【愛の◯◯】お昼休みは校内放送で暴走

 

「――はいっ、旧校舎の皆さん、

 お元気ですか~~!

 

 ……いきなり、

 いきなり、大声上げちゃいましたけれど。

 

『ランチタイムメガミックス(仮)』のお時間なわけですよ、旧校舎の皆さん。

 いまは、金曜日のランチタイム、ということは、今週もあと半日なわけですね。

 是非とも残る半日、元気を振り絞って、がんばって頂きたくて。

 それで、『お元気ですか』の叫び声を上げた、ってわけですよ。

 

 ――あらためまして、こんにちは。

 絶叫アナウンサーの、板東なぎさです、

 というのは真っ赤なウソで。

 フツーに自己紹介しろって話なんですけど。

 わたくし、

 水卜麻美と申します、

 というのも、もちろん真っ赤なウソです、ウソっぱちです。

 

 なんですか?

 もっとマジメにやれ、って??

 

 …やれやれ。

 わかりましたよ。

 わたし、実のところアナウンサーでもなんでもないわけです。

『知ってるよ!』ですって??

 それはどーも。

『茶番で時間稼ぎもいい加減にしろ』って??

 確かにねえ。

 

 ――、

 なんだか、きちんと自己紹介するタイミング、逃しちゃった気がします。

 せっかく、初代パーソナリティの麻井先輩が勇退して、わたくし板東なぎさがめでたく全曜日パーソナリティに就任したというのに。

『金』曜日じゃないですよ。

『全』曜日パーソナリティです。

 念のため。

 

 スベってますか?

 スベってますよね!?

 

 なんだか――収拾がつかないまま、有耶無耶(うやむや)のうちに放送が終わってしまうような、そんな危険を感じるので。

 とりあえず、1曲。

 

 ――レミオロメンで『粉雪』」

 

× × ×

 

「懐メロ、ご堪能頂けましたか?

 ――今度こそ、あらためまして、こんにちは。

 荒ぶる季節の17歳、板東なぎさでございますわ。

 ……なんか、変ですね。

 ございます『わ』、って。

 日本語の、乱れ。

 こんなことじゃ――日本放送協会に就職できない!!

 

 ――はい、

 旧校舎限定のローカル校内放送だから言える発言でありました。

 いまここに麻井先輩がいたら、きっとピコピコハンマーであたまを叩かれまくってることでしょう。

 想像するだけで痛い。

 でも、麻井先輩、いません。

 ここにいるのは、パーソナリティのわたしと、特別ゲストのスズキくんだけ。

 そうだよねえ、スズキくん?」

 

「……え、『そうだよねえ』と言われてもっ」

 

「緊張してない? だいじょうぶ?」

「もう、これ、出演してるわけ!? おれ」

「そうだよ。ゲストコーナー始まってる」

「でも板東、おまえなんにも言ってないじゃん、『ゲストコーナー』とか」

「なし崩し的な進行が、この番組の『売り』なの」

「?」

「このブログもそうだけどね」

 

「……?」

 

「あ、ごめん、放送事故になっちゃうところだった。

 わたしがしゃべり続けないと、『間(ま)』が空きすぎて放送事故になっちゃうんで、とにかく特別ゲストのスズキくんを紹介したいと思います。

 スズキくんは、2年生で、帰宅部

 好きな食べ物は、うなぎの蒲焼き――」

ちょちょいまった

「――なに」

「どこで、どこでその情報知った」

「どこでも。」

「は!?!? いみわかんねえ」

「スズキくん、極度に混乱していますねー」

「実況すんな」

「だっておもしろいし」

「板東……おのれがそんな『あくどい』性格だとは、思ってもみなかった」

「……ここで! スズキくんのイチオシ漫画をご紹介」

おいっ!!!

「――『イチオシ漫画紹介、とか、台本に一切書かれていなかったよな!?』って言いたそうな顔になってます、スズキくん」

「顔を実況すんな、顔をっ」

「スズキくんのイチオシ漫画は――沙村広明先生の『無限の住人

「だからその情報の出どころ教えろよ…」

 

 

「スズキくんに質問メッセージが届いてます」

「…何通?」

「5通」

「へぇ…。」

「みんな、思ったより、スズキくんに関心あるみたいで」

「バカにしたような眼で言わないでくれ」

「……読むね、時間の許す限り。

 

 ラジオネーム、『海浜幕張』さん。

『スズキくんの趣味はなんですか?』

 

 ――だって」

「んん……」

「答えて」

「……」

「無趣味だったの?」

「し、強いて言うならば……『阪神タイガースの応援』」

「初耳だぁ」

「そこは初耳なのかよ」

「カンペキな情報網なんて存在しないから。」

「あっそ……」

 

「――阪神ファンなのはいいんだけどさぁ」

「……なんだよ?」

「この質問くれたひとのラジオネーム、よく見てよ。

海浜幕張』、じゃん?

 海浜幕張は、マリンスタジアムの最寄り駅、ってことは――、

 ロッテファンなんじゃないの? このひと」

「確証はないだろ」

「――ロッテと阪神、この上なく相性悪いよね」

「いや、2005年の日本シリーズとか、おれ知らないから」

「……スズキくんは、だれが監督のときから、阪神ファンなの」

「和田」

「遅くない!?」

「遅くねーよ!! まだ小学生だったんだぞ」

「それもそうか」

 

「――板東」

「な~に」

「おまえは――」

「ん~?」

「――おまえは絶対、ミーハーだよな」

「……ここで、もう1曲。」