターなわけなんです。
『あむちゃん』――日奈森(ひなもり)あむちゃんが、主人公。
そして、『唯世(ただせ)くん』は、あむちゃんの同級生の男の子、
『イクト』は、あむちゃんの寝込みを襲う(!?)、男子高校生で……。
……ほんとうに寝込みを襲っていたかどうかは、正直うろ覚えなんです。
原作が、手元にないので……でもこれは、言い訳にはならないですね。
うろ覚えで解説してるので、事実と異なっていたら、ごめんなさい。
……それでですね。
問題なのは、あむちゃんは女子小学生で、向こうのイクトは男子高校生である点だと『わたしは』思うんですけど、
それでも、メグは、さっきの会話内容の通り、『イクト派』を強硬に支持しているわけなのです。
『唯世くん派』のわたしとは、意見が合いません。
――要するに、幼少期に観ていたアニメに出てくる男の子キャラの好みで、議論が沸騰していた、ということです。
『なかよし』……。
『なかよし』と、『りぼん』『ちゃお』で、女子小学生ご用達マンガ雑誌御三家ですけれど、
これらを購読していたのも、もう10年以上前のこと――セピア色の記憶です。
もっとも、
少女マンガ雑誌を読むのをやめた、というわけでは、ぜんぜんなく、
現に、ベッドに腰かけてメグと通話しているわたしの傍(そば)には、『別冊マーガレット』がデーン、と置かれているわけなんです。
『蜜柑、『別(べつ)マ』の2月号は、もう読んだでしょ?』
「――ごめん、まだ。あと少しで読み終わるとこ」
『え~~っ、早く読んでよ~蜜柑。ネタバレできないじゃ~ん』
「なにも、わたしがぜんぶ読むの、待たなくったって」
『もうすぐ3月号が出ちゃうよ』
「……ほかの積んだ雑誌を消化するのに、忙しいのよ」
うず高く積まれた『BE・LOVE』のバックナンバーが、眼に入ってきました。
ほかにも、『花とゆめ』『LaLa』『Cocohana』などなど……。
× × ×
メグは『BE・LOVE』の最新号をもう読み終えたそうです。
要領、悪いんでしょうか? わたし。
それとも、メグが、要領、良すぎるんでしょうか?
――住み込みメイドのお仕事と違って、積み雑誌を崩すのは、テキパキとはいきません。
そこが歯がゆいんです。
通話が終わったあとで、リビングに下りたわたし。
時刻は9時半を過ぎていました。
――ちょうど、この時間帯に、『しゅごキャラ!』は放映していたはず。
いまは、どんなアニメが放映されてるんでしょうか?
気になったので――テレビをつけて、リモコンの『7』を押し、テレ東に選局してみたところ、
…いつの間に、少年アニメ枠に、なったやら。
というか、『ダイの大冒険』って、ジャンプに連載されていたの、わたしが産まれる前だったような…。
「……ま、いいか。細かいことは」
『テレビに向かってひとりごと言うんじゃないの、蜜柑』
「その声は、お嬢さま」
「テレビじゃなくて、わたしの顔を見てしゃべってほしいんだけれど」
「わかってますよ」
テレビ画面から眼を離さずに、わたしが受け答えをしたので、
「説得力皆無なこと言わないでよ……」
お嬢さまが、ピリピリとし始めます。
しょうがなく、お嬢さまに視線を移して、
「……これでよろしいでしょうか?」
「ずいぶんな不満顔ねえ」
「それはどーも」
「すぐ不機嫌になるんだから、蜜柑は。やってられないわ」
挑発に乗っかるごとく、
「おじょーさまだっておなじじゃーないですかっ、すぐムキになるのはむしろ、おじょーさまのほうでは!?」
「逆ギレはやめなさい!! 見苦しいわよ」
「その気になってるのは、断然おじょーさまのほうですよね!?」
「その気ってどんな気よっ!?」
「ほら! まるで反抗期の中学生みたいに」
「わたしはもーすぐ大・学・生よっ!!!」
――すっかり喘(あえ)ぎながら、にらみ合っていたところに、
『はいはい、そこまでそこまで』
手をポンポン、と叩きながら、お父さんが、やって来たのでした……。
「土曜の朝から、元気がいいのは、たいへんよろしい。
だが、アカ子も蜜柑も、もう、大喧嘩する年頃でもないんだから。
な?」
優しく諭(さと)されて、お嬢さまもわたしもシュン……となってしまいます。
お父さんはテレビ画面を見て、調子の良さそうな声で、
「おー、『ダイの大冒険』じゃないかあ」
……ご存知、なんですか、お父さん。
「初代のアニメは、途中で打ち切られちゃったからなあ」
「…『初代』?」
「ん、気になるか蜜柑」
「い、いえ、そんなには」
「照れんでも。――蜜柑やアカ子が産まれるはるか昔に、TBSのゴールデンタイムでやってたんだよ。ゴールデンタイムなのが仇(あだ)になって打ち切られたんだが、そういう意味では、今回のアニメはリメイクであると同時に、『リベンジ』だ」
――お父さんが語り始めたので、必然的にお嬢さまが、頭を抱えてしまいます。
テレビ画面に熱中するお父さんをよそに、
「蜜柑」
「……はい、なんでしょう、お嬢さま」
「この邸(いえ)は……ほんとうに収拾がつかないわね」
「……慣れっこじゃないですか、もう」