【愛の◯◯】寝坊と、寝グセーー、そして、「いつもそばにいる人」の、誕生日

 

ダッシュで階段を駆け下り、

キッチンに向かうわたし。

 

なぜかというとーー 

 

ご、ごめんっ、

 寝坊しちゃった、

 

 急いで朝ごはんの支度するね、」

 

「あわてんな、愛」

「アツマくん」

「…スウェット着たままで、料理する気か?ww」

 

がーーん

 

「ね、ねぼけてた、

 昨日の夜、つい本を読みふけっていたら、寝るのが遅くなっちゃって。

 急いで着替えてくる」

「だからあわてるなって」

「でも、アツマくんたち朝ごはん食べられなくなる」

「ばーか。

 自分たちでなんとかするよ。

 ……、

 (少し照れくさそうに)助け合うのが、家族だろ」

 

「……フフッ、

 フフフフ…w」

 

「な、なにがおかしい」

 

「照れなくてもいいじゃない!w

 

 あとーー、

 アツマくん、

 お誕生日、おめでとう。

 

「(おだやかな笑顏で)ああ、ありがとう、愛。」

 

「おねーさん」

「あすかちゃん」

「お兄ちゃんの言う通り、朝ごはんは自分たちでなんとかしますから。

 お兄ちゃん、きょう1限がないらしくて、ゆっくり邸(いえ)を出られるって」

「それならいいけど……」

「おねーさんも朝ごはん食べないといけないでしょ?」

「ああっ」

「だから、わたしが、おねーさんのパンとコーヒーを用意してあげますから」

「(抱きしめて)わかった、ありがとうあすかちゃん、着替えてくるね!」

「(^_^;)…大げさですね。」

 

× × ×

 

「寝坊した」といっても、

いつもより遅く起きただけで、

冷静に考えれば、

遅刻するような時間ではなかった。

 

ーーなので、コーヒーを飲みながら、

アツマくんと話せるぐらいの時間はあった。

 

「ごめん、誕生日プレゼントは、帰ってから渡す」

「いつでもいいよ」

「何時ごろ、帰る?」

「6時までには帰ってる」

「わかった」

 

「ーーあすかがさ」

「あすかちゃんが、?」

「きょう起きてから、最初に『誕生日おめでとう』って祝ってくれたんだけど、」

「うん」

「…、

 

この1年で、お兄ちゃんを前よりずっと頼れるようになった、

 お兄ちゃんが頼もしくなった

 

 だってさ。」

「それは…そうだよ。

 もともと、頼もしくなかったわけじゃないんだけど、

 でも頼りない部分もあったよね」

「ハッキリ言ってくれるな…」

「でも、わたしがピンチのときには助けてくれた。

 

 そういう意味では、あなたは元からわたしのヒーローだったけど、

 この1年で、あすかちゃんにとっても、あなたは頼れるお兄ちゃんになってーー、

 あすかちゃんのヒーローにもなったんだよ」

 

「愛…」

 

「感激してるの?w」

 

「遅刻するぞ」

「  」

 

 

× × ×

 

@学校

 

「愛ちゃん、そのヘアブラシ、前は持ってなかったよね」

「きのうもらった」

「誰から?」

「センパイから。

 どのセンパイかは…秘密にするわけでもないけど、

 秘密にしておく。

 なんとなくw」

「わかったわ、じゃあ秘密ねw」

 

「寝グセがあるからーー直してるの」

「いい心がけだと思うわ」

「きょうは身支度する時間が短かったし」

 

髪を気にしてるのはーー、

じつは、それだけが理由じゃないんだけどね。 

 

「それ以上伸ばさないの?」

「さすがにねぇ」

 

「…………」

「ど、どしたの、アカちゃん」

「わかるわ、愛ちゃんの気持ち」

「ど、ど、どんな気持ち!?」

「わたしがーーハルくんに会いに行くときと、同じような気持ちなのね」

 

あー。 

 

「う、うん、だいたいあってるけどーーすこし、ちがうかな」

「そうなの…ごめんね」

「謝る必要ないよ。

 

 ただ…アツマくんとは、いっしょに住んでるから」

 

「会いに行かなくても…そばにいる。

 その意味で、少し違う、ってことでしょう」

 

「…さすがね、アカちゃんは」

 

「寝グセはそこだけじゃないわよ」

「Σ(;^_^)」

 

 

× × ×

 

戸部邸に帰宅して

 

「おーおかえり」

「ちょっと待っててね、部屋からプレゼント持ってくるから」

「あんまりあわてんなよ」

「わたしそんなにあわてんぼうじゃないもんっ」

 

とはいえーー、

 

部屋で普段着に着替えるとき、

制服にシワを残さないようにするとか、

そういうところは、

いつも以上にきちんとしておいて、

部屋を出て、階下(した)に降りた。 

 

「おーごくろうごくろう」

「なにが」

「いや、べつに」

「なによそれ」

「や、ふだんより、シャキッとしてるなって」

 

「ーー身だしなみのこと?」

 

「まぁな」

「曖昧な返事しないっ!

 せっかく、いよいよ誕生日プレゼントあげる、って段階なんだから。

 

 はい。(手渡す)

 

 あけてみて。」

 

「CDだ。

 

 ホルスト、『惑星』…って、

 クラシックかよ、これ」

 

「不満かしら?

 せっかく音楽鑑賞サークル活動してるんだから、音楽の教養の幅を広げてほしいなあと思ったの」

 

「不満じゃないけど、このCDを選んだのは、なぜ?」

「あなたにも馴染み深い旋律があると思って」

「ど、どゆこと」

 

 

・ピアノに向かうわたし

 

 

・「木星」の第4主題を弾くわたし

 

 

「えっ、これ平原綾香の『Jupiter』じゃん」

 

「そういうことよ。

『惑星』は全7曲だけど、そのなかに『木星』って曲もあって、『Jupiter』はそこからアレンジした歌なのよ。

 

 でも…わたしは、原曲もちゃんと知ってほしくて。

 

 ヘルベルト・フォン・カラヤンっていう指揮者、聞いたことないかしら」

 

カラヤン、っていう名前だけなら…」

 

「そのCDの指揮者がカラヤンなの」

「アッほんとだ」

「最高の指揮者の、最高の演奏を聴いてほしくて」

「そーいうことか。

 プレゼントありがとう、愛。

 

 じゃあ、早速これから聴いてみようよ、CD」

「エッ? いきなり」

「だって好都合にもCDコンポがすぐそばにあるし」

「ほんとうに好都合ね」

 

 

カラヤン指揮の『惑星』、再生開始~

 

 

 

「なぁ」

「?」

『音楽と本』っていうブログタイトルらしく、なってきたよな…

無駄口叩かないでよっ