アツマ「なぁ、あすか」
あすか「なに? お兄ちゃん」
アツマ「昨日の夜、愛が……」
bakhtin19880823.hatenadiary.jp
「勉強頑張ってるのはいいけど…
もう少し長く、家にいてもいいじゃない」
アツマ「こう言ってきたんだ。
で、『夏期講習があるから仕方ないじゃないか』って言ったら……」
あすか「言ったら……?」
アツマ「すっげえ、俺を、その……(頭をポリポリかきながら)いとおしそうな眼で見てくるんだ。
まるで、家を出ていくおれを引き留めるような感じで……」
あすか「(・∀・)!!」
アツマ「なんだそのひらめいたような顔は」
あすか「(・∀・)ニヤニヤ」
アツマ「気色悪いな……」
◯ダイニング
アツマ「おーーっす、愛」
アカちゃん「おはようございます、アツマさん」
アツマ「アカ子さん(デレデレ)」
愛がうつむいている。
なぜか、アツマがいつも座る席から、かなり距離を置いている。
アツマ(いったいどうしたっていうんだ……)
朝食が終わる
明日美子さん「ふああああ~(´ぅω・`) ネムイ」
流さん「さてと池袋の書店にでも本を見に行くかな」
あすか「アカ子さん、庭の花に水をやりに行きません?」
アカちゃん「あら素敵」
アツマと愛のふたり以外、その場からいなくなる……。
アツマ「あのな、おれだって危機感があるんだってこと、わかってほしい。だから夏期講習だけでなく、居残り勉強だってやってる。出遅れてるっていう自覚があるから。
だから、昼間この家にはいられない」
愛「うん…そうだよね、そうだよね」
アツマ「おまえ、なんでおれが家をあけてるのがイヤなんだ? おまえの学校の友だちだって、よくここに来てるじゃんか」
愛「わからない」
アツマ「わからない?」
愛「わからない……わからない……わからないわからないわからない」
アツマ「お、おちついてくれ」
愛「わからないよ!! 国語のテストの100倍難しい!! わからない!!」
アツマ「……( ゚д゚)」
愛「(弱々しい声で)ねぇ……きょう、アツマくんを待っててもいい?」
アツマ「待つって、家で、か?」
愛「(弱々しい声で)予備校の近くで」
アツマ「予備校の近くって……電車で行くのかよ」
愛「(弱々しい声で)アカちゃんと一緒に行く」
アツマ「(苛立たしげに)アカ子さんまで巻き添えにする気か!? おまえ、夏期講習が何時間あるのか知らないのか?」
愛「アカちゃんとは途中で分かれる」
アツマ「じゃあ夏期講習が終わるまでどーやって待ってんだ」
愛「どっかのカフェで本読んでる」
アツマ「ぐっ……」
愛はクッションを抱えて、ふさぎ込んでいるが……、
愛「こんなのワガママだよね」
アツマ「ワガママじゃないと思うが、おまえ、いったいぜんたい、どーしちまったんだ」
愛「時計!」
アツマ「び、びっくりした、突然大声出しやがって」
愛「やっぱいいよ、わたしはここにいる。はやくしないと予備校に遅刻しちゃうよ、時計をみて」
アツマ「(時計を見上げ)たしかに……」
都心へ向かう電車
愛は笑っておれを見送った。
でも、ぜんぜん元気のない笑い方だった。
愛が来たのは2年前だけど、毎日顔を合わせていたら、元気のないことぐらい、わかってしまう。
ちくしょう、どうすれば……
◯ふたたび戸部邸
アカ子はけっきょくひとりで帰った。
明日美子さんは寝てしまった。
あすかは部屋で勉強している(忘れてはいけない、彼女も受験生だ)。
愛は居間でひとり、ソファーにちょこんと座っていた。
愛(あんなこと、アツマくんに言わないほうが良かったな、動揺させちゃって……。
自分の弱さを、アツマくんに見せすぎてるんだ、わたし。
前はアツマくんに強がってたのに。
自分に甘えちゃダメ、自分に甘えちゃ。
わたしは強いヒロインにならなきゃ。
小説の主人公のお相手役じゃだめ。
しっかりしないと。
なんでも自分で解決しなきゃ。)
愛はテーブルの上にある文庫本を手に取る。
愛(そりゃ、これまで、「ひとりじゃできなかったこと」も何度かあったけど。
もう子供じゃないんだし。
なんか、今朝のわたしの態度、アツマくんに依存しすぎてるのが見え見え。
バカだな、わたし。)
愛(--でも。
夏休みとはいえ、平日の朝から、こうやって大きなリビングにひとりで居ると、なんだか変な感じだ。
なにか、空虚なものが、胸にたまってる感じーー。)
愛は文庫本をめくり始めるが、数ページ読んだだけで閉じてしまう。
愛(あれ……? この小説、前は大好きだったのに)
愛(おかしいな、飽きちゃったんだろうか)
『ガチャッ!』
『バーン!!』
愛「え……(;・∀・)」
玄関のドアが開く音だよね、いまの。
まさか……ドロボウ? そんなばかな……。
『ドドドドドド』
「愛!!」
愛「(今までになく驚いた顔で)あ、アツマくん!?」
愛「ちょっと、どうしたのよ、夏期講習は!?」
アツマ「お前の様子がおかしかったから」
愛「わたしのワガママのせい!? それで戻ってきちゃったの!? わたしが変なお願いしたせいで」
アツマ「うっせえ!!!!!! お前は悪くねえ!!!!!! 誰も悪くねえ!!!!!
悪いとしたら、おれがお前の感情を理解するのができなかったことだ!!!!!」
愛「感情って、理解って、当然でしょ? 他人のこころがわからないのは」
アツマ「愛、お前、さみしかったんだな? おれがいなくて」
愛「どうしてわかるの……」
アツマ「わかんねえ」